呪
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南側の大きな窓から午前中の生気溢れる日差しが入る執務室の奥に、明周の私室と寝室がある。
主人が眠り続けていてもこの部屋は側近達の手で常に清潔で心地良く保たれている。
その快適な空間の中で、今は敢えて、直射日光を避けた場所に移されたベッド。
朝日で目覚めることが好きな明周が日陰に置かれたベッドに横たわっている。
(ああ、今日も息をしていらっしゃる......。)
良かったと周は思う。
あれから、明周は目を覚さない。
周の目でよく見れば、心臓の辺りを中心にところどころ黒いモヤのような小さな塊が有る。
魔女の呪......。
我が君のお日様色の気が、これの拡散をかろうじて食い止めているように見える。
もし、魔女の狙い通りにこれを私が受けていたら.......。
あの瞬間に、私と繋がる防御結界を介して呪はアルカナ中に広がっていたのだろう。
最悪の事態は、回避することができたと考えるべきなのだろう。でも......。
(気持ちを切り替えなくては。)
「我が君、どうか......。」
細心の注意を払って周は『浄化』を行う
明周の身体の隅々までゆっくりと魔女の呪を探し浄化する......。
最近の日課だ。
毎朝、丹念に浄化をしても翌朝にはまた呪が明周の生命をじわりじわりと蝕んでいく。
(成長する呪.....?押さえ込む気......。
何か......引っかかる。)
もう少しで何かに辿り着けそうなのに、辿り着けない。何かが足りない......。周は思考を巡らすが、これといった答えは今日も出てこなかった。
明周の私室から出ると、扉の前で待機していた侍女と目があった。
周が、軽く会釈すると、気まずそうに俯かれてしまった。
ーーーー
「揃ったね。」
爽の一言を合図に、資料が皆の手元にあることを確認して愁が口を開く。
「現在、アルカナに魔女の気配は確認されていません。
また、周くんの防御結界も順調に自立稼動への過程を辿っています。」
愁は言葉をここで区切り周に視線をやる。
「そして、これは周くんの仮説ですが、魔女は防御結界の影響を少なからず受けている。」
周は愁の言葉に頷く。
そういう風に作ったのだ、制限を受けてもらわねば困る。
それに、何の影響も受けないものが構築されようがされまいが、構う必要はない。
それでも魔女は邪魔をしに来た......。
それこそが、答えなのだろう。
「ちょっと待てよ!結界の影響があるなら、居ないわけないだろう!」
「その矛盾が肝なんだよ。」
「分かるように説明しやがれクソ眼鏡。」
思わず立ち上がった勇が、どかりと音を立てて椅子に座り直す。
「おや?もう降参かい?」
仕方ないねと愁が資料を指し示す。
「魔女は時間に逃げ込む?」
資料に目を通した爽が信じられないと呟いた。
突拍子もない話だ......。
しかし、
まず、魔女は過去何度もドワナ大陸の名だたる英雄によって封印されてきた。
魔女封印の地を巡るだけで何日もかかるツアーが組めるほどだ。
何故 封印はことごとく破られる?
歴代の英雄の詰めが甘い......。
それは考え難い。
ならば何故?
魔女には封印もしくはその概念そのものが通用しない?
そもそも、捉え方、存在の枠組みが違うのでは?
例えば平面の囲いを立体に逃げるような......。
三次元から四次元に.....。
魔女は....時間に....逃げる。
堂々巡りの末に周が辿り着いた仮説......。
時のドラゴンがあれほどに敵愾心むき出しになるのもこの仮説を後押しした。
魔女はあらゆる時間に逃げ込む。
会議室に重たい空気が流れた。
一度止まった部屋の空気を動かすように愁が質問を投げかけた。
「では時間に逃げ込む魔女を仕留めるには?」
「捕まっていない時間が無いくらいガンガン捕まえる!」
「ほう、言霊使い一世一代の大技を使って。ありとあらゆる時間の魔女をくまなく封印すると?
効率が悪すぎますね。アルカナに何人の言霊使いがいるとお思いで?」
更に、
「人道的観点からも、ちょっといいかな?」
ちょっと思い付いただけじゃん。と勇は抗弁するが大人二人の口撃が止まらない。
「どの時間に逃げても間違いなく追跡し。髪の毛一筋残さぬようにその存在を消し去る......。」
暗い目をした周がつぶやいた。
その為には
何としても時のドラゴンに会わなくては。
会議を早々に切り上げた周は、北の森に向かった。




