愁の投てき
お越しくださりありがとうございます。
祭日ですね、本日は2話でお願いします。
「室長、多分投てき出来ますよね?」
ただ凱が周にしてやられる様を見物に来ただけの愁に周は練習用の槍を渡す。投げてみろと言うのだ。
修練場にはいくつかの的も有る。その内の一つに愁は槍を投げた。槍は的の真ん中を射抜いた。
「これでもアルカナ男子なのでね。基本的な武器は扱えるよ。」
愁らしからぬ単語に周は一瞬虚を突かれるものの、悪い笑顔をかえす。
「上出来です。」
周は練習用の槍を数本と小石を二つ愁に渡し小声でなにやら囁いて勇のほうへ戻って行った。
数分前ーーー
勇と周コンビ対多数戦が見たい......お前たちが勝ったら今月の書類は決められた期限に出す事にしてやろう。
やたらと上から目線の剣士たちの暇つぶしから始まった単純な余興模擬戦は、凱の乱入ですっかり本気度が上がってしまった。
前半の様に簡単には勝ち筋は見えない......。
(連携の良さはもう隠し球ではなくなった。二人はキツイな......。)
「凱様!確認してもよろしいでしょうか?」
模擬戦の条件を周は確認していく。
前半のルールに加え先程凱が指示したルールだ。
2対30での個人戦
個々の連携は認める
できれば寸止め
当たったと思えば自ら潔く退場
怪我人は出ない方が良い
ここまでは前半と一緒。
勇の上段構え禁止
周の言霊禁止
気を操るのも禁止
明らかに前半と後半のルールは毛色が違うがそこは良しとして......。元々言霊を使う気は無い。
周にはどうしても変更したいルールがあった。
「凱様。こちらもメンバーを一人増やしてもかまいませんか?」
そちらも大幅なメンバーチェンジを行なったのだ、何より凱自身が増えた、こちらも追加させて欲しいと願えば凱は快諾はしてくれた。
「自分から強みを捨てるとは、鈍ったな......チビ助。」
凱からため息がでるのは当然のことだ。
対多数を可能にしていた勇と周の最大の武器は連携だ、それは昨日今日の付き合いで出来たものではない。
そこに追加メンバーというのだ、眉を寄せたくもなる。
(こんな時に、詩がいれば......。)
周は首を横に振る、起こりもしない奇跡に思いを馳せてどうする、現実を見ようと。
そこで話しは冒頭に戻る。
「追加のメンバーは愁室長です。」
凱以上に驚く、野次馬に混じって、成り行きを見ていただけの愁のもとに近づき周は笑顔で手を差し伸べた。
「報告書回収の円滑化の為にご協力をお願いします。」
その笑顔が自身を決して逃しはしないと語っている様だと愁は覚悟を決めた。
「ならば、追加でもう一つ期限を守る提出はひと月ではなく今後ずっとだ。」
やぶれかぶれとでも言うように愁が追加の条件を出した。
それはあまりにも虫がいいと野次る剣士たちに今度は周が問う。
剣士が一人、剣士もどきが一人、文官が一人の寄せ集めトリオにあなた方は万に一つも負ける未来を見ているのか?と
随分雑な挑発だ。
剣士たちの温度が上がる。凱はちびすけの本気が見られるなら何でも良いと言う。
簡単な挑発に飛び付く単純な剣士ばかりで本当に良かったと、周は内心ガッツポーズである。
「あ、室長は剣士ではありませんので彼への直接攻撃は無しでお願いします。」
大きな声で凱やその他の剣士に言い放ってから、周は少し考えて、つけ加える。
「そうですね......。室長には投てきを、必要に応じて色々投げて貰ってもかまいませんか?」
ーーー
「気を取り直して、いこう。」
お気に入りの構えを禁止されて、ややお冠の勇の肩をたたく。
「子供じゃあるまいし、分かってるよ。おっさんのきたねーやり口にムカついてるだけだ。」
