異界封じの要石
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「あいかわらず、体力ねえなー周。」
斜め後ろで肩で息をしながら歩く周に勇が休憩を提案する。
「......体力が......ないんじゃない。
勇が.......あり過ぎるんだ......。」
自分は至って平均値だと主張して引かない頑固者が、ちょっと雑な感じに敷物を敷く。
「へいへい。どうせ俺は体力馬鹿だよ。
桶の水も持てなかった周くん。」
「.......。」
「なんだよ、言い返せよ。いじめてるみたいで気色悪いじゃん!」
「えっ?ああ。いいよ、本当だし。」
勇はウザ絡みする気満々だったのだか、
何故か周が取り合ってくれない。
そういえば......。このダンジョンに入ってから周の調子?いや様子?がおかしい......。
普段は師匠の結界で誰も入ることの出来ない異界へ繋がる不思議な空間、通称ダンジョン。
今、勇と周はそこに居る。
異界封じの綻びを防ぐために、次世代が決まれば、出来るだけ早い段階で、ダンジョンの要石に、自身の気を覚えさせる必要があるらしい。
次世代......早い話、周は信のスペアになったのだ。
10年ほど前に当時の次世代が亡くなってから、ずっと空席だったこれに、周の名が上がったのは、まあ当然の成り行きだと勇は思っている。
何かの拍子に師匠が死んだらアルカナ全土が詰むのだから、さっさと次世代は決めるべきだ。
むしろ10年もよく空席にしていたものだと呆れる。
ダンジョンには二人で挑むと知り、勇も名乗り出た。
まあ、仲間だし。
「こっちの理は通じない空間だからくれぐれも気を引き締めて挑みなさい。」
送り出す師匠に言われた言葉だ。
魔物がうじゃうじゃいると身構えて挑んだ一層は只々ジメジメした暗い洞窟だった。
今居る二層は体力が少しづつ削られている感じがする。
まあ、大した量ではないけれど。
勇は隣の周に目をやる.......。
もしかすると、普通は大したことのある量の体力が削られているのかもしれない......。
「多少は回復したから進もう。」
「顔色悪いぞ?」
どちらにしても時間との勝負みたいなところがある階層だから、さっさと超えてしまおうと周は言うが。やはり肩で息をする相棒を見ているのは複雑だ。
「なあ。やっぱり......。」
「このまま、進みたいんだ。」
やっぱり少しおかしい......。
「肩を貸してやるから。捕まれよ。」
「......。本気で?」
「マジ。」
「じゃあ2分だけ.......。目を閉じてもいいかな?頭痛がしてきそうで......。」
「なんだよ、やっぱりキツイんじゃん。」
「うーん。キツイ?いや......。まあ、キツイんだけどね......。」
多分勇の考えてるのとは方向性が違うと周は言う。
とぼとぼと歩き続けること数分。次の階層へのゲートが現れた。
やっと一息付けるとそれを潜った瞬間。
勇は言いようのない不快感に襲われる。
今度は気力が削られる......。
「うおっ......。マジでキツイわ。」
「肩を貸そうか?」
「早々に仕返しかよ?肩で息してる奴に言われたかねーよ。」
「ハハ。もっともだ......。」
「ここで魔物とか来たら詰むな?」
「あ......。言っちゃった?」
「え?」
((来る!))
地中からの巨大な力の脈動に気付き二人は左右に飛び退く。
地面の土ごと巻き込んで、飛び出したミミズようの巨大生物は勇目掛けて一直線に突進する。
「俺のが弱そうってか?」
勇が着地と同時に脇構えで巨大生物を迎え撃つ。
迫る巨躯を頭から豪快に割くさまは、さながらファンタジー小説の主人公である。
「呆気なかったな......。なんかこう、もっーーー。」
「言っちゃダメだよ。」
やや呆れたように周が勇の言葉を遮る。
一定の言葉がトリガーになってこの空間は変化すると。
「えっ?」
だから不穏な単語は控えて欲しいと、周は訴える。
(お師匠様の時みたいになるから......。)
この一言を勇に伝えられれば簡単なのだが、言えば、間違いなく師匠の時の二の舞なのだ。
そうしてる間にも勇はまた何か不穏な事を言い出しそうで周は気が気ではない。
ダンジョンに入ってからずっと周は何十年も前の残像を見せられ続けている。
体力を削られる?
気力を削られる?
想定内だ。
しかし、相棒が何か余計な事を言わないか?大丈夫か?とハラハラするのは意外と胃にくる.......。
ましてその顛末がパノラマでずっと再生し続けられているのだから......。
(私は何故、勇とここに向かわされたのだろう?)
師匠の人選に物申したくなる。
「なあ、周。それってーーー」
「だから言わないの!」
どうしよう......。何が正解なのか周には分からない。
目の前のコレがまさか正解なのだろうか?
(あっ.......。)
見せて仕舞えばいいか......。
後は勇が判断すれば良い。
周は考えることを放棄した。
『言霊』 『共有』
「ま、待て!頼。それ以上叫ぶな。
頼むから叫ぶのを止めろ!」
地中からうじゃうじゃ湧いてくる有象無象を、白銀の長髪をなびかせて優雅に切り伏せながら男が懇願している。
「これ以上ダンジョンを挑発するんじゃない!」
何も聞かない相棒が、縦横無尽に魔物を切り伏せ。
さも楽しそうに大声で戦果を報告してくるさまを、男は諦めの混じった眼差しでチラリと見た後、戦闘に戻る。
もう破れ被れだと言わんばかりに。
「うおー!魔物の100や200何する事ぞー!我の剣のつゆと散れー!」
「信!楽しいなあー!」
赤毛の大男は上機嫌で魔物を殲滅して行く。
彼らが要石に到着する頃、ダンジョンはどこまで様変わりしたのだろう?
考えるだけで恐ろしい。
お楽しみ頂けましたら幸いです。
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