第二話 奴隷の子
大通りは人が多かった。色とりどりの服を着た人々が、談笑しながら歩いている。並んだ露店では、主に食料品が売買されていた。レンガ造りの建物が並び、窓は小さい。乾いた空気が地面を吹き抜けた。
『右に曲がり、暗い路地に入ること』
「なんでわざわざそんな場所に……。まあ、何かいいことがあるんだろうな?」
ようやく感じれた異世界らしさを手放すのは惜しかったが、仕方なく路地裏に足を踏み入れる。表の明るさからは一転し、薄暗い路地では奴隷売買が行われていた。
子供から老人まで、ボロボロの布切れを着せられた男女が、壁を背にして並べられている。誰も彼もがうなだれ、目からは光を失っていた。
その中央には、嫌味そうな男が頬杖をつきながら床に寝そべっていた。札束を数えながら、新たなる客を待っている。
『奴隷商人を侮辱した後、背後の安定を取り払いなさい』
「……背後の安定を?ん〜?」
再び、神託が届く。背後の安定を取り払う。……この男のバックについてるスポンサーなどを押さえればいいのだろうか。異世界に転生したというのに、似たような仕事をする羽目になるのは御免である。
ならば、単純に壁を壊せばいいのだろうか。壁は背もたれになる。
「……さて。まあ、ちゃちゃっとやるか……。」
俺は奴隷商人の目の前まで歩いた。そいつは俺を新しい客として見たのか、顔を上げ、藁に座り直した。その男が口を開く前に、俺は浮かんだ侮辱の言葉を吐いた。
「おい、奴隷を使って商売するなんて!男としてみっともなくないのか!」
「……てめえなんなんだよ、客じゃねぇのか!?それに、多様性だろ!男としてとか言うんじゃねえ!」
「あっそこ!?」
圧倒的に斜め上の回答をされ、困惑する。多様性……?なんだそれは。暴走者の分類の話?怠惰とか、虚飾とか?俺を殺した暴走者の分類は憤怒だったな、と思い出す。
「あと、これは正当な商売だ!お前に邪魔される権利はないね!」
「奴隷商人は古いんだよ!今は企業を作って社員を働かせ、悠々自適に暮らすのがトレンドだぞ!お前はおそらくみすぼらしい家に住んでるんだろうな!」
「な、何言ってやがる!?良くわからねぇ!」
さっきの言葉は効かなかったようなので、追加で罵倒する。周囲の奴隷に、変人を見る目を向けられている。少し居心地が悪い。
ポケットに入っていた、爆発機構B-FTM2を奴隷商人の背後に投げつけた。一瞬で建物だけ壊す優れものだ。ぱらぱらと粉塵が上がる。
「な、何してやがる!?」
「俺に聞かないでくれ。よく分かってない。」
れんがの壁が破壊されるとともに、奴隷たちの首にかけられている、鎖を繋ぎ止めていた杭が壊れた。解放されたことに歓喜したか、数名の若い奴隷たちは一目散に逃げ出した。
『呼吸器系を停止し、光へと突き進んでください』
「こういう時ぐらい分かりやすく言ってほしいな。マジで。」
文句を垂れつつ、俺は息を止めて表路地へ走った。背後から奴隷商人の断末魔が上がる。もういいだろうと思い、後ろを振り向けば、壁から紫色のガスらしきものが噴き出していた。それは奴隷商人を包み、顔を紫色に変色させていく。
残っていた奴隷も、それを見て一目散に逃げ出した。
「ん〜、まあ良し!よく分からないけど。」
完全に表路地に出ず、入口あたりで立ち止まっている俺のところへ、一人の少女がやって来た。首に鎖が巻きつけられているのを見るに、奴隷だったのだろう。
「あの、助けてもらって感謝してます。」
「ああ、良いんだ。俺は正義感とかで動いたわけじゃないから。」
にしても、この子は可愛かった。水色のふわふわ髪、黄色の美しい目。俺よりやや低い身長で、華奢だった。粗末な衣服をまとっていることが悔やまれる。きちんと整えれば、絶対に見違える。
「じゃあ、行くところないんでついていって良いですか?」
「おっ急だね……?まあ、良いよ。ここでほっぽり出しても、良いことないだろうし。」
「ありがとうございます。しばらく、そちらでお世話になります。」
その少女は頭を下げた。纏っているボロ切れがずり落ちそうになって、俺は慌てて抑えた。特に気にする様子もなく、少女は頭を上げた。
そして、俺はこの少女に伝えなければならないことがある。超大切なことだ。
「……あのさ。」
少女は首を傾げた。
「……俺も行くとこないって話する?」
俺は左足を蹴られた。結構痛かった。




