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王都の試験

お越し下さりありがとうございます


 周知のことだが、周は世渡り下手だ。


 王都で行われる剣士の採用試験。

数年前には勇も、鳴物入りで合格している。

周が掠りもしないなど、あり得ないのだが、信は心配で仕方ない。

 推薦状は信の直筆で懇切丁寧に仕上げた。(ちょっと愛が暴走した感は否めないが、渾身の出来だと自負している。)

 宿の手配も懇意の宿にしっかりと予約しておいた。

(とにかく訳が分からないほどの巻き込まれ体質なのだ、念には念を入れなくては。)


普通なら問題など起こるはずもない。


無いのだが、信は不安で仕方がなかった。


あれのことだ......またどこかの悪徳商人に出くわしたり、はたまた何かしらの事情で困窮した家族を見つけたり......。


ああ!いっそ、自分が付いて行けるものなら。


信は逆さまになっている本のページを気づきもせずにめくる。

ーーーー

 試験会場、最初の受付にて


「うお!コレ信さまの推薦状?」


 彼は、憧れの剣士、もはやレジェンドの信の直筆の手紙(推薦状)に我を失っていた。


 王都の剣士に採用されたは良いが、彼は数年前から乗り越えられない壁にぶつかっていた。田舎では神童などと、もてはやされた時期もあった。それに胡座をかいて鍛練をおろそかにした時期も、確かに多少は......。


しかし王都に集まる剣士は皆、田舎の神童なのだ。


それに気付いてからの彼は懸命に努力した。


しかし、まわりも努力をするのだ、頭ひとつ抜き出るのに、なんと時間のかかることか、しかも自分は出遅れている、努力しても努力しても成果がついてこない。


 気付けば彼は同期の中で一番力の無い者という不名誉なレッテルを貼られていた。


 そんな彼に与えられた、久々の表向きの業務。3回有る振り分け(振い落とし)の一番最初の入り口案内係だった。


 さて、腐らずに頑張った甲斐があった、彼の今後を応援してくれているように素敵なサプライズが舞い込んできたのだ。


 信さまの直筆の封筒 それを持って現れた少年は少し緊張した面持ちでこちらの気配を窺っている。


 そうだろう、そうだろう。ここから試験が始まるのだ。きっとこの子も田舎の神童だ、ぜひ頑張って日の目を見て欲しいものだ。


「少しだけ良いかな?中の字も見たいんだ。俺、信さまの大ファンなんだ。」


彼の言葉の意図を察しかねたのか、少年が困惑に表情を曇らせたのと、彼が手の中の推薦状の封を解いたのは同時だった。


「あ......。」

少年の困惑が驚愕に変わる。


「えっ?そんな大袈裟な。きちんと返すよ、少し見させてくれたら、それで良いんだから。」

彼は心のどこかで、この少年の心の狭さに不快感を覚えた。本当に、この瞬間だけではあるが。


「いえ、申し訳ございません。その、私の推薦状はその一通だけなので......。」

その一通が無効になると大変困るのだと少年は申し訳なさそうにこちらを見ている。


そこでようやく、彼は自分がしでかしたことに気付いた。

 公式な推薦状は、封印が破られた時点で効力を失う。


「!」なんと言うことを!

彼は焦った、普通有るだろう?

信さまの推薦状だぞ?


これを用立てることのできる親。その財力や社会的地位から考えて他にも推薦状が!


いや。今はそんな問題じゃない。落ち着け俺!


 たったひとつの推薦状が無効になれば、この子は、合格率のおそろしく低い一般の試験を最初から受けなくてはならなくなる。


それは、あまりにも可哀想ではないか!


「まっ待ってろよ。にいちゃんが必ず、なんとかしてやるからな!」


彼は勢いよく上司の元に突っ走って行った。


なんの引き継ぎもせず。


信さまの封筒を握りしめて。


ーーーー

(どうしたものか。出直すか?ここで待つか?)

周はしばらく考え込んでいたが。


「そこ!ぐずぐずしない!言われたところに順次進んで!」


悩んでいるうちに列はどんどん膨れ上がり、見かねた隣の案内係から指導が入る。

仕方なく、周は次の振り分け地点まで進む、剥き出しの推薦状(ちょっとよれている)を手に。


ーーーー

まあ。想定内ではある。


あるのだが、流石に一般の最初からとなると、多少はモチベーションが下がるものだと周は今更ながらに思う。


まわりを見れば、あきらかに記念受験や冷やかし、もはや受験する事がライフワークと化しているのでは?と思われる方々など。


玉石混交ですらない、ここは石ころばかりだ......。あっ、いけない。人を見掛けで判断するなんて、反省しなくては。


ーーーー

 予想通り二つ目の受付けで、周はきつめのお説教をされて、こちらに回された。


偽造は良くないと......。


そんな事はしていないのだから、していないと言えば。強情だ嘘つきだと更に叱られる。


(大丈夫、自分は慣れている。)


本当の事を言っても信じて貰えないこともあるのだ。


 もしかしたら、先ほどの案内係の男が弁明に来てくれるのでは、と期待もしたが。あの様子では、自分まで辿り着く頃には試験は終わってしまうのではないだろうかと思いなおす。


周は覚悟を決めて試験を最初から受けることにした。


挨拶はできますか。あ、普通にで良いですよ。正式な口上の真似事などは結構です。


「字は読めますか?」


「はい」


渡された紙片に目をやり音読する。


「はいOK。次は何か書いて下さい。」


「はい?」


書けと言われても、適当なモノが思い浮かばない。

試験官が求めるレベルも方向性もあまりにも不透明で何が正解で何が不正解か皆目見当がつかない。


さて、どうしよう?と周は会場を見回した。


(あっ。)

