アルカナ防御結界
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任命式直前の打ち合わせに現れた周の、略式装束を見た爽は眩暈にも似た頭痛を覚える。
「周......。何故略式なのかな?」
爽が素早く駆け寄ると引き攣った笑顔で周に問う。
「こいつ、着替える気とか全然なくて、昨日からずっとその辺で作業してたんだぜ。飯も風呂もすっぽかしてさ!」
視線を逸らす周とは対照的に、略式装束でも着せたことを褒めて欲しいと勇が経緯を捲し立てる。
そこに居合わせた者たちから盛大なため息が起こった。
「だ、大丈夫だ。直前まで作業していた割には、すっきりしている.......。くたびれた感じは....まあ、していない。」
そんな中、健気にも明周が周を擁護する、内容は微妙だが......。
晴れの日に普段着で臨もうとする臣下に「不敬だ!」と憤慨して良いはずの主君がそのフォローに回る......。
明周の人柄の良さに一瞬、心が温まった一同は強引に自身の認識を現実に引き戻す。
(違う。この主従は歪んでいる、このままではいけない。)
表面上は筒がなく、聖火任命式は粛々と執り行われた。
立ち居振る舞いも口上も完璧、惚れ惚れするようなアルカナの守護者の誕生だ。
装束さえ正装であれば......。
その後。
周にとってのメインである、大規模な結界が構築される。
『言霊』
『不可視の防御』
辺りの気がわずかに周の気を纏い、何事もなかったかのように霧散した。
(アルカナ防御結界)
ここ数年急増した魔物や魔女対策として、周が構築した結界だ。従来の硬質的な物ではなく、柔軟性に富み、条件で受け入れる物と拒む物を選ぶ。
優しくゆるい護りの結界。
受け入れられた者や物には何の違和感も感じない。
これならば日々の生活には支障がなく、
悪しき者のみが排除、もしくは閉じ込められる。
そして、術者一人の力ではなく、アルカナ全体の力で回すことの出来る、ほぼ永久稼働も視野に入れた結界。
周いわく、やわらかい結界。
「なんか、出来あがっちまうと呆気ないもんだな。」
あちこちへの交渉に同行させられた勇は思うところがある様だ。
「感無量だよ。」
同じく爽も、凱も静かに頷いている。
「まあ。よくもここまで無理を通したものだ。
言霊使いの真骨頂。恐れ入った。」
愁は何となく楽しげに見える。
「なんか全然実感が湧かないな。」
明周がふとそんなことを言う。
「だよな!もっとこう空気に色が付いたり。せめて、闘気を孕ますとか?」
勇がそれだとばかりに自論を展開する。
「いや、勇それはもう防御じゃなくて、宣戦布告だな。」
皆が笑う。
「ほんと頭にきちゃうわ......。」
女の声が聞こえた。
「えーなんだよ。俺、馬鹿枠かよ?」
「まあまあ。これで邪な物の行き来が分断されるなら、なんだって良いじゃないか。」
「良いわけないでしょ?お前たち舐めているの?」
「え?」
いきなり膨れ上がる気、凱は陽光を背に庇い、周は明周を背に庇い声の主を探す。
「あら。多少はできる子だと思っていたのだけれど......。
とんだ見込み違いだったわぁ。」
魔女の気が一気に膨らんだ。
周の背後だった。
「大きな力を使って、気が抜けちゃったのね?うふふ......。
あっおーい。」
さも楽しそうに魔女が笑う。終わりにしてあげると。
その場に居た剣士という剣士が全員、鯉口を切る。
魔女の気配に殺気がこもる。
「周!」
大きな悪意と殺気の塊が背後から周を飲み込もうとした時。
明周が自身と周の間のそれに突っ込んだ。
「我が君!」
周の顔から余裕が消える。
考えるより先に身体が動く。
剣士の感だ。
これは決して人が触れてはならない物だ。
ありったけの力を込めて魔女の気配を纏う空気と明周を切り離す。
が、少しだけ遅かった。
「最高火力は……死守できたかな。」
「皆が無事で……良かった。」
「......やっぱり俺じゃ、戦力外だ......。」
魔女の瘴気に当てられた明周が、力なく崩れ落ちた。




