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講義 花嫁の覚悟とは

お越し下さりありがとうございます


 最近西の山は騒がしい。

(ゆう)の取り巻きガールズの来山頻度が上がっているのだ。

「勇さまの好きな大福をお持ちしましたの。」

「先日勇さまが褒めて下さった小間物屋で購入した手甲です。刺繍が美しいでしょ?」

皆一様に着飾り、黄色い声を上げている。


先日の町の寄り合いの席で、何やら、勇の株がおばちゃんたちの間で上昇したらしい。


勇は強くて朗らかで三男坊で婿にするならとても良い若者だ。少し脳筋ではあるが、アルカナでは至極普通の脳筋だ。これは狙い目だ。


道場の畑にて

「なあ。あー兄アイツらなんとなんない?」畑の青虫を潰しながらちびっ子剣士の(たくみ)が愚痴る

「私も!私もアレ嫌い!早く帰って欲しい!」


 最近の早期教育ブームに乗って西の山にもちびっ子剣士が増えつつある。


面倒見はいいが性格がキツイ(うた)

ほぼカンと本能で生きてる(ゆう)と比べると(あまね)はいくぶんか無難に見える。


「おや、お山(地元の年寄りは西の山を仲間内では、お山と呼ぶ)の秘蔵っ子!今度うちの孫がお世話になるんだ。よろしく頼むわ!」

「まあまあ!さすが信さまの道場ねえ。通えばこんなに礼儀正しくなれるのね。うちの子のお行儀を見てやってね。」

など何かと保護者が周に声をかけてくる。


真に受ける事はない。分かっている、分かっているのだが、どうもお願いされると、そうしたくなるのだ。


おかげで、ここ最近の周のまわりは田舎の分校のような有り様だ。

畑の世話をしている時も 台所で野菜の下ごしらえをしている時も倉庫で備品の確認をしている時も、常に何かしら小さいのがうろちょろしている。


「ところで巧?今日は座学の特訓では無かったのかな?」

「うぇ。あー兄知ってたんだ。いいんだよ俺剣士になるんだし。」

巧は青虫から目を離さずに抗弁する。


「うーん。剣士にも学問は必要だよ、世界の理を知らなくては、時節は読めないし、自然の中で生命を繋ぐことも....。」


(あっ、やってしまた。子供達の興味が一気に霧散した、どうしよう。)


周は何か術はないかと考えて 妙案を思いつく。これはきっとイケる!


