求む、通訳!
お越し下さりありがとうございます。楽しんでいただければ幸いです。
「道祖神様が運用に手を貸して下さるそうです。」
前人未踏と言える事業を終えて昨日の昼に帰ってきた周の第一声だ。
「良かったですね、皆さん大喜びです。絲さんもお母さまもこれで親子3代が揃うかもってとても喜んでらっしゃいましたよ。報告書はこちらに提出しておきますね。」
室長ありがとうございました。と満面の笑みを浮かべる周とは対照的に愁の表情は冴えない......。
報告書も綺麗にまとまっている、物資の流れも費用対効果も予想以上、不正の匂いもしない......。
ただ、散見される見た事はあるが明らかに用途の違う名詞が、愁の思考にノイズを生む、いや強制停止させると言ってもいいかも知れない。
里の皆さまの信仰が起動力......。兼ねてより道祖神が心配.....。池の精が仲介......。
(意味がわからない......。)
翌日
朝礼前の時間に、すっかり菜園と化た王都管理局の裏庭で鈴ときゅうりを収穫していた周に愁は問う。
「いったい君は、他に何が出来て、何を得意とするんだ....。」
「え?この時期ならきゅうりにトマト.......あとはオクラとか?
今は実ものが多いですが、得意なのは葉物です。」
あれは肥のやり方が意外に難しいのですよ、多過ぎると葉が厚くなってえぐみが強くなることもあるので......。
などと、周は別人の様に饒舌にしかも楽しそうに語り出す。
(違う!それじゃない。)
「へー。オクラ好き!私もベランダとかで作ってみようかな。」
(鈴くん変なあいづちで方向を固定しない。)
「あ、いいですね。帰りにプランターとか見に行きませんか?」
(だから、君は何者なんだ?)
愁はこれ以上の会話を諦めた。
(通訳が必要だ。)
(同期にでも当たってみるか。)
西の山に詳しくそれなりの常識も備えている、そんな都合いい人物に愁は心当たりがあった。
昼休み剣士たちで賑わう訓練場前で愁はお目当ての人物を見つける。
「やあ、奇遇だね。たまにはランチでもどうだい?」
「珍しい事もあるものだね。」
意外にも爽は快諾してくれた。
「私はコーヒーを......君は?」
「そうだね......。」
注文を聞きに来たウエイトレスにお勧めを聞き。
ではそれをと注文を決める同期に、愁は相変わらず、無駄に愛想の良い男だとやや呆れの混じった感心を覚える。
ランチと言いながら飲み物しか注文せずに二人はしばらく近況報告や世間話を楽しむーー腹の探り合いである。
「うちの新人がね、どうも西の出身らしいんだ。」
愁の何気ない言葉に爽の瞳がほんの一瞬揺れた。
(ほう......。)
彼がランチに乗ってきた理由はこれか。
通訳は頼みたいが、一方的に借りを作るのは避けたいと考えていた愁は、ほくそ笑んだ。
「そうか、愁のところには今年も新人が配属されたんだね。」
「おや希望者殺到の君のところが何の冗談だい?」
「はは、まあ、希望者は多かったのだけどね......。」
今年は期待値が大きかった分、どうしても実力が伴わない場合が多くてねと、爽が珍しく愚痴を言う。
「ほう、そう言うものか。」
「ところで、君のところの新人なんだが......。」
(ほら来た。もう少しだけ焦らすか......。)
「それより、爽、せっかくだ。何か食べるものも注文してみないかい?」
「えっ.......。ああ、そうだね......。」
話の腰を折られて落胆する爽。
(これは上手くすると対等の取引どころか、こちらが貸しを作れるかもしれないな。)
愁は爽の分かりやすい反応に少し油断してしまったのかもしれない。
「うちの新人が言うには、ここの一押しはサンドイッチらしい、何でも具材に合わせてパン生地の配合まで変えている店長こだわりのサンドイッチらしい。」
「へー、それはすごいね.......。
では彼の一番のお勧めは何かな?私はそれにすることにするよ。」
(彼?)
自分は新人の性別を爽にあかしていただろうか。
目の前の爽の瞳から焦りが消えた。
読んで下さってありがとうございました。




