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何か、ついてる?

 王都管理局内エントランスにて

「おはよう。」

鈴の声に玄関まわりを掃き清めていた周が顔をあげる。

「.....おはようございます。」


「このまま一緒に管理室まで行っちゃう?」

鈴の言葉に掃除道具を手早く片付けて周も職場の管理室へ向かうことにした。


「鈴さん.....昨日の帰り道、どこかに寄ったりしました?」

階段を上りながら珍しく周が話を振って来る。


「どこにもよらないよ。」

鈴が不思議そうに答えると周は曖昧な笑みを浮かべて、鈴の左肩を優しく払う。


「落ち葉かな?何か付いてますよ。」


ーーー

「あ、外周広場ですか?私もお供します。」

「お昼ご飯ですか。私も一緒しても良いですか?」

今日の周くんは少しおかしい....。何故かずっと一緒にいたがる周に鈴が違和感を抱く。


そして、どちらかといえば口の重い周がよく喋る。


昨日は何をした?最近変わったことはないか?今心に引っ掛かっている事はないかなど矢継ぎ早に質問して急に黙り込む。

そして、

「鈴さん、今日帰りにお邪魔しても良いですか?」

ごく自然に尋ねる周に釣られて良いよと言いそうになり、鈴は気を引き締め直す。


駄目よ、この子の常識をきちんと育ててあげなきゃと。


「えっとね、前にも言ったけど周くん、そう言うのは良くないよ。

年頃の女の子のお部屋に急に行きたいとか、無神経でガサツな人に思われちゃうよ?」


お姉さんが言うこと分かるかなと鈴はどこまでも純粋に周のことを心配している。


こう言われては周には取り付く島がなくなる。


(一度、根本的におかしな物を締め出せる結界でも張っておきたかったのだけれど.....。)


ーーーー

鈴の肩にある妙な気配。


善良な上に押しの弱い鈴は何かしらの思念や情念の残骸の影響を受けやすい。

だいたい三日に一度は何かしらの存在を連れて歩いている。

本人が気付いていないのが幸いか、むしろ厄介なのか.....。


今回、鈴に憑いているのは小さいおばさん。


詮索好きで目端が効いてお喋り、そして面倒見が良い。


今回のはシンクロ率が高い分、比較的やっかいな部類なのだが本人には憑かれてる自覚が薄い。


そして厄介ではあるが緊急度は低めだ。


まわりにおばさんの声が聞こえている者は周だけなので現在の被害は周一人に集中しているからだ。


「あらーダイエットとか言って本当は金欠なのね。ご愁傷様。」

「まあまあね、可愛いって言うから見に来たのに十人並みね。って根性悪い娘(こ)ね。」

「そう新婚さんだものね。うふふ腰は大事にね。」


鈴のまわりで同僚達の聞きたくも無い暴露話しをエンドレスで話ている。


アロエの方が幾分ましだったと周は思う。


鈴の机にお茶を置きに行った時おばさんと目が合ってしまった。


(まずい......。)


周は視線をそのままで焦点だけを少しぼかす.....。


(方向がたまたま被っただけに見えてくれないかな。)


「おい、ちんちくりん。」


おばさんが周にまとわりつく、悪口雑言を浴びせながら。


(鈴さんには下世話な暴露話だったのに....。)


待遇の違いに抗議したい気持ちを堪えて無視を続ける。


「健気ね。誰にも気付かれてないのに!肩替わりのつもり?あの子によく思われようとしても無駄よ。ちんちくりん。」


「あの子はあそこのイケメン眼鏡にほの字なの!」


「残念ね。男は身長よ、身長!分かる?ちんちくりん。」


おばさんの口撃に耐えること数時間


いつものように隣の机にいる葵が書類を回してくる。


「気を付けなさい。こいつは、あの子に気があるの.....。だから、あの子に構われている、あんたのことが嫌いよ。

見かけの愛想に騙されてはダメよ。」


(あれ、何か。論調が変わってきていないか?)


周は視線を上げてまわりを見た。


部屋の空気が酷く澱んでいた。

ーーー

おばさんのいやらしい妄言は皆には聞こえていない.....。


なのに皆、おばさんの妄言の影響を受けているように見える。


ーーー


空気がギスギスしはじめた。

肩が触れた。

椅子を引く音が気に障る。

何かにつけてお互いにお互いが許せない狭量な心が王都管理室を飲み込んでいった。


(まずいな.....。)


先程まではただの噂話好きの何かだったものが見る間に悪意ある何かに変容していく。


そろそろ何とかすべきかと思案していた周は嫌な可能性に気付いてしまった。


(原因は.....私?)

鈴のまわりを漂っていた時は善良だったものが、自分に絡んできたとたんに悪意ある物に変わっていく......。


(凶事の化身。)


思い出したくもない幼い日の記憶が頭をもたげる。

周は無意識にこぶしを握りしめた。



「ねえ、何だか今日の空気、変よね?」

大きな声での話は誰かを刺激しかねない、鈴はそっと周近づき、囁やいた。


この殺気だった室内で平常と変わらない鈴の人懐っこい笑みにつられて、周も肩の力が抜ける。


不必要な力みと一緒に不要な思考も抜け落ちたようだ。


(反対か.....。悪性のものが、鈴さんの善性に影響されて、面倒くさいだけの何かになっていた......。)


つまりこれは、排除するべきものだ。


「鈴さん、少しそこに立っていて下さいね。」

自分から離れないよう鈴を言い含めて周は印を結ぶ。


『言霊』

ふわりと辺りが周の気をまとう。

『浄化』


王都管理室中心に緩く柔らかく浄化の気が活性化されその役目を全うして霧散していった。


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