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人騒がせな訪問客

お越しくださり、ありがとうございます。

若干時系列がおかしなことになっていますごめんなさい。


 今日は爽が返ってくる。

いつも道場のことを気にかけてくれる気配り上手な兄弟子の帰省に、何か好物でも作って迎えたいと周は大忙しだ。

あいにく勇と詩は任務で西の山を離れている。

茄子の煮浸し。よし

きのこじる。よし

ほかほかご飯。よし


あっ

鱒......。

痛恨のミスだ下のイケスに放しておいた鱒を取りに行っていない。


「あー兄。なんか困ってる?俺、俺たちで出来ること?」

ちびっ子剣士の功と桃の期待に輝いた目が周をとらえていた。


「えっと......。」

反射的にイケスに。と言ってしまいそうになるのをグッと抑えて周は考えた。


さて、どうしたものか......。

イケスの鱒はちびっ子達の手に余る。


そうだ。

「では、功と桃に火の番を頼んでも良いかな?」

自分がイケスの鱒を取ってくる間に七輪に火を移しておいて欲しいとお願いして。周はイケスに急いだ。


下のイケスまでの距離的最短は急な斜面を慎重に降りるコースだ。慎重になるので結局は時間がかかるのだが.....。

そこを周は躊躇することなく駆け降りながら、功と桃のやる気に満ちた顔を思い出す。

かつて自身もそうだったように、功たちも先輩の役に立ちたいと不必要に肩に力が入っていた。

こういう時は、ほぼ間違いなく失敗する。

もう不安しかない。

(火傷などしなければ良いのだけれど、とにかく急ごう。)


油の乗ってそうな鱒を数匹バケツに入れてそっと立ち上がった時。


一瞬、師匠の結界が揺らいだ。


「!」

師匠の結界が揺らぐなどあるはずのない事だ、ほんの一瞬の違和感に、周はいいしれぬ不安を覚える。


イケスの脇にバケツを置くと周は来た時よりも更に真っ直ぐにそして早く母屋を目指した。


駆けながら周は自身の装備を確かめ、そして後悔する。

懐に小刀が一丁。料理をしていたので仕方ないとはいえ、自分は剣士ではないか、せめてこれが護身用のもなら......。



台所の土間に功と桃の姿は無かった。

血痕や争った形跡はないが、まだ火の入っていない七輪が転がっている。


(何故、二人を台所に残した?)

激しい後悔に周は襲われるが、今はそこに気持ちを割いてはいられない。


静まり返った台所奥に、男が2人立っているのだ。

手前には大きな体躯の見知らぬ男。奥にはフードを目深に被り顔の判別が付かない男。


「おや?まだ居たのか。」

手前の男が背中の大剣に手をかけながら周を見る。その腕には鉄色の手甲が付けられていた。


ーー鉄色ーーアルカナの守護者(アルカナ三将)にのみ許された色、猛火の色、爽の色だ。


(何故、この男がコレを?)


「皆に何をした!」

周は全身の血が怒りで沸騰する気がした。


「おや、生きがいいな坊主。」

男が不敵に笑い、勢いよく大剣を抜く......事は叶わなかった。

抜刀するより早く喉元に小刀を突きつけらたからだ。


「もう一度聞く。っ!」

周が道場の仲間の安否を確かようと声を上げるも、男の丸太のような腕に払いのけられる。

周は一瞬早く飛び退き、やや間合いを取る。


(やはり調理用では殺傷能力に欠ける)

男の素手の攻撃を交わしながら、周は武器に代わるものを探す。


男の大きな体に似合わない、俊敏な動きに、周はジリジリと囲炉裏のある奥まで追い込まれていた。


男が溜めに入った、大技が来る。

周はあえて避けるタイミングを一呼吸の半分ほどずらす。


男の強烈なパンチの風圧で囲炉裏の灰が舞う。その視界の悪さを利用して火箸を握った周が音もなく凱に近づく、そして、首元めがけて火箸を振り下ろそうとした瞬間に。大きな声で静止が入った。


「爽!もう手加減できんぞ!

面白がってないでこの辺で止めろ。興が乗って、お前の大事な後輩が怪我でもしたらどうする?」


「え?」

周の手から火箸が落ちた、じわりと右手に痛みが広がる。


「面白がっていたのは凱じゃないか。見せなくてもいい猛火の装束まで......。」


「兄さま?」

周は目を見開いたいたまま、膝から崩れようにして固まってしまった。



信の居間にて


いつもいつも。周は〜、周が〜、とあまりにうるさいから見にきってやった。と凱が豪快笑う。


信は少し呆れながらも、周の入れた茶を無言ですする。


「で?君の見立てはどうだった?」

爽が楽しそうに聞けば


「予想以上だ。あの瞬間、鋼のナタでも包丁でもなく。ミスリル製の火箸に手がいくのは、偶然でも大したものだ。万が一あれで急所を狙われていたら。俺でも肝が冷える。」

そう言う凱を信は満足そうに眺めてからまた茶をすすった。


お付き合いくださり、ありがとうございました。

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