第五話 お食事処
あの事件以来、俺は神託が来ないように願っていた。なんだか、神託に恐怖を覚えたのだ。
「………もう大丈夫か?シアラ。」
「何を心配してるんですかね。私はあなたほど心が弱っちくないですよ。」
「そうか……そこまで言えるなら、大丈夫かな。」
でも、俺からすれば、虚勢を張っているようにしか見えなかった。いつになく、その声や立ち振る舞いは弱々しい。
「……貴方に心配されるほど、傷ついた覚えはないのですが。」
「あ〜、はいはい。んじゃ、飯でも食いにいくか。」
「………切り替えが早いのはいいことで。」
ため息のような笑いをこぼしたのを聞いて、俺はちょっとだけ安心することができた。せっかくだから、ちょっといいものを食べよう。
中世ヨーロッパ風の街並みには、飲食店がわかりにくく展開されている。よく目を凝らさないと見つけられないが、事前に俺が調査しておいた。そのおかげで、だいぶスムーズに入店できた。
「ここは美味しい魚料理がウリなんだ。何か食べたいものはある?」
「特には。美味しければなんでもいいです。」
「よし、そうしよう。じゃあ、店員さ〜ん!」
店員は来なかった。不思議なものを見るようにこちらを一瞥したあと、厨房へ戻っていった。
「………あれ?」
困惑する俺をよそに、シアラはカウンターに歩いていって注文した。ああ、そうやるのか。わざわざテーブルまで来ないんだね、勉強になったよ恥ずかしい。
「ミキト、香味焼き魚で良いですよね。」
「うん。」
「では、二つお願いします。」
あいよ、という気のいいお兄ちゃんの声がここまで届く。煉瓦造りの店内は日の光が届きづらく、やや薄暗かった。
「……はぁ、ワインでも飲もうかな………。ワインも頼んでおいて!」
「今更?まあいいですけど。ワインもお願いします。」
こうして数分後、料理は提供された。でかい皿にでけえ魚が二つスパイシーな感じで載っている。そして、俺の前に置かれたワインはまだ年代の浅いものだそうだが、まあ十分か。
「それじゃあいただきま──」
『ワインにヨウ化カリウム水溶液を加えなさい』
「んなもん持ってないよ。」
また嫌な神託がとんできた。また一体俺に何をさせようとしてるんだ。あとそんなもの持ってないし。そう心の中で疑問に思っていると、無色透明の小瓶が現れた。
「………出てきた。」
「出てきましたね。」
こんなよくわからないこと、シアラにやらせるわけにはいかない。俺はその中身をワインのグラスに注いだ。すると、中に鮮やかな黄色の沈殿が発生した。
「……またよくわからないものが出てきましたね?」
「う〜ん、いや……なんだったっけ。あ、そうそう。ヨウ化鉛の実験だ、これ。」
「ヨウ化鉛?」
「鉛とヨウ素が結びついた物質。」
………ん?つまり、このワインには鉛が入っていたということで……。
「よし、このワインはクソだ。甘くするために鉛が入っている。」
「………?」
しかし、その事実が判明したとして、俺にできることはない。飲まないという選択をするしかないだろう。
「………チッ、悪徳め。」
今回ばかりは神託に助けられた。が……信用しすぎるのはやめておこう。うまい魚にナイフをぶっ刺し、口に運びながらそう考えた。




