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国境の宿

もう随分前に、同じ名前で出した物の焼き直しです。

よろしければどうぞご覧下さい。


 ここは隣国ドゥーラとの国境に近い峠の宿だ。

夏でも厳しいこのルートを、

小雪の舞い始める初冬に選ぶ酔狂な旅人がいた。

二人は囲炉裏を挟んで寛いでいる。


「イヤー 美味かった。

こんな辺鄙な宿......おっと失礼

ちょっと酔いがまわったか。

ハハハ!

あんちゃん、どこか名店で板前でもしていたのか?」

少し離れた厨房の主人に

大きな声で話し掛けながら、

大柄で色黒の男が杯を重ねる。


「有り難う御座います。

いえ、

私は都で剣士をしていたもので.....。

料理は、ほぼ自己流といいますか、

家族に少し

料理にうるさい者がいまして、

その者の特訓の賜物ですかね。」

主人というには

やや年若い感のある青年は、

後片付けなど

忙しなく体を動かしながらも、

愛想よく相槌をうつ。


「ほう。

主人はここに来て

まだ日が浅いと言うことか?」

手酌でちびちびやっていた

顔色の悪い神経質そうな男が割って入る。


「そうですね。

ここには数日前にやって来ました、

まだ荷解きも

終わり切ってはいないんですよ。」


「そういやぁ、あんちゃん、

いい身体してるもんなぁ!」

大柄な男がさも上機嫌に会話に割って入る。


「では、主だった武器は

荷物の中ということか?」

神経質そうな男は

壁に飾ってある大きな斧に視線をやる。


「ああ......。

流石にそれの武器としての使用期限は

とっくに尽きていますよ。」

青年は愛おしげな視線を

その斧に向けたあとに首を横に振る。


男達も納得げにうなづく。


調度品としては、きちんと手入れはされているものの、その斧に現役時代の力強さは感じられないからだ。


「とはいえ、あんな事件の後だ......。」

神経質そうな男は

意味ありげに視線を巡らす。



「!」

足下辺りに違和感を感じた青年は、

咄嗟にかまどの陰に飛び退き、

男達の方に視線をやる。


が、大柄な男はすでに囲炉裏の側には居らず、

常人とは思えぬ速さで一直線に

青年との間合いを詰め、

その顔面めがけて

大振りのパンチを繰り出そうとしていた。


先程の違和感の事もある、

素手での応戦にやや不安を感じ、

青年は咄嗟に羽釜の蓋で

男のパンチをはたき落とす。


間違いなく

クリティカルヒットを狙っていた男は、

虚をつかれ前のめりに体勢を崩しながら

土間に這いつくばった。


「どういう事ですか?」

青年は、囲炉裏の側でまだ酒を味わっている男に

鋭い視線をやる。


「おや。かわすとは若さかね?

あの爺さんは魔法が発現するまで

気付かない様だったが。」

ゆったりと男が立ち上がる。

なんとも嫌らしい笑みを浮かべて。


「まあ、どちらにしても誤差レベルではあるがね。」

強者の余裕といったところか。


「やはり、お前達が。どうして?」


「おやおや。

当事者と言うのは、

存外状況が見えていないものだな。」

わざと大袈裟に

肩をすくめ男は言葉を続ける。


「あの爺さんが

我々の商品と拠点を駄目にしたからに決まっている。」


「!」


「最適だとは思わないかい?

アルカナの民は。

丈夫で美しい身体、

簡単な魔法で無力化でき、

従順な家畜に出来る。

奴隷としてはこれ以上の素材があるかね?」

神経質そうな男が何やら呪文の様なものを唱える。


地中から先程の違和感が溢れる。


「その通り!

あんちゃんもいい商品になりそうだ!」

懲りもせず、大柄な男がまた大振りなパンチを繰り出す。


神経質そうな男が

指をほんの少し動かすと、

地面に無数の発光と獣の爪で引き裂いた様な亀裂ができる。


青年は大柄な男の腕をいとも簡単に掴み、地面に叩き付けると、釜戸の上に飛び乗る。


地面に取り残された大柄な男は、神経質な男の魔法で無数の傷を負い転げ回っている。


「それなのにあの爺さんは、

小癪にも我らの正体に気付き

商品を何処かに逃した挙句、

説教まで垂れて来やがった。」

忌々しげに囲炉裏の向こう側の空間に男が目をやった。

おそらくあそこで

前主人は彼らを説得しようとしたのだろう。


結果は

男の魔法に、なす術なく敗退してしまったのだが......。


(引退したとはいえ、

剣士が己の得物を手に取ることもなく散るなど......。

どれだけ口惜しかったことだろう。)


青年は無意識に奥歯を食いしばっている事に気付く。

いけない、いつも注意されていたではないか、

肝心な時に力が散ってしまうと、

その時その瞬間まで剣士は力まず自然体でと。

青年は軽く息を吐く。


「なるほど、

そこに転がっている方の身体強化魔法と、

あなたの攻撃魔法では

レベルが違うと言う事ですか?

ならばこちらも

現役剣士の力量を

存分にお見せしなくては、いけませんね。」


(本来なら

この程度の小物丸腰でも制圧は可能だ。

だが、どうしてもあの斧で一太刀。)


『言霊』

青年は左手の指を軽く交差させる

辺りの気が僅かに濃くなる


『強化』

左手の周りのやや濃い気が

すっと散って

壁際の斧に纏わりつく。


「本来

武器としての天寿は

終わっている斧ですが......。」

いつ壁際に移動したのか、青年は斧に手を掛ける。


「子悪党の一人や二人

成敗する程度なら造作も無い事でしょう。」

青年はその力強い武器を

ヒョイと片手で構え、冷ややかな笑みを浮かべる。

直視するのが躊躇われる程の

気押されそうな闘気をまとって。


はたして、宿の主人は、またその手にあるあれは、先程自分達が見ていた者と物は同じものなのか、男達は息を呑んだ。


任務終了。


時は二ヶ月程さかのぼる。


 この宿のある山の下流で 二つの遺体が発見された。


何か大きな力で割かれたような無数の傷を負った男女の区別も難しい遺体。


彼らがどこの誰であるかは意外にも早く判明した。

 かの宿の主人とその妻に身を賭して逃してもらったと、周辺の小集落の住人から訴えが有ったからだった。

調査を進めるうちに、周辺の小集落のいくつかがここ数年で、大した理由もなく消滅していたことも判明した。


これらの原因が先程の奴隷商人たちだった。



 青年改め、爽は

自身の少年期に思いを馳せていた。

 西の山の道場で修行を積んだとはいえ、

まだまだひよっ子の自分達にも

気さくに接してくれる大先輩。

大きな斧がトレードマークの

彼は武骨な武器に似合わず

気配り上手な人垂らしであった。

あの人の晩年は、本来ならもっと......。



空が白み始めた頃。

宿屋の戸口から数人の剣士達が入って来た。

同僚の凱と部下達だ。

見る影もなくボコボコにされた2人を縛り上げて連行して行く。


これから沢山の事柄を吐いてもらわねばならない。


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― 新着の感想 ―
応援できればと思い来ました(^ ^) 厨房の主人と旅人の世間話が、そのまま討伐任務に変わっていく流れが好みでした。書く側だと、こういう「まだ何も明かさない時間」の情報の出し方がいちばん難しい。 飾…
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