やわらかい結界の布石1
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ちょっと急ぎたいと言う周の提案で夜の街道を馬で駆ける。整備された王都周辺の道から徐々に地方の整備がゆるい街道へと景色が変化して行く。
環境に合わせて速度を変えながら進み、しまいには降りて馬と一緒に歩く。
夜の闇の中を駆けるのは流石に危険との判断からだ、大事な馬を潰す訳にはいかない。
二人と二頭は暗い林道を進む。
西の山が近くなり多少道が良くなり始めた。
「俺、要るのか?」
勇が問う。
「勇でなくては出来ない。」
周が強い口調で肯定する。
しかし、勇には納得出来ない。
西の山に出向いていた周が王都に着くなり言い出した新しい結界作りへの協力。
勿論、二つ返事で勇はこれを引き受けた。
しかし、行き先が西の山.......。
それなら、周が済ませて帰って来れば良いではないか。何故また長い時間をかけて西の山へ折り返すのだと、周らしくない、この酷く効率の悪いやり方に勇は憤りを覚える。
西の山麓の町外れ 大きな池にて
「おい......。ここは。」
勇の声色がひくくなる。
「私では蟹は答えてくれないんだ。」
勇頼むと周は言う。
「ふざけんなよ!」
勇が叫ぶ、蟹はあの日子供を守って死んだのだ。
それは勇も周も、その目で見ていたではないか。
なんと悪趣味な......。
「お前がこんなことする奴だなんて、見損なった!なんだよ!結界に人の怒りでも必要なのかよ!」
勇が怒りに任せて怒鳴り声をあげる。
「......?」
周が困った顔をするが勇の怒りは収まらない。
とにかく、ここから一度離れよう、こう頭に血が上っては何も始められない、勇は池から離れようと歩き出した。
「蟹は居るよ。ずっと......。身体が石になってしまったけれど、心はここに......。」
立ち去ろうとする勇の背中に周が静かに説明する。
「えっと......。まだ世界に馴染みきっていないから、私の声では蟹に届かないんだ、縁の深い勇の声なら、なんとか届くかと思って。」
周が真っ直ぐにこっちを見ている。
勇はため息を吐く。
(本当....言葉足らずだよな.....。俺の相棒って。)
「叫べばいいのかよ?」
怒鳴ったことへの照れを隠すように勇がぶっきらぼうに問う。
「音量は関係ないよ。ただ、気持ちを乗せて声に出してくれたら。」
こんな感じかと勇が声を出す。
「おい、蟹。」
何も変わらない。
「おい、ちょっとは強くなったのかよ?蟹。」
水面が微かにざわつく。
「見れば判るだろう、緑眼の主人よ。
この池には藻が存在しない.....。」
これこそが答えだとなんだか偉そうな蟹の声がした。
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今まで蟹が鍛え蓄えてきた個としての護りの力.....。これを更に大きく、そして広く使える環境.......。
蟹は二つ返事で協力を約束してくれた。
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「アロエも大乗りだったし、やっぱり縁の深い存在は有難いね。」
帰り道に寄った信の道場の縁側で、周が洗濯物を畳みながら、ほくほくしている。
「まあ....結果オーライってやつか?」
勇も出された茶菓子を口に放り込みながら相槌を打つ。
「うん、勇のお陰かな?」
ありがとう。と周が笑う。
腰のポーチから裁縫セットを取り出して繕い物をはじめる周に桃が声をかける。
「あー兄様、どうせならこっちのを使って下さい。」
使い込んだ道場の裁縫箱、西の山時代の周の愛用品だ。
久々に帰ってきた兄弟子に家事を頼む桃と、それをなんの疑問も持たずに引き受ける周......。
歪んでないか?勇は手伝わない自分が異端なのだろうかと首を捻る。




