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蟹!蟹。カニ? 後編

いつも有り難うございます

 西の山の竹林に毛蟹がゴソゴソと動いていた。

仲間の命を一瞬で奪った恐ろしい湯から逃れる代償として使った左の爪はもう使い物にはならない。


しかし、彼にはどうしても、諦めきれないことがあった。

あの日さも楽し気に仲間を虐殺していった二人組......。

特にあの金髪頭の緑眼野郎だけは生かしておけない。どんな代償を払っても俺はアイツにリベンジしてやる。


それでも生き物としての限界はすぐにやって来る、海水が欲しい息が苦しい。

俺は海水を求めて竹林を這い回った。そして、奇跡のような祠を見つけた。

そこは何かの神域か何かの封印の地か、とにかくここの気は俺の傷ついた体を癒し新たな力をくれる素晴らしい場所だった。


奇跡の祠ーー信が長年祈りを捧げて一級の神域と成した西の山結界の要祠ーー


俺が幾度目かの脱皮を経験したある日復讐の機会が転がり込んできた。


あの金髪緑眼野郎が竹藪に現れたのだ。


俺は竹藪に身を潜め攻撃の機会を伺う。


奴が竹の根元を木の鍬で掘り始めた、チャンス到来、俺は背後から襲い掛かる。

カッコーン!鍬で弾き返されておれは遠くまで飛ばされた。


諦めるものか、俺は復讐者だ。


奴が、池の水草を掬っている。しめた!水中なら地の利は我に有りだ。

俺は奴を水中に引き摺り込むべく静かに近寄っていく。


ザッバーン!大きな音を立てて上がった水飛沫ごと俺は空高く飛ばされた。


何故だ?あの日あれほど苦しめてやった相手に何故。あの日より強くなった俺は勝てないのだ。


空高く弾かれた俺はそのままの勢いで地面に叩きつけられた。もう長くは生きられない、自分でわかる。


「お前さあ。根本的な間違いをしてるんだよ。あの日は周がうるせーから、色々加減してたんだよ。

お前ちゃんと強くなってるぜ!」

もう意識が朧げだからだろうか 不思議とこの金髪への怨嗟の念は薄れていた。


「コレを助けたいの?」


「お前そんな本が有るって言ってたじゃん!」


「ないこともないけど。あんた本気なの?」


「おう。これで良いんだな?」


ーーーー

目醒めるとそこには忌々しい金髪頭が立っていた。

「なんかよく分からんが、お前と俺は魂で繋がったらしいわ。」

よろしくなとそいつは言う。


どうやら俺はコイツに救われたらしい。忌々しいが仕方ない救われたならその恩には報いるべきだろう。


コイツは面倒臭さそうに何もしなくて良い今まで通り時々腕試しに来いと......。


隣の女が口を挟む

あたりの見回りでもなんでも良いからさせろとうるさい。


コイツが少し考えたような素振りを見せてから、町外れの大きな池は夏になると水の事故がよく起きる。それを未然に防げるかと言うのだ。


俺はその役目を引き受けた。


何度目かの夏が来た。今日も子供たちの声が心地良い、緑眼の主人からも労いの言葉をもらう。

町外れの大きな池は今日も穏やかだ。


(.....!)

池の中央寄りの場所で子供がもがいている!事故だ!


俺はその子の元に急ぐ、子供の足に藻がからんでいる。


俺は右の鋏で藻を切り動かない左の鋏で子供を庇う。


早く浅瀬に戻ろう。


突然、身体が不自然に止まる、先程の藻が身体に巻き付く、みしみしと甲羅が軋む、これは......普通の藻では無い。意思を持つ藻だ。


これは少々まずい......。幸い、藻は水の中でしか動けないようだ、俺は右の鋏で藻を切り裂きながら、なんとか浅瀬に進むが、徐々に身体の動きが鈍くなりはじめた......。

かなりまずい。


緑眼の主人。俺とシンクロしているなら早く......この子が水面に着いてしまう前に。

せめて子供だけは.....。

俺はわずかに動く右の鋏で子供を高く掲げた、もう身体を浅瀬に進める力は俺には残っていない。


ーーー任務の帰り道ーーー

不意に勇の様子が変わる。

「悪い、俺ちょっと先に行くわ。」

言うが早いか勇は勢いよく駆け出した。


詩と周も後を追いかける。


町外れの大きな池にて


追いついた詩と周が見たのは、意識を持つ藻に絡め取られながらも子供を高く掲げて安全に守る蟹の亡き骸だった。


「カニ!おい!カニなんとか言えよ。」

勇の叫びに蟹はもう答えない。


「周、道!」

険しい顔をした詩が叫ぶ。


『言霊』 『築道』

詩が子供を救出する。


『加えて』『殲滅』

大きな池が一気に周色に染まり、意思を持つ藻は一瞬で消えた。


「おい!カニ、もう大丈夫だ。

大丈夫だから、目を開けろ!カニ。」

勇が蟹を池から引き上げようとするが

不思議なことに蟹はびくともしない。


そしてじわじわと赤黒い岩石へと変わっていった。


後日譚として


町外れの大きな池には、遊ぶ子供たちを見守るように立つ赤黒い石がある。

それはまるで蟹が空に向けてその大きな鋏を突き上げているような形をしている。

いつの頃からその石は水辺で遊ぶ子供たちの守り神として西の山の人々の信仰対象になった。


ーーもっとも

信の道場の裏の池から今日も池の精の愚痴が聞こえる。

だから、海水に住まうものを我の神域に入れるなと言うのに。

磯臭くなるではないか、まったく。

ありがとうございました

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