「えっと、みんなは詩がとても強い剣士って知ってる?」

「はーい!白銀の乙女。」

うん、よく知ってるね偉い偉いと頷きながら、周は脳内でガッツポーズした。


「詩はよく書庫にいると思わない?」

「うーん。あっ!箒持ってる。掃除好き?」

「えっ?えっとね....。いや 詩は掃除が好きなんじゃなくて....何も持ってないと手をブンブン振って、ドスドス歩っ!あっ違う、そうじゃなくて....。」

駄目だ全然上手くいかない。お師匠様みたいにしたいのに。


この可愛いちびっ子剣士たちに座学の大切さを教えたいだけなのに......。

周は遠くを見つめた。


母屋の台所にて

「そこ。掃除してって居たわよね?」

「はーい!頑張りました。」

フンスと鼻息荒くちびっ子剣士たちがびしょびしょの雑巾片手に詩の方を見る。

目には誉めて!という文字が浮かんでみえるようだ。しかしこれは誉めてはいけない、心意気が技量と釣り合っていない。

「あんたたち、先ずは雑巾を持って井戸端まで来なさい。」

雑巾の絞り方から教えなくては、詩は戸口へと踵をかえした。


その時だった。


「あまねさんて、こちらかしら?」

戸口に見知らぬ少女たちが立っていた。


「....。居たら、なに?」

ちびっ子剣士たちを背後に庇い、詩が言い放つ。


へっ....?え....?あれ?ちょっと違うじゃない。もっとこうトッポそな娘じゃなかったの。話が違うと少女たちがオタオタし始める。


え?あーにいは畑だよとか言わなくていい事を言い出しそうな、阿保のちびっ子剣士を左手で制し。詩は、あえて勝ち誇った様な気配を纏う。やや大袈裟に。


「!何よ。ちょっと綺麗だからって、良い気にならないでよね。アンタなんか所詮、飯炊ババアと変わらないんだから。」


「へー。じゃあ、アンタたちは飯炊きババア以下ってことかしら?」

普段は使わないちょっと気取った物言いに、ほんの少しだけ、闘気を織り込む。


びくりっと少女たちの肩が震えた。


当たり前だ、何年ここで修行をしていると思っているのだ、その辺の村娘の5人や10人威圧するなど造作もない。多分100人くらいはいけるはずだ。うん、きっといける。


アンタなんか、ただのお母さんポジションなのよ!今に見てらっしゃい。この咬ませ犬!など、どこかで聞いた様な陳腐な捨て台詞を残して少女たちは台所を後にした。


「詩姉あれ、勇兄の取り巻きーズ....。」

「来なさい。雑巾の絞り方を教えるから。」

詩は仏頂面でちびっ子剣士たちを中庭のほうに促した。


再び畑にて

あー兄!ねえ、どうしたの?

急に黙りこんで動かない周にちびっ子剣士たちが群がっている。


まずいな。嫌な感じだ。この子達をなんとかしないと。


母屋の方から 怒りだか焦りだか妬みだか兎に角、あまり良くない感じをまとった人達が、こちら側に移動して来るのが周にはひしひしと分かる。あれは教育上良くない。


「あー!私としたことが、しくじってしまった。」

難しい顔で黙りこくっていた周が、急に似合わない大声で、棒読みの台詞を吐く姿に、今度はちびっ子剣士たちが固まる。


「誰か....。上の母屋まで取りに行ってくれる、子達は居ないかな?....えっと....た...たる?そう!樽!樽を。」

もうへたくそにも程がある。言霊使いは嘘をつかないとは言うが、ここまで下手くそは多分アルカナ中探しても周くらいだろう。


ところが、意外にもちびっ子剣士たちには効果があった様だ。


わかった。行ってくる。母屋の何処にあるの?など素直に従ってくれる。

本日初めて、ちびっ子剣士たちが周の思惑通りに、行動してくれている。

感動で涙が出そうになるが、今はそれどころではない。

一瞬でも早く、この子達をここから避難させなくては。


子供達がゾロゾロと母屋に去っていくのと入れ替わりに、先程、詩とやり合った少女たちの一向が畑の下の道を通り過ぎようとした。その時目に入ってしまったのだ。畑でこちらの気配を伺う周の姿が。


「ねえ。あれ!」

「あっ、居た。」

少女たちは色めき立つ。やはりさっきのアレは替え玉だったのだ。そうだ、あの稽古着だ。先日勇に手製の手甲をつけてやっていた。娘だ!


