第六話 意⭐︎味⭐︎不⭐︎明
『月が大きな衣を纏うとき、涙の落ちる山の麓に足を運びなさい』
「………。」
「………。」
なんだ、これ。
「し、シアラ。その……意味わかる?」
「私に聞かないでくださいよ。わかるわけないじゃないですか。」
「そうだよなぁ……。」
俺らは、町外れの森で野宿していた。赤く染まり出した空に、鳥の群れが浮かんでいる。ぱちぱちと火の粉を吐き出す焚き火に、少しかじかむ手を伸ばした。
「なんというか……今までの神託とは毛色が違うな?」
のぶとい笛のような鳥の鳴き声がこだまする。もたれかかった木の上で、二羽の鳥が巣作りをしていた。
「私、今までの神託を知らないからなんとも言えないんですが。」
「そうか、そうだったね……。」
シアラは、獣の皮をそのまま着たみたいな服の袖を、ぎゅっと握っていた。やや手先が赤みを帯びてきている。
「にしても、急に冷え込んだな。つい先日までは、結構あったかかったじゃないか。」
「あのですね……知らないんですか?四季があるんですよ。春、夏、秋、冬。今はちょうど冬に入り始めたところなんです。」
四季ぐらい、俺だって知ってる。だって企業統治区住みだったから。でも、流石にこうも一気に変わるなんてことは……なんてことは……いや、やっぱ普通にあったか。
「んまあそうなんだけどさ、ん〜と……愚痴みたいなもんだよ。」
よっこいしょと立ち上がり、夕食の準備をする。街で買った魔物の皮製バッグに詰め込んだ、変な肉を火であぶる。赤かった表面が、段々と茶色く焦げ目を作っていく。肉汁の滴が垂れる。刺していた串をつたって、手のひらまできそうになったから、慌てて持ち手を上にした。
「とりあえず、飯だよ飯。」
竹串に刺さった四つの肉が、いい匂いを漂わせる。もうすっかりあたりは夜に呑み込まれ、風が草原を駆ける音しか残っていなかった。
「いただきます!」
俺は、一本の肉串に齧り付いた。シアラにも差し出す。
「もらいますね。──あっち!」
「気をつけて。肉汁垂れてくるから。」
「りょーかいです。」
温かかった。こういうのでいいんだよ、こういうので。異世界というより、キャンプしに来たみたいな気分だけど。
ふと、西の空に何かが落ちるのが見えた。一個だけじゃない、何個も。
「あ、あれ……流れ星じゃないですか?」
「本当だな……。」
食べ終えた串を地面に突き刺す。そして、ゆっくりと立ち上がる。
「……あ。」
「どうしたんだ?」
「わかったかもしれません。」
点と点がつながったように頷くシアラを見て、何が起こったのかと不思議に思った。だが、その流れ星の源泉を辿っていくと、意味がわかった。
「月から……流れ星が。」
月には大きな雲がかかっていた。そして、その雲の中から、流れ星が出ていた。──もちろん、そう見えただけだけれども、確かにそれは『月が大きな衣を纏い、涙を流すとき』だった。
「……よし、行くか。流れ星の落ちる山の麓に。」
そうして、俺はもう一本の肉串にかぶりついた。
「行くんじゃなかったんですか?」
「バカ言え。飯は食ってからだろ。」




