31.あなたが望む未来のために
「シア、行くぞ」
「ええ、いつでも問題ないわ」
私はエルディルが用意した装置に自分の魔力を記憶させた。
「記録に成功した。それにしても、かなりの魔力量だな」
「これでも元魔王だからね。ニア、これで結界石は作れそう?」
「はい。オルテンシア様の魔力を基盤に組み込んでみます。既存の結界石だと人間側が解除できてしまう可能性もあるので」
「力技ではない、正当な方法での結界石の解き方はこちらでも探ってはいるが手に入れるにはまだ時間がかかりそうだ」
今、オルテンシアの邸の一室で元魔王である私、側近のソカル、元勇者のエルディルに元聖女のニアが一堂に会していた。
誰が想像できだろうか。敵対ではなく、協力者として同じ部屋に集まることになるなんて。
「結界石を解除するのは枢機卿でしたし、以下のも階級の者たちは方法を知りません。聖女である私も」
どんなに聖女と崇めていても所詮は使い捨ての道具
重要機密度の高い情報は全て秘匿されていたはずだ。その点に関して、期待はしていない。そこはエルディルに期待するしかない。
まぁ、全ての情報を開示してくれるかは分からないけど。それでも現状、伝手があるのはエルディルだけ。
オルテンシアの父は教会にかなりの寄付をしているから伝手がないわけではない。ただエルディルのように機密情報を手に入れられるほどではない。
「焦らず一つずついくしかない。ニアは取り敢えず、結界石に専念して。島にやって来る同胞はまだまだ増える。彼らの安全のためにも結果石の存在は必要不可欠になる」
「はい、オルテンシア様」
島には洞窟があり、魔物たちはそこで寝泊まりをしている。下級の魔物は洞窟の中で暮らす者が多く、高位の魔物は城跡などを自分なりに暮らしやすいようにカスタマイズして暮らしていたり、人に紛れて暮らしている。
島にいるのは下級なのでいらないかもしれないけど、それでも可能であれば雨風が凌げる建物が幾つかあればいいと思う。
ただ、人を遣すわけにはいかない島で建設など不可能。
同胞が自分たちで積極的に動いてくれたらば実現可能だけど、今のところその様子はない。
仕方がないので、材料だけは島に置いている。
気が向いた時にでも好きに作ってくれという形式をとっているのだ。
魔王の感覚で命令したとしても反発を招くだけだ。
住みやすい場所は提供するけど、干渉は最低限にしよう。少し、寂しいけど。仕方のないことだ。
「ここは任せるわ。ソカル、行きましょう」
「はい」
私たちは同胞を助けるために次に狙う奴隷商の下見に行くことになっていた。
***
「さぁ、さぁ、次はこちらの魔物」
薄暗い会場に仮面をつけた人間がスポットライトに当てられた子供を見つめる。
「・・・・・魔物?」
「人間、に見えますね」
肌に鱗のような痣はあるが、私にもソカルにもその子供が魔物には見えなかった。
「はっ、笑わせる。魔物だなんだと差別するくせに人間と魔物の区別もつかないのか」
ソカルも「同感です」と頷く。
「どうしますか、オルテンシア様」
同胞は島に送っている。あの子供は同胞ではない。しかし、あの奇妙な痣は顔にまであるから隠して暮らすのは無理だろう。だからと言って島には送れない。彼女は魔物ではなく人間だから。そんなことは魔物たちは瞬時に見分ける。
それにしても以外だ。ソカルにとっては憎い人間であることに変わりはないのに。
思ったことがそのまま顔に出ていたのだろう。ソカルが気まずげに顔を逸らした。
「人間は憎いです。ですが、あなたは同胞のために歴史を繰り返さない道を模索しています。その最側近である私がいつまでも憎み続けるわけにはいきませんから。あなたが憎しみに耐えるというのなら、私も耐えます。けれど、再びあなたに危害を加えるなら容赦はしません」
本当にソカルは変わらない。忠誠心の強さも、過激なところも。だからこそ、安心すると同時に間違えられないというプレッシャーもある。
幸せに、安全に生をまっとうして欲しい同胞の中には当然、ソカルも入っているから。
「そうならないために、最善を尽くしましょう」
「はい」




