第七話 なんかドラゴンと戦うことになったんだけど神託どうなってんだよおい返事しろよ
夜がやって来た。遠くから鳥の鳴き声が聞こえてくる。風で運ばれてくる草の匂い。やや肌寒く、両手で体を抱えた。
「さあ、行くぞ。片付けは済んだな?」
「は〜い、やりましたよ。」
キャンプ跡地──恐ろしく簡素なものだったが──は薪の灰のみを残し、綺麗さっぱり痕跡が消えていた。荷物は簡単なバッグに入れ、串は茂みに捨てた。
流星の落ちる先、大きな山。その頂は、天まで届くようだった。
「たっかいな、あれ。登るのにどれだけかかるんだ。」
「麓に行くだけでいいですよね?」
顎に手を当て、真剣そうに悩む俺を、冷めた目で見るシアラ。
「そういうことじゃないんだよ。ロマン、って言うか。」
「よく分からないんでさっさと行きますよ。神託が待ってくれるか分からないですから。」
シアラは俺の手をぎゅっと握り、歩き出した。それに引っ張られるようにして、俺も歩き始める。丈の長い草が、ややうざったい。耳元で、虫の羽音が聞こえた。
「……殺虫剤持ってくればよかったかなぁ……。」
ぷーん(笑)ぷーん(笑)と、死ぬほど不快だ。煽ってるのかこのやろ。潰すぞ。
しかし、左手はシアラと繋いでいるので、右手だけで仕留められるか、と言ったら無理だ。諦めよう。ただし!次見た時は容赦しないからな!
そうして、すんごく大きな山の麓に着いた。木が生い茂り、様々な実をつけている。大きく空いた洞窟の中で、キノコが発光していた。
「……食える?あれ。」
「バカ言わないでください。変なもの食べちゃダメですよ。」
トゲトゲで黄色い、大きな果実に手を伸ばそうとしたところ、シアラにピシッと止められた。その実はやや臭かった。
「……で、俺らは麓に来たわけだけど。……こっからどうするって聞いてないよな。」
「そうですね。帰りましょうか?」
「ん〜、まあ、どうこうしろって言われてないもんな。帰るか。」
俺たちは振り返り、元の街へ帰ろうとした。しかし、何かすごく恐ろしいものが見える。緑色の巨体、大きな翼、傷だらけの鱗。そして……鋭そうすぎる鉤爪。遠くの夜空から、こちらへ向かって来ていた。
「……し、シアラ。あれは……何?」
「わかるでしょう!?ドラゴンですよドラゴン!」
「おお。終わった。」
「諦めないでください!ちょっと!」
体から魂が抜けそうだ。ドラゴンって、絶対強いじゃないか。もう少しキャリアを積んでから戦わせてくれ……。
俺たちの後ろにある洞窟。多分、これってドラゴンの巣穴だ……。何してくれてるんだよ、神託。死んだじゃないか。おい、何とか言えよ。逃げるな。
「……逃げれる?これ。」
「無理でしょうね。戦うしかありません。」
「終わったぁ……。」
シアラも俺も、全身をガタガタ震わせていた。超怖い。そう思っていただろう。
『天翔る巨竜の宝玉を貫きなさい』
「おいちょっと待て文句言わせろ。」
すう、と消える神託の気配。俺の手にはランスが握られていた。真っ赤な刺々しいランス。とても聖なる武器には見えない。
横からもただならぬ気配がして、シアラの方を向くと、シアラにも武器が支給されていた。俺とは違い、純白のロングソードだった。
「……戦え、ということか。」
「無茶言いますね。」
巨竜が舞い降りる。どでかい衝撃が、大地を揺らす。竜の荒い息遣いが、静かな夜に響く。
俺たちは各々の武器を握り締めた。




