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周のポーチ

お越し下さりありがとうございます

信の道場裏手の山


「いてっ......。」

タラの芽を摘んでいた(ぜん)が指をトゲで突いてしまった。


「あ、ごめんね、然。」

今、手当てをするね、痛かったね。と周が腰のポーチに手を伸ばす。


「あー兄のポーチ、何でも入ってるね。」

簡単な消毒をしている周の手元を覗き込んでいた、ちびっ子剣士たちの興味がポーチの中身に移る。


「そうだね、なんでもは言い過ぎかな。これにはね、応急処置に使う薬草とかが入ってるんだよ。」

周は中身が見えるように一つ一つ丁寧に並べていく。


これは?あらかじめ糸を通しておいた針だよ。

これは?止血や消毒使うヨモギとかかな。あとは毒下ろしのユキノシタとかドクダミとか.....。


などと説明していると、ちびっ子剣士たちが首を傾げて、手をひらひらさせながら疑問を口にする。


「あー兄はコレがあるのになんでお薬を持ってるの?」

手をひらひらさせるーーこれは凱がよく使う言霊を表す身振りだ。


(よくない傾向だな......。部外の者凱様はともかく、言霊使いの第一人者でいらっしゃる、お師匠様の道場でこんないい加減な言霊の扱いなんて。)


周はちびっ子剣士たちと視線を合わせるようにして言葉を綴る。


「みんなは言霊開眼儀式は済んだのかな?」

「まだだよー。」

「ねー。」

「今度下道場の子と一緒にするよー。」

口々に返事が返ってくる。


「みんな、言霊使いになりたいのかな?」

と問えば、全員が瞳をキラキラさせて大きく頷く。


(かわいい.....。)


もう指導なんかどこかに置いて、この子達を甘やかしに甘やかしたい......。

そんな衝動を抑えつつ周は説明を続ける。


言霊は言葉の力に神様が力を貸してくれる技であること。

肝心の術者の言葉が乱れてしまっては大きな力は使えないこと。

言霊使いを目指すなら、普段から言葉を大切扱い、嘘や拒否は使わない方が望ましいこと。

などなど......。

ちびっ子剣士たちが納得顔で大きくうなづく、今度からはちゃんとするねと。


(分かってくれて良かった。)

周は自身の指導が上手く治まったことに安堵して、ポーチの中身を片付ける。


「あー兄様、お話しが逸れてますよ。然、あなたの最初の質問はなんだったかしら?」

桃だった。


「......。」

周が固まる。


「あー兄様、格好つけたいのは分かりますが、ここは潔くお認めになられては?」

桃の正論攻撃が炸裂する。


「うっ、えっと、ね。そんなつもりは無かったんだよ?本当に.....。」


近ごろの桃は、周に手厳しい。無言の笑顔で本当の事を言えと圧をかける。


周にしてみれば、話しの方向が変わったのは偶然で、そこまで意図した結果ではないのだが。

先手を取った桃に、ああ言われてしまうと、もうそれ以外の事実は無いように思えてしまう。


周は治癒が不得意なのだ、息をするかのように言霊を扱う周の唯一の使い物にならない言霊.....。それが治癒なのだ。


「良いのですよ、あー兄様。少しくらい不得意があった方が人間はチャーミングです。」

極上の笑みを浮かべて桃がちびっ子剣士たちが去っていった方に視線を向け、周に囁く。

読んでいただき、ありがとうございました。

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