そんな勇に、まわりは任せて貰って構わないから、最速で大将の首を狙っていこう。と周は返し、離れて行った。
(汚いのならこっちも変わらないのだけれど......。)
再戦ーーー
数にものをいわせて切り掛かってくる剣士たちを周は低い位置から攻撃する。
力任せに足元を掬い上げ体勢を崩し剣士の頭や喉に軽く剣を当てる。
自己判定、戦闘不能。
周は剣士たちに退場を促す。
確実ではあるが周にしては珍しく雑な戦い方ーーだが結果は出ている。時折フィールドの端から、いやらしい位置に放たれる厄介な愁の槍との連携が良い。
剣士たちの中に愁の槍に対する警戒心が芽吹く。
そしてじりじりと勇は凱に肉迫することもできた。
しかし、大将を護る剣士にも隙が無い。
(キツイな、こいつら5人の後におっさんとやり合えってか......。)
表情にこそ出さないが、勇にも焦りはある。
決定打に欠ける膠着状態ーーこれは少人数の自分たちに不利となる。目指すは短期決着なのだ。
「室長!今です。」
周の大きな声が響く。
その声に大きく頷き手を振ってから愁が凱めがけて槍を放つ。
槍の前に投げられた二つの小石の存在に気付く者はいない。
その様子を見た剣士たちは眉を寄せる。
(コントロールの良さには肝を冷やしたがやはり文官、愁は素人だ......。味方の合図に頷いている間があれば一瞬でも早く槍を投げるべきだ。)
剣士たちが愁の槍に集中した瞬間。
あらぬ方向から、カコンと音がした。周が剣の柄で先程の愁の石を弾いて凱の方によこしたのだ。
砕け易く加工された石状の物。
それはわずかな間に無数に砕けて凱やそのまわりの剣士に振り注ぐ。
大した威力はない、ただ視界が悪くなり、ザリザリと目や口に小さなダメージを与える、時折り肌に当たる多少大きめの石が不快なだけの攻撃......。
当たっても大したダメージは無いと頭では分かりつつも、身体は律儀にそれらを避ける、剣士の本能の様なものだ。
視界の効かない状態にも関わらず、愁の槍が凱の頬を掠める。剣士たちの背中に嫌な汗が伝う。
(まさか!)
(あの文官、相当な強者だ。)
視界の悪い中、剣士たちに新たな認識が生まれる、愁の槍は危ない。槍に警戒しなくてはと......。それが小石で誘導されているとも知らずに。
結果。
勇への警戒が薄くなる。
凱のまわりを固める剣士たちの連携の僅かな乱れに、勇が動く、たくみに護衛の剣士をかいくぐり凱の脇腹に一太刀。
凱がかわす。
凱の左肩に一太刀。
凱が剣で受け流す。
その勢いを殺さずに勇がもう一太刀。
凱がこれも紙一重で受け流す。
細かな粒子の目隠しが徐々に晴れていく中、勇が溜めに入る。
勇お得意の高速の剣、怒涛の三連発をもう一度、出力最大で凱に浴びせるためだ。
凱も勇の手の内が見えているのだろう剣を構え溜めに入る勇に攻撃を仕掛ける。
このタイミングで愁は周の助言其の2を実行に移す。
愁の槍が飛んでくる、凱は面倒だと言わんばかりに槍を軌道ごと叩き折る。
その時
ゴツンと、石礫が凱のこめかみにヒットした。
一瞬の目眩の後、クリアになった視界には剣を構えて突進してくる勇が映っていた。
もう避けきれない、凱が降参を宣言した。
「それにしてもクソ眼鏡、あんたあれだけの腕があれば剣士を目指しても良かったんじゃ?」
「は!冗談はやめてくれ。」
(あれは私の実力じゃない。)
「いや、今からでも遅くない。あの正確無比の投てきは神業だ!」
剣士たちが愁を誉めそやす中、周が剣士たちにはっぱをかける。
「皆さんお約束は守ってくださいね。」
楽しんで頂けたなら嬉しいです。




