↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
71/98

晴れの日

お越しくださりありがとうございます

楽しんでいただければ幸いです。

アルカナの守護者は剣士の強さの象徴だ。


剣士なら誰でも一度は、自分がアルカナ三将の一人に.....と夢見るのは普通の事だ。


西の山の剣士の卵だった勇や周、それに詩も、剣士を続けていれば、いずれは守護者に.....と心のどこかで思っていた。

身体が大きく、力技の得意な勇は業火?

知略が得意で、槍を自在に操る詩は白銀の乙女、聖火?

剣技に長けた言霊使いの周が聖火?


ーーーーー


「あたしは猛火でいいわ。聖火が言霊を使えない.....じゃ様にならないもの。」

詩がニヤリと笑う。


「詩、お前緑色とか好きだもんな!」

勇がニカっと笑う。


「あんた馬鹿でしょ!猛火の装束は鉄色って言うのよ!緑とか身も蓋も無い言い方しないでちょうだい。ほんと趣きってものを理解しなさいよね。」

詩が小鼻を膨らませて捲し立てる。


「あはは、勇から見たら赤に緑に紺色かな?赤銅に鉄色に鉄紺だね。

でも、本当に三人で三将になれたら、とても素敵だね......。」

周がふわりと笑う。


「その前におっさんと爽兄には引退して貰わなきゃだがな!」

勇が悪い笑顔で詩と周の肩に腕をかける。


「それならまずは鍛錬だね。その時に誰もが認める実力者になっていなくては。」


三人で笑いだす。


共犯だな。共犯だね。共犯ね。


本気ではない、でも全くの出鱈目でもない、少年たちの淡い夢の時間。


ーーーーー

剣士棟の勇の部屋にて


今日の晴れの日に着る剣士の正装に身を包んだ勇が、文机の引き出しから古い小さなメモ帳を取り出して懐に入れる。

サンドラに嫁ぐ直前に詩が勇に託した戦術などの覚え書きが几帳面な字でびっしりと書かれたメモ帳。

使い込まれた緑色の表紙は年月と共に煤けてまさに鉄色と呼ぶに遜色のない物になっていた。


(皮肉なもんだな.....。)


主人が纏えなかった守護者の色を、その持ち物が纏う....。


ーーーー

ほんと、心配しかないんだけど!

ここにあんたの長所と短所。それから周とのコンビネーションの欠点・注意事項が書いてあるから熟読して、丸暗記なさい!

褒めてるところばかり読んで調子に乗るんじゃないのよ。

ーーーーー


これを渡しながら悪態をつく詩の顔を勇は今でも鮮明に覚えている。

そんな思い出に目頭が熱くなるのを感じた勇は数秒天井を見上げた。


「ったく....。しまんねぇーな。」

勇は後頭部を軽くかいて伸びをした。


(詩。周が聖火だってよ.....。)

(候補をすっ飛ばしていきなり聖火だぜ。)

(しかも文官剣士だってさ.....。

ほんと、訳の分からなさにかけちゃ歴代一だぜ。)

(お前も祝ってやってくれよ。)

(俺たちの周は最高だよな.....。)


「さて、盛大に祝ってやろうじゃないか。」


似合わない感傷の時間に区切りをつけて

部屋を出た勇は、いつもの自信家で快活な気配をまとい悠然とお披露目の会場へと歩きだした。



ーーーー

廊下を歩く事数分


勇は会場の方から歩いて来る周を見つけた。


「おう。こんなところでまだ作業してたのか?」


「あっ、勇。うん最初が肝心だからね......。私の気で水路を掘って.....。池に見立てた、アルカナ中に無数に点在する小さな神域を繋ぐ。後はそれぞれの力が循環して共鳴と増幅を繰り返し自然に結界が成立維持される......。」


「あー。難しいのはもういいって!それより、そろそろ打ち合わせの時間じゃね?」


「えっ?もうそんな時間、そうか、じゃあ行こう。」


「おい!ちょっと待て。」


来た道を戻ろうとする周を勇が呼び止める。


「お前、なんでまだそんななりしてんだ?」


「えっ、だって。昨日からずっと作業してたし.....。」


昨日からずっと?勇は眩暈を覚える。


昨日、西の山での打ち合わせから帰った後、王都の結界の微調整をずっとしていた。と周は言っているのだ。

晴れの日の前日に身を清めることも、睡眠を取ることも、勿論、着替えも食事も後回しにして作業をしていた......。


「着替えろ。今すぐだ!」

勇が周の首根っこを捕まえて剣士棟の周に与えられた執務室兼自室に向かう。


「何に?」

まだ事態が飲み込めていないらしい周が呑気に問う。


「正装だよ聖火(しょうか)の!」

まるで自分の部屋の様に勇が周の自室の扉を乱暴に開ける。


何も無い.....。すっきりとしすぎた部屋。


(......。)

周が目を逸らす。


「おい!」

勇の声が低くなる。


「無いかな......。」


「なんだと?無いってなんだよ!」


「だから......。高価な物でしょう?」


使ってない部屋には置けない。と周が謎の主張を始める。


「今から下宿先に戻ってる時間なんてないよ。勇.....。

意地を張らずにこのままで行こう?」


頓珍漢な事を言っているのに妙に常識人っぽく振る舞う周に勇が言いようのない苛立ちを覚えた時、壁に掛かる鉄紺の装束が目に飛び込んだ。あるじゃないか!


正装だろうが略式だろうが、灰色の文官装束よりは数倍マシだ。


周にそれを勧めるとなんとなく不満そうに周がそれを手に取る。

「どんななりでも、私は私なのに......。勘繰ってしまうな、もしかして、服が主役なのかと.....。」


(誰かこいつに社会的通念というものを教えてやってくれ.....。)

勇は本日二度目の天井を見上げた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。