27.超えられない壁に当たったから、超えられるように崩そうとしただけなのに
side.エルディル
『もしもの時は一緒に死のう。もう二度と、あなたを置いて逝ったりはしないと約束する』
勇者だった時には決して味わうことのなかった感情が体内を蠢いている。処理の仕方が分からない。ただ、これを誰かにぶつけるのは間違っていることは分かっている。
シアが俺を本当の意味で信用できないのも仕方がないことだ。
俺は前世で彼女を殺した勇者なのだから。
仕方がないと分かっている。だが、それでも消えないこのドス黒い感情に自分はやはり勇者とは程遠い性質を持っているのだと思う。
『もしもの時は一緒に死のう。もう二度と、あなたを置いて逝ったりはしないと約束する』
「俺にもいつか言ってくれるだろうか?」
そんな淡い期待を抱きながら今はソカルにその場を譲って俺は俺のできることをしに行く。
公爵として彼女の婚約者として本当の意味で人間から守れるのは俺だけだ。
***
「オーウェン公爵」
シアが魔物を助け出した時に一緒に助けられた人間は彼女が呼んでいた騎士団によって保護された。
そのフォローは婚約者であり、人間側である俺の役目だ。そのために王宮に行ったら、目障りな女が近づいてきた。彼女は懲りるということを知らないのかもしれない。
いや、王女という最高の地位が彼女の絶対の自信となっているのだろう。それが何をしても許されるという傲慢さに繋がっている。彼女の兄はそこまで甘くも優しくもないようだが。
「どうかしましたか、王女殿下」
「レイアード伯爵令嬢と婚約したというのは本当ですか?」
「ええ。それがどうかしましたか?」
「どうかって、だって、レイアード伯爵令嬢はライナーの婚約者でしょう?」
何を言っているんだ、この女は。
「婚約は破棄されています。それは何よりもあなたが一番ご存知でしょう」
彼女はシアに嫉妬しているのだ。
自分よりも美しいシアに。
王宮の中では誰よりも一番美しい、可愛いと言われていた王女殿下
彼女自身もそれを信じて疑わなかった。
しかし、社交界に出るようになった彼女はそこでシアに会った。
絶対に勝てない相手がそこにいた。それは彼女が初めて味わう挫折だった。
「殿下こそ、アノン侯爵令息とご婚約はしないのですか?」
「えっ」
「だって、愛し合っていたのでしょう?」
「ちが」
「相手の婚約を破綻させてまで叶えたかった恋なのでしょう。王位は兄君が継ぐので、殿下は他国の王に嫁ぐか臣籍降下しかないので、侯爵夫人になることは可能ですよ。陛下もきっと反対はなさらないでしょう」
まぁ、彼女が他国の王族に嫁ぐのは無理だけど。だって、俺が全て潰したから。
婚約者のいる男に色目を使って、婚約を破綻させたという情報を流しておいた。王もガイヌスも火消しで大変だろう。消えないように常に俺の部下が薪をくべているから。
「・・・・・私が、侯爵夫人?王女である私が・・・・」
耐えられないだろうな。格下になるのも、傅く立場になるのも。プライドだけは無駄に高いからな。
「少し早いですがお祝いの言葉を述べさせていただきますね。王女殿下、アノン侯爵令息との婚約、おめでとうございます。それでは所用があるので、失礼しますね」
まぁ、あんたは侯爵夫人にすらなれないけどな。
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