一向は畑までの道を駆け上り、周と対峙する。

少女たちの中に自然と笑みが漏れる。勝てる!コイツになら、絶対に。


目の前の地味な色合いの鈍臭そうな娘。

自分達を見上げる大きな瞳には、人のよさがにじみ出ている。喧嘩などした事もないのではないだろうか。

多分ちょっと凄めば直ぐに泣き出してしまうだろう。


少女たちは作戦を変える。

「もう花ちゃんたら、ほんと料理上手なんだからあ。勇さまも誉めてたしいい。」

「あらー梅ちゃんこそ.....以下省略」

何のことはない 褒め合いでこの地味な恋敵予備軍を牽制しようと言うのだ。


見るからに弱っちそうな、こんな娘に嫌味を言って、泣かれでもすれば、それこそ寝覚が悪い。


ひとしきり。誉めあって気が済んだところで、娘の方に目をやる、まさか泣いてないわよねっと。


娘は律儀にも少女たちのはなしを一所懸命に聞いていたようだ。何故かちょっと微笑ましげな表情のようにも見える。


「あんた、わかってるの?優さまは、将来有望な剣士なんだから。妻になるのはこの私たちなのよ!」

格下の相手に馬鹿にされた様で癪にさわったのだろう。リーダー格の花が 大きな声を出す。


その声にビビったのか、どこか緊張感のなかった、娘の顔がやや引きしまる。


この反応に、泣かせるのは、まずいと思っていた少女たちは、願ってもいない絶妙な効果が、ひきだせたとに小躍りしそうになった。ここから一気に畳み掛けよう!


少女たちが悦に入ったその刹那、周が動いた。


「そうか!あなた方は勇のお嫁さん候補なんだね。」

娘、もとい周が一気に間を詰める。


いつ動いたのか少女たちには、まったく見えない。


「そうかそうか、それは素敵だね。今から花嫁修行なんて。」


心意気がすごい。さすがは未来のアルカナ三将夫人候補だ。周はひとり頷きまくる。


そして、花のいでたちと手足の運びに、違和感を覚える。


人を見掛けで判断するものでは無いが、それにしても、お粗末ではないのか?

先程は料理上手との話だったが、どう見ても包丁を握った事がある手には見えない。また裁縫を嗜んでいるようにも。


これはまずい。勇にはいずれ王都での任務をこなす、立派な剣士になってもらはねばならないのに、支える側がこれでは困るのだ。

大丈夫、幸い時間は、まだまだある。

アルカナ剣士を支えてもらう、大切なお嬢さん方に、きちんと心構えと技術を身に付けていただこう。


その頃、母屋の台所にて


「詩姉!あー兄を助けて!」

血相を変えて飛び込んできたのは周の後について畑に行ったはずの、ちびっ子剣士たちだった。


ちびっ子剣士たちは気付いていたのだ。何かから、周が自分達を遠ざけようと、可笑しなことを言い出したのだと。


母屋へ向かうなら畑下の道が最短。しかし、周はあえて遠回りの上の道を指し示した。

下の道から脅威が迫っている証拠だ。ちびっ子剣士達はそう確信した。

畑の上から様子を伺えば、やって来たのは、件の取り巻きーズだ。やばい。あー兄では戦闘力が足りない!この恐ろしい難局を無事に乗り切るのだ。何としても、もっと強くて怖い人を連れてこなくては。

ちびっ子剣士達は母屋に全力疾走した。



「なんかんエグいのがいっぱい来て。あー兄を取り囲んだんだ。」

「あー兄さま口下手だもの 絶対泣かされちゃう。」

口々に詩に畑に行って周を助けろと、うるさい。


今更だが、周は見掛けよりは、はるかに強い、しかし口げんかなら....。負けて泣き出すはあり得ないが、言いまかされたり、丸め込まれる未来は想像に難くない。


詩は畑に駆けた。


畑に着いた詩が見たもの、それは

げっそりとした表情で、周の口上を聞かされる少女たちの姿であった。


「あ!詩。」

良いところに来た。詩からも剣士の伴侶の心構えについて教えてあげてよ。

こんな混沌とした状況で、柔らかく笑う周が、むしろ恐ろしい。今度は何のスイッチが入った?


詩に周の意識が向いたその隙に少女たちは一目散に逃げ出した。勿論、捨てゼリフなど無い。

それはもう神業級の逃げ足だった。


「あんた、なにしたの?」


「えっ」


「だから何したの?あの馬鹿女たちに。」


詩、馬鹿なんていけないよ。あの子たちは王都の剣士を支える伴侶になりたいって名乗りをあげてくれたんだよ。ありがたい事じゃないか。と周は詩を嗜める。


ほんとコイツ しばき倒してやりたい。


お付き合い、ありがとうございました

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