第八話 発見
俺は必死で前世の記憶を辿っていた。何か、竜を倒す手かがりになりそうなものはないか。非統治区域で捨て子として生まれ、便利屋の師匠のもと成長し、春花組を経てゼクス社に入社したあの人生の中で、竜を殺すのに使えそうなものはないか。
記憶の隅にちらつく、青い影。火薬の匂い。握ったグリップの感触が思い出される。春花組の牡丹として──下から二番目の階級として──戦場に赴いた、あの戦いが思い出される。レイピアを巧みに操り、銃をぶっ放し、対抗組織たちを抹殺していったあの戦い。その一つに、刺突術の手がかりを見つけた。
「……シアラ、少し気を引くことができるか?」
俺は一歩右に下がった。枯葉を踏みつける乾いた音に、身を震わせる。ドラゴンは依然としてその場で首を上下させていて、仕掛けてくる気はまだ無さそうだ。だから、今のうちにやらなければならない。
『硫黄により鼻骨を折り、口内を露出させなさい』
新たなる神託がやってくる。今度の神託も、やはり真意を読み取りづらい。これは仕方のないこととして処理した方が良いだろう。今更変わるとは思えない。今回の神託はシアラにも伝わっていたようで、耳打ちをしてきた。
「これは……ドラゴンについて言っているのではないですか?恐らくですが。」
「ありがとう。考えてみる。」
硫黄など、先ほどまでの道のりで見た覚えはなかった。よって、何かの例えである可能性が高いだろう。鼻骨を折ることにもダイレクトで関係させられないため、鼻骨を折るというのも比喩である可能性が高い。今の俺の脳機能は、かつてないほど性能を上げていた。
しかし、今のままではヒントが少なすぎる。思いつくのは至難の業だろう。だから、まずは相手を観察するところから始める。
ドラゴンが大きく息を吸い込んだ。首を上に持ち上げ、その上方向から俺たちを見下している。その口角から、火が漏れ出ているのを確認した。
「炎が吐かれそうか。シアラ、岩陰もしくは木陰に隠れろ。最悪洞窟の中に逃げろ。」
俺とシアラは二手に分かれ、全力の疾走でそばの木陰に避難した。竜の目は俺の方向へと向けられている。よほど器用でない限り、このドラゴンはシアラのことを追えていないはずだ。大きな山を背に、青々と生い茂った大木の裏に避難する。もう俺の視界からはドラゴンの一部分しか見えない。
シアラの方に目をやる。彼女が逃げた方向には、いくつかの木と岩々が並んでおり、身を隠す場所に不足はなさそうだった。反対に、俺の方にはこの巨木以外小さな枯れ木と小石が散乱しているのみ。ちょいとでも知能のある動物なら、俺の隠れている場所など簡単に見破るだろう。
「……手がかりを。」
周囲を見渡す。神託を紐解く鍵になるものはないか。心臓はますます鼓動を早め、冷や汗がのぼってきた。そして、俺は特徴的な匂いに気がついた。それはこの木の上、トゲトゲした果実から漂っているようだった。
その手がかりについて考えようとした時、ドラゴンが首を下ろした。勢いよく、炎を伴って。炎はこの木を集中的に焦がしているから、俺を確実に狙っていることがはっきりとわかった。幸いにも、水分が多く含まれている木だったようで、完全に木炭化して崩れ落ちるまでには時間がかかりそうだった。
俺は熱さに耐えながらも、なんとかドラゴンの方向を向いた。大口を開けて、炎の息を吐き続けるドラゴン。その口内に、光り輝くものがあった。
あれが、もしかすると……宝玉。そう結びつけているうちに俺の目の前に炎が飛んできたので、急いで木陰に隠れた。まずは、この炎から抜け出さないといけない。幸いにも炎は赤く、不完全燃焼なので、そこまで温度は高くない。水をかぶればほぼ無傷で突破できるだろう。そこで、果実に目をつけた。手の届く場所にあった大きなトゲトゲの果実を割る。中から大量の果汁が溢れ出す。
「おお……これなら──ってくっせえ!ヴォエ!」
一番の問題点は死ぬほど臭かったことだ。屁みたいな匂いがする。硫黄臭い。そう、硫黄臭い。俺はまた閃いた。硫黄とは、これだ。この果実だ。そして、臭いものを嗅ぐと鼻が曲がる。鼻が曲がると……鼻骨が折れる。そういうことか。完全に理解した。
俺は、この臭う果実をドラゴンに投げつけ、ドラゴンへ吐き気を襲わせ、口が開いたところを、ランスで貫けばいい。
だが、俺は今からこの臭すぎる果汁をかぶって、火の中を通り抜けなければならない。
「……うえっ……憂鬱だ……。」
覚悟を決め、俺は頭から果汁を被った。意外にも、口に入った果汁は甘くクリーミーだった。臭かったが。




