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詩が箒を持たされる訳

読んでくださりありがとうございます。


「だから!

もうちょっと足の力をぬけって言ってんだろ。

春告げる神子がそんな仁王立ちしてどうする。」

勇が怒鳴る。


「はあ?じゃあ、あんたがやりゃ良いでしょう?このボケナスが!」

ひらひらのビラビラの小っ恥ずかしい仮装だけでもこっちのメンタルは削られっぱなしなのだと、詩のイライラは爆発寸前だ。


アルカナの厳しい冬の終わりを告げる春の訪れ。


それを祝う人々のお祭り。

春告げる祭りの、春告げる神子(持ち回りで集落の誰かが役を引き受ける)を、今年は詩がする。

......らしい。

自宅での練習に家族が根を上げたらしく詩の練習(特訓)は西の山の信の道場に丸投げされた。


そもそも祭りの神子にそこまで複雑な何かは求められていない。にも関わらずだ。


見た目は申し分ない。なにせ詩は美少女だ。しかも彼女の生家は衣類を扱う商家なのだから。

可愛い娘のために全力で春告げる神子の衣装を作った。

それはもう近年稀に見る出来だ。


詩曰く、ひらひらのビラビラだが。


本人の認識はさておき、それは素晴らしい春告げる神子になる筈だったのだが......。

詩は性格もやや雑だが、動きはさらに雑だ。

普段の稽古着でも偉そうにぶんぶん腕を振りどすどすと歩く詩は目立つ。

それが、春告げる神子のような繊細な物を纏うともう悪目立ちでは済まなくなる。


とにかく、詩の動きを何とかしなければ......。

信の道場の名前にかかわる。

兄弟弟子たちの奮闘が始まった。


「詩姉様。ほらもっと動きを小さくしましょう。あー兄さまを見て。」


「.....。」


「詩姉。手は前で組んでみたらどうかな?」


「こう?」


「何で腕を組むんだよ!手だよ手!」


「うるさいわね!横からごちゃごちゃ言わないでよね!」


「えっと。ちょっと、お茶でもどうかな?」

あまりの殺伐とした空気に耐えられず周が声を掛ければ。


「......。あんた、余裕ね?」

明らかに八つ当たりの答えが返ってくる。


「ちょっと、ひと息入れるのも良いと思うよ。」

とばっちりも、いいところだ。と思いつつ、少し薄く入れたほうじ茶を皆にも勧める。


 詩の気持も分からないでもない。と周は思う。


(さて、どうしたものか。)


こうしている間にも詩の怒気をはらんだ視線が痛い。


「周。お前が教えてやれよ。春告げる神子の動き方!」

勇は妙案を思い付いたと得意満面だ。


(ほんとに。なんてことを......。)


期待に満ちたまわりの目と、さらに温度を下げた詩の気配に、逃げ場のない事を周は悟った。


(なんで今回に限り帰らないんだろう。詩?)


夜通し延々と罵声を浴びせられながら。

それでも、周は詩に根気強く付き合った

が、全く成果が上がらない。


「やってるでしょ!これ以上、何をどうしろって言うのよ?絡んでくるんじゃないわよ。」

一向に出ない結果に詩も焦っているのだろう。いつも以上に口が悪い。


ため息混じりに周がお茶を勧めれば、飲んでやるとも。

とでも言いそうな勢いで茶器をひったくる詩の様子が周は不憫でならない。


ーーー

いつも自信に満ちた、歩く裁判官のような詩が、ただ可憐に歩けないというだけで、こんなに追い詰められている。


可憐に歩けようが歩けまいがどうでも良いではないか。


春告げる神子が本当に可憐かどうかなんて誰も知らないのに......。


「あっ。」

周は閃いてしまった。


そうだ!なぜ可憐にこだわったんだ。詩には詩の完成系があるじゃないか!

ーーー


「詩 少し待ってて。」

周は道場に急いだ。

(なぜこんな簡単な事に気づかなかったのだろう。)



「詩。これを構えてみよう。ね!」


「......本気?」

詩をはじめ皆がドン引きだ。

勇は腹がよじれると転げ回っている。


しかし、周に譲る気はない。


道場から持ってきた詩愛用の槍を差し出す。



数時間後 

「また特大のボケかましにきたのかって焦ったぜ。」


「ほんとなんの嫌がらせかって、思ったわ。」


今だからみたいに2人は言うが。


 あのタイミングで勇は笑い転げていたし、詩には危うく槍で突かれかけた周としては複雑だ。


 色々試した結果 詩はなんとなく長い棒状のもの(箒とか叩き?などもギリギリ可)を持つと、動きが武人の落ち着きを帯びることが分かった。


春告げる神子の時には棒術で使う棒を良い感じに飾る形でようやく一同が納得する形に落ち着いた。


「よう!春告げる門番。似合ってるぜ。」などと軽口を叩いた勇を詩がしばきたおして、初代飾りが一瞬でダメになったのは3人だけの秘密だ。

お付き合いくださり、ありがとうございました。

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