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道場裏の池の精

読んで頂ければ幸いです。

 (あまね)は最近、とある本を手に入れた。異国風の装丁が美しい、精霊召喚の本だ。

国外の任務に赴いた(そう)が、ふと思い立って購入したものらしい。

アルカナではまず目にすることのない魔法陣に、記号や装飾文字が美しく配列されたそれを見て、爽は周を思い浮かべたのだ。

しかし、沢山居る後輩弟子の中で、周にだけに土産を渡すのは、いただけない。

だからと言って、人数分の本を持ち帰るのが正解とは思えない。

悩んだ末に、爽は大量の金平糖を購入することにした。少々懐は寂しくなったがまあ必要経費と考えれば良いだろう。

訳がわからない程の金平糖と、つまらなさそうな本を、ニマニマしながら荷物にまとめる爽に、相変わらず、面倒見のいいことだと同僚の(がい)が、呆れ顔でちゃちゃを入れてくる。


「まあ、凱も来てみれば分かると思うよ。」

そんな言葉を返す爽はとても幸せそうな良い顔をしていた。


数日後、西の山にて。


珍しい菓子に目を輝かせる子供達の様子を眺めながら、爽は小声で提案してみる。

「さて、荷解きを手伝ってくれた周には、この本をあげよう。」

私の使い古しで悪いが、どうかな?

そんな経緯で、その本は周の物になった。


道場のものは、基本的には共同所有物だ。家のある者には、何かしら個人的所有物もあるが、周にそれはない。

欲しいものを我慢している、という訳ではない。

使いたい物、必要な物は、大体揃っているし手にも入る。


それでも、初めての自分だけの物という存在に周は甘味なものを感じていた。

毎日、朝な夕なと本に触る。

習ったこともない異国の文字を読むことは出来ない。

それでも、ぱらりぱらりとページをめくってみたりするのが妙に楽しいのだ。

そんな至福の時間を周は過ごしていた。


全く判別不可能な文字も、毎日見ていれば、何となく型の違いが見えてくる。

そうこうするうちに、分からないながらも、魔法陣の写本に、周は成功していた。


多分、大丈夫だよね。違いは無いと思うけど。

「それにしても綺麗な模様だなあ。」


周が特に気に入ったのは本の中程にあった青いインクで描かれた物だ。

二重の丸と二重の四角が重なり、美しく配列された記号?が並んでいる。

お気に入りの図形を何度も模写するうちに、周はその図形だけは何も見ずとも描けるほどになっていた。


ある日の午後、道場裏の大きな池のまわりで野草などを摘んでいた時。不意に、本当にふとあの図形の事を周は思い出した。空の青があの図形の青と重なったのかもしれない。

何気なく地面にそれを描いてみる、あまり美しさが伝わってこない。地面の小石や小枝を丁寧に払い再挑戦した、

何かがまだ足りない。いつも紙に描くあれの美しさには程遠い気が周にはした。


「あっ。お水だ!」

不意に閃いたように周は小枝を池の水で湿すと、もう一度図形を描き始めた。コレは良い、とても良い。

お気に入りの図形の渾身の出来に周は悦に入った。


本当になんて綺麗な図形なのだろう。じっと見ていると、まるで光り輝くようではないか.....。

光る?


目の錯覚などではない。確かにぼんやりと光っている。そして、その中にフワフワした何か、大きな綿毛のような、巨大な胞子のようなモノが、いくつか姿を現し、こちらの様子を伺っている。


なんて可愛らしい存在なのだろう。


少しの間そのフワフワはその辺りをふよふよと漂っていたがしだいに存在が淡く薄くなって空気に溶けるように姿を消していった。

我に帰った周はあたりを少し見回すと、夢から覚めたように。その場を離れていった。


後日、あれの存在を確かめようと、何度か色々な条件で試してみたが、

その後この図形が光ることは一度もなかった。


 この池に住まう存在に周が目を付けられたことに、本人が気付くのはもう数年後のこととなる。


お付き合いくださり、ありがとうございました。

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