明周、剣術の爽快感を体験する。
お越し下さり、ありがとうございます。
相変わらず、石の好きなうちの主人公です。良かったら読んでやってください。
きっかけは周のぽつりと漏らした一言だった。
「王都は整備された美しい公園が多いですね。」
一見王都の住環境への単なる感想、しかし周の瞳に宿る感情はどこか寂しげで、明周の心をざわつかせた。
美しくない公園が好き?一瞬ゴミだらけの公園を嬉々として掃除しまくる周が脳内に再生されたが、流石にこれでは無いと明周が思い直す。
美しく整備された公園の反対側......。数日考えて明周は自分なりの正解に辿り着いた。
周は西の山育ちだと聞いた。ならば、そこに広がる景色が見たいのではないだろうか?
この考えを確める為、明周は聞き込みを開始する。
もっとも、あまり要望を口にしない自分が不用意に西の山などと口にして、開発の波が西の山に降り掛かっては本末転倒。
明周は慎重に情報を集める。
表面的には穏やかに、本心は根掘り葉掘りの情報収集を根気よく続ける事数ヶ月、明周はやっと適当な候補地を見つけた。
王都の外れの古い展望台から眺める景色がなかなかの郷愁を誘うと爺婆推薦の王都田舎見えポイントなのだそうだ。
夕方王都管理局への回廊を心の中で鼻歌を歌いながら明周はゆったりとしたペースで歩く。
いつも他者の利益の為ばかりに一生懸命に働く周が、自分へのご褒美の眺めを見つけてくれる事を願って。
昨日の夕方。明日の仕事が片付いたらと約束をして別れた周が、明周の部屋の窓下にいる......。
日も上りきらない時間にだ。
なんとなく身なりが昨日と同じな気がする、多分、職場に泊まり込んで今日の分の仕事を終わらせてきたのだろう......。
明周はやや見当違いな方向へと舵を切る周の忠誠心に心の中で注意をする。頼むから、自分を大事にしてくれと。
言っても聞かないので口には出さないが。
ーーーー
「......。」
「どうだ?いい眺めだと思わないか?」
「......いい眺めです。私の故郷にもこんな.....絶壁があるのです。」
景色を見るには最高なのだが、万が一敵に囲まれると少し厄介な場所で......。
だからあまり一人では訪れないようにと、小さな子には言って聞かせるのだと、周が笑う。
懐かしそうに、嬉しそうに......。今更ながら明周は住んでる世界の違いに目眩を覚える。
少し景色を眺めていた時。
不意に周がぐいと距離を詰めて明周の耳元で囁く。
どこから誰が見ても楽しそうに談笑して見えるくらいに、分かりやすく口角を上げながら。
「決して悟られてはなりませんよ。多分、刺客がいます。」
まだ遠くにですが三人ほど......。
先程と全く変わらない毒気の無い周の笑顔の中でその瞳だけが剣士のそれに変わっていた。
「俺の剣を貸そうか?」
「駄目です。文官の私が、殿下の武器を使うなど、後の波紋が大き過ぎます。
それよりも我が君、ご自身の剣で悪党を懲らしめてみられては如何ですか?」
「えっ、いやでも、俺の剣技は。」
「大丈夫です。向きと振り方と合図を決めましょう。」
周が軽く3つの動作の組み合わせを提案すると。
「えっ、ちょっと待て......。」
明周の目が泳ぐ。処理が追いつかないようだ。
「では二つの動作と向きだけ覚えて下さい。
私が我が君と呼び掛ければ右に向く。
殿下と呼び掛ければ左です
どちらもほんの少しだけ肩の角度を変えるだけです。大きなアクションは要りません。」
「こうか?」
明周がわずかに肩を左右する。
「じゅうぶんです。」
作戦会議などしているとは思えない柔らかい笑顔で周が続ける。
あとは縦でも横でもいいから剣を振る。
注意する事は二つ、決して剣を振り抜かない事と絶対に落とさない事。
出来ますか?
もうあまり時間がないと言いながら、周の気配は依然として柔らかい。
表情を管理する事を早くに教え込まれる王族の自分とはまた違った方向に進化した剣士の表情管理に驚愕しながら明周は周の指示を懸命に覚える。
その側で周がまるで花を手折るような仕草で、その辺りの石を数個拾い、手の中でゴリリと小さく砕いた。
「我が君を舐め切ったあの者達に、自身の認識を改めて貰いましょう。」
ーーーー
「我が君.....。」
明周のやや後ろに立つ周が呟く。
明周が右を向き剣を振る。どこに居るのかも分からない敵に向かって。
どこから現れたのか大剣を手にした男が地面に転がっている。
「殿下あぶない。」
妙に棒読みの周の声が聞こえる。
明周は左を少し向き剣を振る。
「ぐぅ何という剣圧.....。」
後ろの方で誰かが崩れ落ちる。
「おのれ!ここまでの手練とは、本気で行く。」
物陰から人相の悪い男が現れた。
「取り敢えずその方の首か胸あたりをぼんやり見ていて下さい。」
打ち合わせに無い単語に明周はドギマギしながらも剣を構える。
「殿下。」
明周は左に向き剣を振りおろす。
カキン、と。人相の悪い男の剣が地面に向けてぐんと傾く。
「殿下」
も一度左に向き剣を今度は左から右に振ってみる。
男の剣が身体ごと右に大きく傾く。
面白い......。
明周は今まで感じたことのない高揚感に震える。
なんだか分からないが自分がいっぱしの剣技を急に使えるようになった様に感じる。
それが周の仕込みからの錯覚だと分かっていても、明周は夢中で剣を振った。
振るたびに敵が地面に叩きつけられ、剣を取り落とす。
「もう、打ち止めです。」
周の声で我に返った明周の足下には人相の悪い男とその仲間が伸びていた。
「すごいな、夢でも見ている様だ。」
興奮冷めやらぬ様子で呟く明周に、周が悪い笑顔で囁く。
「石を砕くのも投げるのも得意なのです。これで当分は物騒な心配も減ると思いますよ。」
ここから数日の間、明周のチャンバラごっこに勇や周どころか爽や凱までが駆り出されることになった話はまたいずれ。
ーーおまけーー
「そうだ、勇!剣士は皆、石を手の中で砕くのか?」
「ああ......。周のか。石と石を喧嘩させて砕くあれな。あんなの周だけだな。」
「あ、やっぱり。」
明周は少し安心した、流石にあれは人間離れが過ぎる、良かった剣士全員が出来る普通の技でなくて。
そんな事を考えていた明周に勇が恐ろしい技を披露してくれる。
「俺たちはもっぱらこっちだな。」
腰掛けていた大きな石になんの躊躇いもなく勇は正拳突きを放った。
ドゴッ!
さっきまで石だったものが砂利に変わった。
俺は何を分かった気になっていたのだろう?
やっぱり剣士は俺の理解の外側の生き物だ。
楽しんでいただけたなら、幸いです。




