だから、要りません!
お越しくださりありがとうございます。
「面倒臭いやつなのじゃ......。しかし、無視するともっと面倒臭い事になる。
一度ゆっくり話してみよ。」
池の精の唐突さには慣れたつもりでいた周も、これにはさすがに返答に困った。
この混沌劇の最中ふっと現れた池の精は、助け船を出す訳でもなく、いつもと変わらぬテンションでよりにもよってコレと話せと言う。
理不尽だ......。
周はなんとなく空を見上げた、天の川がとても綺麗だった。
ーーーーー
半日程前のこと
北の山の裾野に広がる森は不思議な空間だ、どこか人を拒絶しているような惑わそうとしているような......。
この不思議な空間のどこかにあるであろう
神域を探し勇と周は歩き回っている。
北の住人によれば、この森には昔大きな楠があり、皆の信仰を集めていたらしい......。もう随分前に消失しているが。
楠の有った場所も見たが今は普通の楠が数本生えているだけの当たり障りのないところだった。
無駄足に無駄足を重ねてとうとう日も陰ってきた頃に、勇と周は先程の楠のところで野営の準備に取り掛かる事にした。
まさか、野宿とは思ってなかった二人の本日の夕飯は質素だ、その辺の野草で適当に作った味噌汁に干してカチカチのご飯を入れた雑炊だ。
炭水化物好きの周はご機嫌だが、タンパク質好きの勇は少し物足りない。
近くの水場で鍋などを洗っていると、周の視界の隅でごそごそとトカゲが動いている。
(この感じは、よく知っている......。決して相手にしてはいけない。)
過去何度もこの種のパターンは経験してきた。目を付けられたら最後だ、いきなり自分語りが始まったり、心を抉られるような悪口雑言を浴びせ続けられたり......。兎に角ろくな事にはならない。
周は決して、そちらに意識をやる事なく仕事を片付ける。
ところが、勇がトカゲを見つけてしまった。
(タンパク質、見つけた!)
勇が勢いよくトカゲに小刀を振り下ろす。
「ダメだ!勇。」
周が勇の小刀を叩き落とす。
単純な力勝負で勇に周が勝つ事はほぼ無いが、スピード勝負なら周に軍配が上がる。
そして、食材をゲットしようとする勇とおそらく超越者であろう者の逆鱗から仲間を守ろうとする周では本気度が違う。
今回に限り勇に勝機は無い。
いきなり小刀を叩き落とされた勇が、驚いた顔でこちらを見るが、周に勇を納得させる時間は存在しない。
何故なら、
野蛮な人間から庇って貰えたと勘違いしたトカゲの視線が周を離してくれないのだ。
(人外なら人外らしくしていて欲しい。なんでそんな、小動物のような目で私を見るんだ?)
周は兎に角無視を決め込む、このままさっさと眠ってしまおう。
「えー、もう眠っちまうのかよー。ピロートークしようぜー。」
「うるさい!
私は寝る。だいたい枕なんてないじゃないか。なにがピロートークだよ。」
「枕欲しいのかよ?ほんじゃ、これでどうだ?」
勇がゴツい自分の腕をバシバシ叩いている......。
(ほんとに勇はなんなのだろう?)
「そんなゴツい腕じゃ首が曲がって息が詰まる......。」
おやすみと周は勇に背中を向けた。
「なあ、良いじゃん。一緒に寝よーぜー。」
勇がうるさい、うるさ過ぎる。周がきっと睨むとニヤニヤと勇が周を見つめ返す。
さっき小刀を叩き落とされた事を根に持っての嫌がらせか、単純に周の嫌がる姿を見るのが楽しいのか、
もう完全におかしなスイッチが入っている顔だ。
「なんで今?」
周は自身の運の悪さを恨んだ。
「周が構ってくれないからだろう?試しに構ってみろよ。直ぐに大人しくなるぜ。」
地面に横になっている勇がぽんぽんと自身の前の地面を叩く。
「ほんとに?」
「マジ、マジ。」
勇の真剣な顔を見た周は
静かに立ち上がって勇の隣におずおずと横になる......。
(......。)
ぬっと勇の腕が周を抱き寄せて押さえ込む。
(......!)
離れようと周はもがくが勇が鬼の体幹で押さえ込んでくるので逃げるに逃げられない。
「かかったな、周!お前ほんと素直過ぎだろ?」
普通来るか?などと、騙した本人が一番悪びれもせず。周の敗因をドヤ顔で語る。
「あー、もう!本当に、勇.....鬱陶しい。
この暑い時になんでくっつくかな!」
「先程の恩返し。好意.....しかと、受け取るがよい。」
(来るっ!)
相変わらずのしかかってくる勇の下で周は素早く印を結ぶ。
『言霊 障壁』
辺りが周色に染まり急ごしらえの障壁が周と勇の前に展開される。
間一髪。
直前の地面で超局地的な凄まじい竜巻が起こった。
どうにか障壁で防げたから良いようなものの......。
トカゲは恩返しと言ったが、この竜巻をまともに喰らえば、勇どころか周も無事ではいられない......。
恩返しなのか敵討ちなのか分からない、力の加減の大雑把さに眩暈がする。
やはり人外になんて関わるものじゃない。しかもこのトカゲは多分......高次の存在。
「いりません!お引き取り下さい!」
もう放っておいて欲しい、感情のままに周が叫ぶ。
「やはり、繋がっていた......のだな?縁は......。」
トカゲは見る間に大きくなり、巨大で威厳たっぷりのドラゴンに変わった。
そして.......。
語る、語る。
あれだけ周の視線や反応を欲しがっていたのが嘘のように、勝手に一人で喋り続ける。
そして、勇が合いの手を入れる、何故か入れる。
「お前になら協力してやっても良い......。」
ドラゴンが意味ありげな視線を周に寄越す。
勿論、周はスルーするが、勇は律儀に返答する。
(何故?)
「なんだよ、食材。」
ちょっと上からな勇が本当に怖い。
「一つ頼みたい事もあるのだ。」
「食われ方か?」
「そこの金髪頭は嫌いだ。」
「焼く!一択だよ。」
「魔女も好かん!」
「魔女は食えねぇ....お前魔女を食うのか?すげぇ、食物連鎖ってやつか?」
「我は時の龍。」
「トキの理由?なんだよ?」
「崇め奉られるのはやぶさかでは無いぞ......。」
「周、この森、薮と坂が無いらしいぞ!」
「よう分からんがサンキュー。」
勝手に喋る二人?の会話が奇跡のように噛み合った時、池の精が現れた。
助かった!
不覚にも周はそう思ってしまったのだ。
甘かった......。
私の結界にこんな高次の存在は要らない。この事実をどうやったら、この存在のご機嫌を損ねずに、理解してもらえるのだろう。
周のながい夜は、まだまだ続く......。




