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26.約束

「今日はもう下がっていいよ」


部屋に戻ってソカルにそう指示したけど、彼は一向に私の部屋から出て行こうとはしない。


「どうかした?」


「大丈夫ですか?無理をしていませんか?」


先ほどの魔物たちからの拒絶に対してのことを心配しているのだろう。

正直、かなり応えた。でも、それは仕方のないことだ。お互いに。


「覚悟はしていたわ。どんなに魔王としての魂や記憶があってもそれは表面的に分かるものではないし、今の私は人間だもの。みんなが憎んでいる人間。だからこれは仕方のないことよ」

「それでも、あなたは我々のためにまだ続けるのですのか?」

「ええ。だって、私は魔王だもの」


存在と魂が矛盾しているのは分かっている。

人間の体に魔王の魂が宿っているのだもの。どうしたって矛盾は生まれるわ。それが歪みになる可能性もゼロじゃない。でも、だからといって何もせず、同胞が虐げられていることを無視し続けることはできない。


「もし、責任を感じているのであれば、それは違います」

「ソカル?」

「仕掛けてきたのは人間、自分たち以外を受け付けない度量の狭い生き物である彼ら、あなたを守れなかった我々に責任と罪があります。あなただけが全てを背負う必要はありません」


そうかもしれない。ソカルの言い分が分からないわけじゃない。でも・・・・・。


「陛下、あなたが傷つく姿なんて見たくないんです。私は薄情な魔物です。あなたが同胞を大切に思っていることも、魔王としての責務に誇りを持っていることも分かっています。それでも、私は同胞よりも、責務よりもあなたが大事です。あなた以外いらない」


私を抱きしめるソカルは、私よりも大きいのにまるで闇に怯える子供のようだった。

肩がしとしとと濡れているのは彼が泣いているからだろう。声を噛み殺して。


「私は・・・・」


何を言うつもりだろう?


私は知らない。私が殺されたことを知ったソカルの絶望も、同胞が以降味わうことになった地獄も。

私は知らない。


同胞が私に向けるのは憎しみ、猜疑。

魔王として向けられていた感情とは真逆のものばかり。それに傷つかないわけじゃない。そんな私をソカルは一番側で見続けることになる。

それに、私の側には魔王を殺した勇者もいるし、同胞の中には聖女もいる。二人とも”元”がつくけど。


二人が反旗を翻す可能性はある。歴史は繰り返す。そうなった時、今の私では彼らには敵わない。

私はまた、ソカルを置いて逝くことになる。ソカルが最も恐れていることだ。

ソカルを傷つけてまでするべきだろうか?


「・・・・・ソカル」


私がソカルにしてあげられること、それは・・・・・。


「ソカル、私は同胞が苦しんでいるのを放っておけない。ごめん。あなたが私を想ってくれるのはとても嬉しいし、あなたがいてくれるのを心強くも感じている。それでも、ごめんね。あなたの想いを私は優先できない」


私の言葉が推測できたのだろう。ソカルは「分かっています」と言って笑っていたが、無理しているのは見れば分かった。


「だから、もしもの時は一緒に死のう。もう二度と、あなたを置いて逝ったりはしないと約束する」

「っ。は、い。はいっ」


それが私にできる精一杯だった。

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