うまい具合に目の前の試験官が名札を付けている。


(これで良いか。)

周は丁寧に彼の名を紙片に書いた。


彼の名札の字より相当に美しい文字で。


(へー。これは大したタマだ)

こんな煽りを受験者から受けようとは。

試験官の肩がわなわなと震えた。


「真っ直ぐに立てますか?」


はい 真っ直ぐに立てますね。

そこで、そのまま30分動かないで下さいね。

そうです。体幹を見てますので。


(ざまあみろ!動けない地獄を30分間味わうがいい。)

試験官は意気揚々とどこかに消えていった。


周は放置された、完全に一人だ。


別にこれがきついとかではない。道場ではもっと長い姿勢のキープを子供でもやってのける。ただ放置というのが引っかかるのだ、誰も見ていないのに誰が判断するのだろう?


 こんなくだらない嫌がらせのような試験を根気よく受け続けた後にようやく真っ当そうな試験会場に周は連れて行かれた。


「名前は?」


「西の「な・ま・え!」


「周です。」


「はいあっちね。」


文官コースの試験場の入り口を指して試験官が威圧的に言い放つ。


「......。」


少しの静寂の後


「特技も剣技も見てはいただけないと?」


「当たり前だ!我々は忙しいんだ!嘘つきに割いている暇などない!」

そんな体躯で何をしようと言うのか?


今どき、少女剣士でも、もう少しは仕上げてきているものだ。

 散々追い返そうとしたが教養だけはしっかりしているようなので文官の試験会場に話を通してやった。

ありがたく思え!との事だった。


ふざけた話だ剣士の道に体格差や男女差など有りはしないのに。


周は出来るだけ怖い気配をただよわせ、この勘違い試験官たちに丁寧に挨拶をして剣士の試験会場を後にした。


今更後には引けないが、あっちまで話しが通っているなら、難易度は跳ね上がる事だろう。嘘つきのレッテルをなんとかしなければ。


ーーーーー

「ハハハ。大変な目に遭ったね。大丈夫。我々は歓迎するよ!」

こっちは万年人手不足。まあ裏方仕事が多いのも本当だからね。

あっ紹介状も見たよ大したものだ。偽造推薦状(あれ)が作れるなら、どこの文書も直ぐに作成できるようになるさ。

それに、アイツらに凄まれて顔色一つ変えないなんて、大した胆力だ。

期待してるよ。周くん!


周の予想は外れた。


 文官試験会場を取り仕切る愁という男は物事を合理的に進めるタイプの男だった。

美しい文字を書き、難解な宮中の文書を読み分け、それなりに作法も心得ている物腰の柔らかな少年を、たった一つの欠点で排除するのは惜しいと判断したのだ。


ようは、うまく使えば良いのだ、と。




西の山にて


「さて、王都に行く荷物の中に稽古着が二枚というのは、どういう了見なのだろうね?」


(あ。バレてしまった。)


「その......ちょっと長くなるのですが......。お師匠様の大ファンの方が試験場の門にいらっしゃいまして.......。」


「ふーん。それで?」


「試験の日に、お師匠様の直筆にとても感動なさって......。」


「うん。続き。」


(......。)


「続き.......。」


「ごめんなさい!これ以上は......。

どうぞ、ご勘弁ください。

とても良い方なんです。

悪気なんて1ミリも!

皆さま職務を遂行なさっただけで!」


意地を張った自分も悪いのだと。

被害者のはずの周が畳に額を擦り付けるようにして謝っている。


そんな姿を見たかったわけではない。信は苦虫を噛み殺したような表情で周を見る。


「少し留守を任されてくれないか、周?」


「いやです!

ダメです、お師匠様が言ったら。皆さまの生活が壊れます!

どうぞご勘弁ください。お怒りをお納め下さい。」

周が首を縦に振ってくれない。


 年齢とともに、『異界封じ』への負担が大きくなり、このお役目を肩代わりできる言霊使いに託さなければ、ここ数年の信は西の山を出る事が出来なくなっていた。


遠距離からこの巨大な結界を安定して維持する事が難しくなってきたのだ。


昨今の言霊使いの不足の影響も有り、今のアルカナで、一人で信の代わりを務められる言霊使いは周のみになっていた。


西の山では、周がどれほど信に信頼されているか愛されているか、知らぬ者などいない。


 迂闊だった、やはり付いて行くべきだった。せめてもう一通予備を持たせるべきだった。


しかし道はまだある。


権力を振りかざすのは性に合わないが、自分ならこの決定を覆し、もう一度この不器用で可愛い弟子を本来の道に戻す事ができる。


そう言えば喜ぶとばかり思っていた周は泣きそうな顔で首を横に振るのだ。


皆さまの立場や生活がと......。


 何故ここまで自己犠牲有りきの思考が染み付いたのか?自分はどこで何を間違えたのか、信は空を仰いだ。




一夜明けて


「とにかく、拾って頂いたご恩をしっかりと返してきます。

大丈夫です、書類仕事も物事を整えるのも、得意です。」


翌朝、周は巣立って行ってしまった。


なんだか、普通に元気なのが余計に信の心をざわつかせる。


今日は本当にいい天気だ。


お付き合いありがとうございました。楽しんで頂けましたか、次回からは周の王都での生活が始まります。よろしければ評価やブックマークなどお願いします

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