お使い1
お越し下さりありがとうございます。
アルカナ三将の纏う装束は特別だ抗魔力に優れた糸から織られるそれの防御力は桁外れだ。
その織物を作る里がアルカナの東の山にある。
秘境とまではいかないが、ここも信の道場同様に自給自足が基本のなかなかに辺鄙な集落である。
「こんにちは、どなたかいらっしゃいませんか?」
集落の入り口の道祖神ーー集落の皆に大切に祀られているのだろう。とても良いお顔をしてらっしゃる。ーーへ軽く挨拶をしてから、周は一番最初の家屋に声をかけた。
「あれ、さっきの......。」
出てきた絲が目を丸くして周を迎えた。
「考えたら直ぐに分かりそうなのにごめんね。」
おかげで薬草も桑の葉も沢山採れたのに道案内もせずに帰っちゃったわ。絲はバツが悪そうに周に笑いかける。
「いえ......。こちらも気が回らず申し訳ございませんでした。」
周も自身の迂闊な対応を詫びた。
周が、
そろそろ仕上がるはずの反物を受け取りに来たと伝えると、じきに出来上がるから、その間に里の見学でもどうかと勧められた。
ーーー
「ここでねお蚕さまを育てるのよ。」
青々とした新鮮な桑の葉をもりもり食べる光沢の有る灰色の芋虫が妙に愛くるしい。
「こっちが繭になった子ね。」
真っ白な楕円形の何かが格子状の箱に行儀良く収まっている。
「それでこっちが、糸引きね!」
蚕が生きたまま繭ごと茹でられている。
「ひっ。」
周の喉からおかしな音が出た。
(可愛がっていたように見えた.....。いや、絶対に愛情を注いで育てていたはずだ......何故、何の躊躇いもなく茹でることが......。)
成虫になることもなく無情にも茹でられる大量のあの芋虫のなれの果てを前に、
慈しみ育てる事と、有り難がたくその恩恵をいただく事が矛盾なく同居する生産者と生産動物の関係に周はカルチャーショックを覚えた。
糸引き、乾燥、染色を経て製織へ。
ざっと工程を見て回った頃には周の表情は少し曇っていた。別に蚕が可哀想とかそんな理由ではない。
(この集落の男女比はおかしくないか......。)
小さな子供の男女比は半々て普通だ、なのに、それ以上の女性の数が異様に少ない。
「お待たせ。」
絲がニコニコと持ってきた反物は猛火の鉄色と業火の赤銅。出来立てほやほやよ。と絲は誇らしい気にそれらを机に置いた。
「凄い......。」
素人目にも分かる程の素晴らしい出来上がりに周は息を飲む。
抗魔力と防御力に優れた奇跡のような反物......。
(あれ......?)
この反物の抗魔力や防御力はいつ付与されたのだろうか。
「絲さん......。私が見た工程は全部なんですよね?」
何か門外不出の技術や秘術がある訳ではないのかと確認しても、絲は意味が分からないと首を傾げるばかりだ。
(仕方ない......。)
周は気を探る。里中くまなく広く浅く......そして......。
驚異的な気の成長を見せる一点を......見つけた。
「えっと......。可能ならですが、
もう一度機織りの工程を見せて頂いても良いですか?」
「え?良いけど......。ほんとに何も変わり映えしないよ。」
「ありがとうございます。こんどはあそこの大きな檜のところの機織りを見てみたいのですが?」
「え!凄い何で分かるの?あそこは私の家よ。」
母さんは里一の機織り名人なのよと、絲は誇らし気だ。
「母さんの技術ってほんと凄いの神業?私も頑張ってるけどまだまだで......。」
このまま母さんが逝っちゃう前に修得出来ないのは悔しいのよねとこぼす。
(逝っちゃう?)
恐ろしい言葉をあっけらかんと口にする絲に周は違和感を覚える。
「あら。王都からの使者さまと聞いてたけれど。随分と可愛らしいお客様だったのね。」
絲の母親というには随分と年老いた女性が愛想よく周たちを迎えてくれた。
他愛のない世間話しを数分した後
絲の母親は機織りを実演してくれた。
縦糸に横糸を通す
バッタンとんとん
縦糸に横糸を通す
バッタンとんとん
縦糸に
機織り女の気力が吸われる.......。
横糸に
機織り女の生命力が吸われる......。
バッタンとんとん.......。
生命の輝きが今にも消え入りそうな機織り女は気づかない......。
また少し機織り女の生命が吸われ
また少し反物の強度が上がる。
目の前の光景に、周は目眩を覚えた。
お付き合いくださり、ありがとうございました。
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