言霊開眼の儀式
いつも有り難うございます。
アルカナ版七五三と思っていただけると嬉しです。
それでは、お楽しみください。
10歳あたりでアルカナの民は神意を計る儀式をすることになっている。
すなわち言霊を扱えるか否かだ。
ごく稀にではあるが、神は人にその力を少しだけ、貸してくれる。助力の証は印である。
丸は大地の女神からの助力を
交差は風の神からの助力を
菱は星の神からの助力を
そして貸して貰える力の総量の数字がそれぞれの印の下に付く1や2でも御の字だが、時々怪物級が現れる事もある。
本日、西の山の道場の門下生たちも言霊開眼の儀式をお行う。
信の道場からは勇と詩それから周。麓の道場からは遙だ。
神の意思を伺う準備。禊を済ませて町の集会所に設けられた祭壇の前で神職のじい様の到着を4人はお行儀よく待つ。
筈なのだが。
「おい。なんでお前がここにいるんだよ?」
「え?言霊開眼の...。」
「使えるよな?お前、普通に使ってるよな?」
「使ってる。」
「使ってるわね。」
「...でも、神意を伺ったことはないから...。お師匠さまが、一度しっかりと聞いてきなさいって。」
「「「師匠!」」」
3人は天を仰いだり項垂れたり、様々ではあるが、なんて雑な結論を出されたのですか!と憤りを身体で表した。
神職のじい様は師匠の信よりは若いが超高齢者だ。元気そうでも、無理の効かないお年ごろの高齢者に、なにも不必要な神事を頼まなくていいのではないか?詩はじめ西の山の子供達はため息をついた。
詩は思う。
そもそもなぜ、こいつは馬鹿正直に儀式を受けるつもりなのだろう?アルカナ戦記ゴッコで散々とんでもない音響と演出を披露していたアレで、もう十分だろう?と
「あんた、菱四...。」
「あれ?カッコいいよね。頼さまと一緒。」
「...!」
「待て。詩ちゃん、早まるな!真相に辿り着けない!」
「もういいじゃん!周だぜ?」
じい様が到着するまでの僅かな時間で、もう神聖な空気が台無しだ。
これは、もう一度禊からやり直した方が良いのではないだろうか。
せめて気を引き締めようと、3人は眼を閉じた。
言われてみればと周も考える。
言霊。記憶を無くす前にどこかで、自分は開眼の儀式を済ませていたのだろうか?
桶になみなみと注がれた水を普通に持つことが出来るようになった頃。自分が言霊を使えることに気が付いた。
印が必要なことを知ったのはわりと最近だが。
他の言霊使いの真似をして。自分も印をむすぶようにした。それも与えられたというよりは、自分で選んだものなのだが。憧れの頼さまとお揃いで良いかな?その程度だった。
ーー周の言霊ーー
ほぼ無意識に近い使い分けで普段の言葉と言霊の境界を行き来する。この稀有な技は、さすがの信の眼をもってしても、言霊と呼んで良いのか判断に迷うものだった。
分からんのなら、聞けば良い。と信はこの難解な課題を 村の神職に丸投げしてみたのだった。
もう周は周で良いんじゃないかそんな、あまり賢そうではない結論がでかけた頃じい様が現れた。どうやら今日は、膝の調子がすこぶる悪いようだ。
「じい様ごめんな。俺たちの為に。」
麓の道場在籍で比較的町の情報に明るい遙が声をかける。
「何。コレもお仕事。お仕事。」
それに一回りも上の信さまに遅れをとるようでは。アルカナ男子の名がすたるというものだ。と、じい様が笑う。このじい様、意外と武闘派かもしれない。
「じゃあ適当に印の形を手で作ってみなさい。」
ひと通りの印の説明のあとじい様が言う。
相性の良いモノは何かしら変化があるからと。
「ああ、秘蔵っ子。お前さんはしなくて良いよ、後からゆっくりな。そっちで静かに待っていなさい。」
じい様が慌てて周に指示を出す。間違えても応援とか、そう、言霊っぽい事も考えてはいけないよっと。
周は指示通りに部屋の隅っこにちょこんと座り、絶対に開くまいと口を真一文字に結んでいる。
ーー
大切な仲間たちの開眼の儀式だ。是非ともうまくいって欲しい。応援と言霊を考えちゃ駄目だったよね。うん!理解した。考えない、考え無い。言霊のことは考えない。みんなの為に言霊は....
