体力勝負?いいえ気力の勝利です2
お越し下さりありがとうございます。
練習場にて
「お前の弱みは研究済みだ!」
「省エネで戦っているだろう。見ればわかる。」
「体力に不安がある証拠だ!」
一気に大技での殲滅など、させてやるものか!ちまちまと少人数を相手に体力を削られ、最後は数の論理で敗北を味わうが良い。
ドヤ顔で剣士たちが周に言い放つ。
渾身の作戦を.....。
戦闘前にこれを言い放つあたりが少々心配になるところだと周は思う。
でも、嬉しいこともある、ちゃんと見ている......。
そう、自分は勇や凱さまの様に無尽蔵の体力は持っていない。
これが私への付け入る隙だと、剣士たちは見抜いているのだ。流石、王都の、お城の剣士だ。
私がずっと憧れた王都の剣士は幻想ではなかった。
書類をほっぽり出して回収者の鈴さんに凄んでいるだけの、ならず者ではない。
ならば私も全力で彼らの闘志に挑まなくては.....。
周の口角が上がる。
練習着に練習用の剣を持ち周は剣士たちに向き直る。
「よろしくお願いします。」
着るものが変わるだけで、いっぱしに見えるのが不思議だと首を捻る者。
決して雑に扱われてはいないが、使い込まれた稽古着を見てうなる者。
少し思うところのある者などもいる様で剣士の中にも温度差が出始めている。
もっとも、怒り心頭に発する勢いの剣士も多いが。
「最初の一人は私が指名しても良いと聞きましたが、本当によろしいですか?」
周は大きな声で確認を取り、凱を指名する。
剣士たちの温度が変わる。
敬うべき剣士の象徴、アルカナの守護者を、一人目に指名されて気持ちの良い剣士などいない。
(まあ、こうなるな。)
空気の冷え切った練習場を見渡し周が苦笑いを浮かべる。
しかし、考えて欲しい。
大人数を相手に疲労困憊になるまで戦った後にラスボス戦など現実的ではない。できるなら、ベストコンディションで最強とは渡り合いたいではないか。
これくらいの我儘は大人の余裕ある態度で受け入れて欲しいものだと周は思う。
「ほう。まさか、指名されるとはな。」
凱がゆっくりと歩み出る。
「最強の剣士には、ベストコンディションで挑みたかったので。」
周がイタズラっぽく笑うと凱がニヤリと返す。
「そうか、なら此方もそのつもりで行こうか。左手は使わずにおいてやる、勝ってみろ。」
強者の貫禄たっぷりに凱が言う。
「困ります。」
身も蓋も無い返答が周から返ってくる。予定が狂うから加減はしてほしく無いと。
(予定?何を企む......ちび助。)
「その代わり、私もこっちを初手から使わせて頂きます。」
周が印を結ぶような身振りをする。
凱は抗魔力が高い、並の魔法では絡め取られない、だからこそ、自分を捕らえる可能性がある周の言霊には少なからず魅力を感じる。
この手で発動を阻止してやりたいと。
「いいだろ。剣士と言霊使いの戦いということだな?」
乗ってやると凱は不敵に笑う。
ーーーー
当然のことだが、言霊は言葉が出なければ発動しない。流石の周もこの理の範疇にいる。
ーーーーー
約束の印を結び言葉を綴る。
ことが現在の周には出来ない。
凱の怒涛の攻撃に周は印を結べずにいる。周の印は菱、両手印なのだ、印を結ぶ為には剣を手放さなくてはいけない。
凱はそこを突く。
最初の言霊を阻止されてからずっと周は後手に回っている。
圧倒的な体格差は間合いの違いを生む。
間合いの差は勝敗に直結する。
凱の切先は周に届くが、周の切先は凱に掠りもしない。
それでも周は凱の攻撃を懸命にいなし、隙をついては間合いを詰める。
何度目かの受け流しのタイミングが僅かに遅れた、剣に乗った凱の攻撃力を完全には無効に出来ず、鍔迫り合いの形を取ることになった。
単純な力比べでは周に勝ち目はない、凱は勝ちを確信する。
その時、周が凱に少しだけ笑いかける。
「ところで凱様、私の『言霊』に印は必ずしも必要では無いと、ご存知でしたよね?
少しばかり効果は劣りますが。」
『礫』
無数の礫が空中に形成される、ただの石ではない。サヌカイトの礫......。
「今日は派手な物を選びました、お楽しみください。」
それが一斉に凱目がけて降り注ぐ、凱は剣でそれを叩き割る。
カーン、カーンと小気味いい高い音が辺りに響く、サヌカイトは鋭利に割れる。
無数の石が凱の斬撃で鋭利な石のナイフへと変化していく。
切れば切るほど、叩けば叩くほど、難易度を増す防御戦を強いられる凱が礫を跳ね上げながらチラリと目をやる。
周は剣をしまい、印を結ぶ。
(次が来る!)
(ちび助の切り札、言霊の重ね掛け。)
凱は身構えた。礫の増量かそれとも新たな仕込みか、いずれにしても自分自身には並みの言霊は無効。今回も間接的なものだろう。
さあ、どう出る?
『加えて』 『加圧』
凱のまわりの特に上部の空気が密度を急激に増す、その圧に立っていられなくなり凱は膝をつくが、どんどん増す空気の重さにその姿勢もキープできず遂には地面に這いつくばることになる。
(何故?)
抗魔力が高い自分に言霊は無効の筈......。
凱は混乱する。
そして、這いつくばった凱目がけて、先程、凱自身が跳ね上げていた礫が降り注ぐ。
「凱様!」
外野から悲壮な声がする。
これは本当に模擬戦なのか?あれは本当にただの文官なのか?
それ以前にあれは、アルカナの民なのか?
黒髪に金の瞳、黒衣の魔女の色をその身にまとい、あり得ない術を使う者。
アルカナの守護者を狙う者。
アレの真意はアルカナの守護者の排斥だったのでは?
外野の剣士に焦りが広がる。
あれでは、動けない凱様は、無事では済まない。アルカナの守護者を守れ!
剣士たちが一斉に駆ける。
礫が、我らが守護者に届く前に何としても術者を仕留めろ!
凱への忠誠心の高い者ほど早く動いた。
自身の限界を超えた踏み込みで脚が悲鳴を上げる。
それでも、それを気にすることもなく剣士は周の背中に切り掛かる。
(命に変えてもコレを仕留める!)
カキン!
剣士の剣が弾かれる。
凱を凝視したまま、後ろを見もしない周の剣が、剣士の渾身の一撃を弾く。
次々と繰り出される、他の剣士の斬撃も同様に周に届かない。
恐ろしく長く感じた一瞬の攻防。
そして、礫が降り注いだ......。
凱の居た辺りは降り注いだ礫が巻き上げた土埃で何も見えなくなっっていた。




