白銀の乙女(笑)
目をとめていただきありがとうございます
楽しんでいただければ幸いです
西の山には有名な弟子がいる。
王都の剣士五指に入る爽。
冒険商人として名高い宙。
そしてもう一人、白銀の乙女。
西の山に銀にたなびく髪の乙女あり。
なんちゃって。
風になびく銀髪にアメジストの瞳、静脈が透けて見えてしまいそうな白くきめ細かな肌。ややキツめではあるものの詩は間違いなく、そこいらの美少女とは一線を画す美少女である。
が、詩が有名になったのはその見た目のせいでは断じてない。
さて、世間にこんな噂が出回り始めるちょっと前のこと。
その日、詩はいつも通り従者とともに信の道場にやってきた。本人は一人前のつもりだがまだ7歳になったばかりの少女が町の生家から一人で通うには西の山は少々遠い。
家族の考えにより彼女は住み込みの弟子にはならなかった。
いつも通り、従者と門をくぐったところで分かれ、母屋を抜けて 離れで稽古着に着替えてから道場に向かう。
彼女はいつも通りが好きだ。同じ時刻に同じ場所を同じタイミングで同じリズムで通り過ぎる。こういう何気ない日常の規則正しさに何故か妙な快感を覚えるのだ。
ところが、今日はそのいつも通りに、ほころびが生じた。
居たのだ。
普段は誰も居ない母屋と離れの間の庭の片隅に子供が。
見ると子供は井戸の周りを回ったり眺めたりしている。蓋を取るわけでもつるべにさるわけでもなく。ただ、しげしげと眺めている。時々井戸の側面に手をかざしたりするが、正直何がしたいのか全く理解できない。怪し過ぎていっそ清々しいくらいだ。
「そこのあんた。何をしてるの?」
詩はいつもの進路から外れることにした。このまま捨て置くのが、気持ち悪いだけで別に何がある訳でもないのだが。
「え?えーとね。お師匠様が顔を洗って来なさいって仰ってね。」
子供はどうやら新しく入った住み込みの弟子のようだ。詩は期待に小鼻は膨らむのを自覚した。
「あんたいつ入ったの?年は?」
念願の後輩だ。
「えっと。多分......6歳?うん6歳!」
井戸がよっぽど気になるのか、落ち着かない様子のその子供を詩は観察することにした。
アルカナには珍しい黒髪に可愛らしい琥珀色の大きな瞳が印象的な少年だ。ただ、兎に角、落ち着きがない。
あまりのバカっぽさに少しイラッとしながらも、先輩弟子として、できるだけ優しく愛想笑いを浮かべて、詩はきいた。
「顔って。いま何時だと思ってるの?寝坊ってこと?」
台無しだ。待ちに待った後輩とのファーストコンタクトが台無しになった。私の口はどうして小言専門なのだろう。
「えっとね。起きたのはもっと早かったの、でもね、お水がね、出ないんだよね。」
幸いなことに、この後輩は萎縮せず受け答えをしてくれる。そうだ、仕切り直しだ。
「......?水が出ない?あんたバカなの?蓋を開けてつるべで桶を落とさなきゃ 水なんて取れるわけないでしょ!」
あまりの無知に詩の怒りはマックスである。
言うが早いか 詩は、水を汲んでやっていた。
「はい水!さっさと身なりを整えて道場に行きなさい!」
水が並々と注がれた桶を後輩のほうによこし、さっさと受け取れと圧をかける。
「わー、有り難う お水ってこうやるんだね。」
後輩は嬉しげに笑いながらそれを受け取る、これでお終い。
とはいかなかった。
バサンと音たてて桶の水は詩と後輩の間で四方に飛んだ。
桶の重みを後輩の腕は受け取りきれなかったのだ。
「っ!ごめんなさい!どうしよう、何か拭うもの!」子供は慌てて詩の濡れた足下を自身の服の袖で拭おうと屈む。
悪気は無かったのだろう。
「いい!そのうち乾く。あんたの方が濡れてるし、そんな所に屈んだら泥で汚れるから。」
一瞬だけ放心した後、詩はその後輩になるであろう子供をたしなめた。
しかし頭の中はもうぐちゃぐちゃだ。
しっかり持っていなかった?
違う!
私が手を離すのが早かった?
違う!
非力なのだ。この子は常軌を逸した非力だ。どんな生活をすればこんなことになるの?もしかして、謎の奇病?
もう訳がわからない。
「あんた ここに何しに来たの?」
「え?お水をね...「違う!この西の山の道場に!」
答える後輩の言葉にかぶせながら更に問う詩の剣幕に後輩が大きな眼をさらに見開き、そして口を開いた。
「...改めてご挨拶致します。私の名前は周と申します。数日前からこちらの道場でお世話になっています。
お師匠様のご意向を伺ってからのことにはなりますが、私も剣士を目指して頑張りたいと思っています。」
何やら盛大に勘違いした様子で、後輩もとい周が、丁寧な挨拶をする。
詩はこれからの、この後輩の修行が
とても負荷のかかるものになると感じた。
そもそもモノになるのか?
いっそ他の道に...。
詩は首をふる。
自分は、知っているではないか。モノになるかならないかじゃない。努力をするかしないかだ。
常人が天才に勝つ方法はただ一つ、誰よりも努力する事だ。
この後輩がどちらを選ぶかなんて 本人にしか判らない、ならば もし本人が本気で剣士を目指すというなら、ともに目指そうではないか いや、そうするべきだ!
「取り敢えず身なりを整えて、お師匠様の指示を仰ぎなさいよね。あたしは道場に行くから。じゃあね、周。」
もう一度桶に水を、今度は半分くらい注ぎ乾いた地面に置き。詩は離れに向かった。
ご覧いただきありがとうございました。
うちのヒロイン適性皆無のヒロインです。
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