白銀の乙女
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とても古い物語をどうぞ
偉大な、父が死んだ。
私は泣けなかった.....。
まだ人を率いて何かをするには、弟はあまりにも頼りない、私がしっかりしなくては。
異界より、ぞろり、ぞろりと魔物が這い出て来る......。アルカナの大地に人が住める場所は少ない。
私がしっかりしなくては。
私は剣を取る、魔物から私を慕う者達を守るために。
私は鍬を取る、私を慕う多くの者を養うために。
どうかアルカナの神々よ、お見守り下さい。
父より託された、大切な弟といづれ弟の民となるこの者達を私が守り切る様を......。
ーーー
「織気負いすぎだ。顔が般若のようだぞ。」
基が織の頰に触れる、剣士の硬い手で彼女頰を気付けないように、そっと。
これでは、神に祈っているのか神を呪詛しているのか判らないと基は織を茶化す。
基は織とその弟の陽に仕える剣士であり、織の幼馴染だ。
そして、陽の頼れる兄の様な存在でもある。
「神託は、まだ降りて来ないか?」
「この辺りも瘴気が強くなってきたわ......。
もう神の声を聴くのは難しいかも......。」
(不甲斐ない、もっと私に力があれば......。)
「そうか.....。俺にはどうも、そのあたりが分からんが、織が言うなら、そうなんだろう.....。」
そろそろ潮時か、移動の準備を皆に伝えてこよう。と基が織から離れていった。
(私はなんて無力なの、不甲斐ない......。)
織は自分を責める。
「ねえ、お前......。」
耳元で聞こえた声に織は驚く。
辺りに視線を走らせても誰も居ない。
「そう、お前よ......。」
居る。
姿は見えないが確実に......。
織は意識を澄ます......。
瘴気に飲まれ、息も絶え絶えだった森に生気が戻っている。
これは奇跡......なのか?
「そんな事をしなくても、話せるわよ。」
目の前に黒い髪の美しい女性が立っていた、いや......女性の形をした存在と言うべきか......。
織が無意識に跪く、長い銀の髪が地面に付く。
「うふふ、いいのよ、そんなこと.....。」
その存在は楽しげに織を眺めて言葉を綴る。
「さあ、顔を上げて.....。」
琥珀色の瞳がアメジストの瞳を悪戯っぽく覗き込む。
「お前が一番困っていたわ......。
だから、少しだけ力を貸してあげる。」
跪く織を優しく立ち上がらせ、その存在がふわりと笑う。
「ーーどんな力が欲しい?」
(......!)
にわかには信じられない......それでも。
高次の存在を前にして、震える自分の心を、織は懸命に鼓舞する。
目の前の存在が悪いものでないことは分かっている、しかし......。
考え、躊躇い、それでも織は意を決した様にその存在を正面から見据えて、言葉を綴る。
「私は皆を護れる力が欲しい。魔物からも飢えからも、あらゆる困難から大事な民を弟の治める国を守り育む力が欲しい。」
織の......切なる願い。
「そう。お前の言葉には力があるわね.....。」
その存在は少しの間、織をーー織の魂を楽しそうに眺めてから言葉を続ける。
「お前の言葉に、私の力を分けてあげる。どう?」
(......?)
理解の追い付かない織をよそに、その存在は楽しそうに思いつくまま言葉を綴る。まるで歌でも歌う様に.....。
「そうね約束の印で言葉の力を目覚めさせてあげる。」
更に美しい歌は続く。
「素敵でしょ?お前には無制限にしてあげる......。その代わり。
お前の子を育む能力をちょうだい。」
「......!」
織は驚き動揺する、この存在は今なにを.......。
「どう?悪い話しではないでしょ。私は一度人の子を産んでみたいの。」
まるでちょっと足りないから、あなたの玉子焼きをちょうだい。
くらいの、恐ろしく軽い口調で綴られる残酷な言葉.....。それでも織の選択肢は一つだけ.....。
「許されるなら.....その力を我が弟の民にも.....。
お願いすることはできませんか?」
「あら?そんなこと、いいわよ。でもねそちらには制限を設けるわね。」
やはり軽いノリの返事が返ってきた。
「そうね条件は......相性。私の好きな者には沢山。どうでもいい者には......貸さない。」
これで決まり、いい取引だったわ。
「お前は弟思いのしっかり者ね。私の子にもお前の様な姉が居てくれる事を願っていてね。」
上機嫌のその存在が消た辺りがほんのり光っていた。
初代アルカナの守護者ーー白銀の乙女ーー聖火の誕生である。
ある晩
野営の焚き火に当たりながら基達は食事をしていた。
湯に干し肉とその辺りに生えていた野草をちぎって入れただけの簡単な食事。
それでもその温かさが身に染みる。
「そうそう、陽。空さんとはその後上手くいってるのか?」
基が新婚の陽を冷やかせば、基兄さんこそいい加減に身を固めてくれと陽が言い返す。
気の置けない仲間の他愛無い話し......。
野営でこんなに寛げる余裕が出来たのも、小さいとはいえ民が安心して定住出来る土地を持てるようになったのも織の『言霊』があっての事だ。
しかし、その代償は大きい......。
二人の会話を静かに聞く織を陽は直視できずにいた。
ぱちぱちと焚き火のはぜる音だけが続く時間。
「そうだな。色気のないタイミングで悪いが、織。
俺の妻になってくれ。」
基が懐からヨレヨレの包みを出して織に渡す。
ずっと言おうと思っていたと。
「バカじゃないの?アルカナから大剣士の血筋を絶やすつもり?
私は石女よ。」
織が毅然とした態度でかえす。
(ああ、この人はいつでも誇り高い、そして....。)
基は織をぐいと抱き寄せて思いを綴る。
「俺の嫁さんは未来永劫お前だけだ。お前が嫌と言っても俺はお前を嫁にする。
なあ、二人でずっと幸せに生きよう。」
基の熱っぽい瞳が織を捉えて離さない。
織は小さく頷いた。
この直後、極限まで舞い上がった基が照れ隠しに
「子のない夫婦ってのもちょっとエロくて良いと思う。」
などと口走り、ムードを台無しにしたのはご愛嬌。
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