「秘蔵っ子!」
目の前のじい様の声に我に帰ると皆の視線が痛い。詩などここが町の集会所でなければ確実にしばき倒される怒気を纏っている。
あ。やってしまったのか?ちょっと過程は納得できないが、結果は判る。
どうしよう。
ーー
「想定が甘かったようだな。秘蔵っ子、お前さん意外に不器用なところがあるんだなあ。」
半べその周の頭をぽんぽんと軽くたたくと。それなら少し手伝いを頼みたい、と神職のじい様が提案してくれた。
「やることは簡単だ。
神様方に3人の資質を聞いてみてくれれば良い、お前さんからの紹介は要らない。
あちらはなんでもご存知の神様方だからね。
ただ、ここに居る3人に、力をどれくらい
貸してもらえそうかを伺うんだよ。」
祝詞はコレ読めるよね。
と訳のわからない呪文の書かれた紙を周は神職から受け取った。
結果は...該当者無し。
「えっと。皆とても真っ直ぐで面白いって。でも今生は其々の道を極めなさいって。」
少々気まずくはあるが。与えられた仕事はきちんと、こなさねばと周は懸命に神々のことばを綴る。
「まあ、そんなもんだよな。」
「当たればラッキーくらいだし。」
「大丈夫。あたしには、あんた(手段)を上手く活かせる自信があるから。」
など意外とケロリとした3人が、なぜか1人落ち込む周を囲んでワイワイやっていると
祭壇で何か作業をしていた神職のじい様がこちらにやって来る。
「さて、秘蔵っ子。ちょっとあちらで、わしと話をしようか。」
「ああ、お前さん達はもう帰って良いよ。」
お疲れさん。と、参加賞のちょっと甘ったるくて長い飴を、3人に渡し、じい様は周を奥に連れて行ってしまった。
遙と勇が詩の方を見る。
おかしい......。
さっき周はなんと言った?
普段の開眼の儀式であんなことはあったか?
そうだ。神の意を推し量るのが普通。直接聞くは...。
引き抜きだ。
あのジジイ、後継者を見つけやがった。
詩は心の中で毒づいた。
「遙、あんた、お師匠様に事のあらましを説明して、直ぐに来てもらって。」
「おう!」
「勇!うち(詩の実家)の馬を借りて今すぐ凱さんか爽兄様を連れてきて。」
「何処にいるか分かんねーよ。」
「大丈夫。任務帰りは基本的に2人ともこっちによるから。あんたの勘で行ってきて。」
「無茶苦茶言いやがって、行ってやるよ!」
いいね。これは時間との勝負だよ。
死ぬ気で駆けなさい。
2人に指示を出し終えた詩は自分に言い聞かす。この勝負絶対に負けられない。あいては百戦錬磨の神職だ。お人好しの周など簡単に丸め込まれる。気がつけば空いた時間のお手伝い。その内この辺りの神事全般を取り仕切る周の姿が容易に想像できる。そうは、させるものか。周はうちの子(信の道場の門下生)だ。
気を引き締めよう。
私の役目は単純。時間稼ぎだ。あの馬鹿が情にほだされて、はいとかふざけた事を言い出す前にささっと奥の部屋に乗り込むとしよう。
今回もお付き合い下さりありがとうございました。
10歳くらいの子供にとっては、きっと大事件なんでしょうね。
お友だちの転校未遂って.....。




