やっと......。
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その日、明周がその名前を耳にしたのは偶然だった。
ーーあまねーーもう10年近く前の明周の苦い初恋。
彼女とは王墓近くの木蓮の木の下で出会った。
ちょうど満開の木蓮の花のように可憐に笑う小柄な少女。
明周の目には、少し儚さの漂う控えめな印象の可愛らしい少女に見えた。
わずか数時間の他愛もない語らいの後。またねと挨拶を交わし明周は王墓を後にした。
明日もまたそこで会えるものと信じて疑わなかった。
その晩、大火事が王墓近くの離宮で起こる。
駆けつけた明周が見たのは、火事のショックからか自身の全てを忘れてしまった彼女の悲惨な現状だった。
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まったく凶事の化身などと、根も葉もない妄言で、あんな扱いまで.....。
明周は守ってやれなかった小さな少女の絶望に染まった表情のなくなった顔を思い出す。
混乱で殺気立つ人混みを必死で掻き分け彼女の元に辿り着くも、彼女の瞳には昼間の生気が感じられない。
自分の姿を映しているようで映していないその瞳になんとか生気を取り戻そうと明周は必死に言葉を綴る。
自身の無力を痛感しながら。
一所懸命に笑いかけ話しかけているうちにふと明周は思い付く。失った名前を探し出す事は不可能だが、新しい名前を付けてやる事はできるのではないか。幸い自分は王族だ、臣下に名を与える権利が有る.....。
明周の選択に迷いはなかった。
自身の名前より一文字を与えて、繋がりを強調する。身寄りを失ったであろう彼女の後ろ盾になる事を願って。
我が君.....。驚いたことに彼女は絶望の淵からこちら側に戻ってきてくれた。
そして、
「願わくば、我が君の盾となり剣となりて、我が君と我が君の国の守護者たらん。」
年寄りが使うような大層な言い回しの口上を口にした。
明周は一瞬面食らったがすぐに破顔してみせた。
「爺様と将軍達みたいで良いな。」と。
明周はこの後、従者に引っ張って行かれてしまったが。
まわりにあれだけの剣士達がいたのだ、周とは翌朝にでも直ぐに再会できると思っていた。
これが彼女を見た最後になるなんて......。
明周は自分が要望を口にするとまわりの大人が大きな影響を受ける事をよく知っている。
だから、周を探して欲しいとは言い出せない。
折に触れて黒髪や琥珀色の瞳の少女の話をそれとなく振ってみることもあるが、周の消息には全く繋がらなかった。
そんな何年も心の片隅に灯っていた小さな希望が、今目の前の回廊を通り過ぎる剣士の口から聞こえた。
明周の鈍足では剣士の脚には追いつけない。だから懸命に記憶する、剣士の特徴を、咄嗟のことで顔までは見えなかったが、後ろ姿は完璧だ。
どこにでもいる剣士の稽古着を着てどこにでもいる淡い髪色の長髪でどこにでもいるがっしりした体格の剣士......。
明周が周を見付けて色々驚愕するのはもう少しだけ後の話。
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