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25.たとえ、恨まれていたとしても

助けた同胞はそのまま島へ送った。

私とソカルで手分けして送った。奴隷商の商品には人間も含まれていた。これには困った。

人間を奴隷にするのは違法とされている。売るのも買うのも。


「いかが致します?」


人間を助ける義理はない。

魔物を大量に転移させたことも知られたくはない。そこにオルテンシア(私)が関わっているなんて知られて良いはずがない。

何を企んでいる?と邪推する奴らは少なからずいるだろう。

しかも最悪なことに邪推する人間はかなりの権力者になる。オルテンシアの立場って本当に面倒ね。


「お嬢様?」


人間は魔物(私たち)を大勢殺した。

殺して当然、虐げて当然だと言って。

だから私たちも殺した。


殺されるから、殺す。

殺すから、殺される。


それをずっと繰り返すの?

ここで彼らを救うことにメリットはない。

でも・・・・・。


「騎士団に連絡をして、彼らを保護させて。奴隷商の人間は全員捕縛よ。魔法で眠らせているから簡単でしょう」

「承知しました」


悲劇は繰り返さない。そう、決めた。

それに、怯えるあの姿は人間に怯える弱い魔物たちと同じだ。

本来、人間と魔物に大差はない。種族が違うというだけで、感情ある生き物であることに変わりはないのだ。

それが理解できないまでに関係が拗れたのもまた、感情がある生き物故なのかもしれない。


「行きましょう。騎士団が到着してからでは面倒よ」

「はい」


魔法をたくさん使ったせいで、私は自分を転移することができない。

本当にこの体は不便だ。


「大丈夫ですよ、お嬢様。あなたには私がいますから」


そう言ってソカルは私の腰を抱いた。まるで、もう二度と離さないとでも言うように。

奴隷商から魔物を転移させた島まで転移するだけなのに大袈裟な・・・・・いや、魔王の感覚で考えてはいけないな。

魔物よりも魔力保有量の少ない人間では転移できる距離ではない。そもそも、転移自体が不可能に等しいか。それだけ魔力を使う。それなら、やはりこのオルテンシアというのは特別な人間なのだろう。

ソカルのように連発が厳しくとも、できないわけではないのだから。


魔王の器だけはある。


「着きましたよ、お嬢様」

「ああ」


互いに身を寄せ合った魔物たちは怯えたように私を見ていた。中でも気になるのは私と行動を共にするソカルだろう。魔物が人間と行動を共にするなど本来はあり得ない。


「うわぁっ!!」


頭に獣の耳を生やした人型の魔物のオスが決死の覚悟で私に襲いかかってきた。が、その手が私に届く前にソカルによって組み倒された。それでも彼は憎しみを込めた目で私を睨みつける。

正直、かつての同胞にそのような目で見られるのは辛い。でも、仕方がない。今の私は人間だから。


私やソカル、勇者のように見ただけで誰の魂を持っているかなんて普通は分からないものだ。それを分かってしまう私たちが特殊なだけ。


「俺たちをどうするつもりだっ!」

「どうもしない。ただ、ここで静かに、平穏に暮らせたらと願うだけだ」

「そんな冗談みたいな話を信じろと?だいたい、お前に何のメリットがあるっ!」


ソカルに拘束されながらも噛み付く彼の目には消えることのない憎しみがある。

人型の魔物は高額で取引される。

男なら人よりも筋力や体力があるので労働力として使える。女子供は嗜好品にもなる。


「ソカル様もソカル様だ。なぜ、人間の言うことを聞くのですかっ!人間は魔王様を殺したっ!憎むべき種族だっ!傲慢で、狡猾で、俺たちから全てを奪う」


ちらりと、一緒に転移させた元聖女の魔物を見る。彼女は真っ青な顔でガタガタと震えていた。それを人間に対する恐怖からだと勘違いした知り合いの魔物だろうか。肩を抱き寄せ、「大丈夫よ」と繰り返している。

でも、彼女が恐れているのは人間ではないだろう。


今は同胞となった魔物の人間に対する憎しみが怖いのだ。

もし、聖女の生まれ変わりだとバレたら、もし元人間だとバレたらその時、同胞の憎しみが自分にも向くことが。


「否定はしない。それで、どうする?やり返すか?そして繰り返すのか?何度も、何度も、どちらかが滅ぶまで」

「当然だっ!共存などあり得ない」

「結果、お前の大切な者たちが、もしその者たちがいないというのならば想像して欲しい。今後生まれてくるであろう命が、お前と、お前たちを同じ苦しみと痛みを、憎しみを抱き続けることになる。そういう未来がお前たちの手で確約されるのだと」


「まるで地獄だ」と呟いた声が聞こえたのか、それとも私のいう通り想像したのか。

見渡した顔はどれも歪んでいた。


「殺されるから、殺すの?殺したから殺されるの?その結果が今ではないの?」

「お前たち人間がそれを言うのか」


低く唸るような声は拘束された魔物ではなく、身を寄せ合ってこちらを睨みつけている魔物の誰かが放ったものだった。


人間、そうね。今の私はただの人間。もう、彼ら先導していける立場ではない。それでも、私は魔王なのだ。彼らを守る魔王でありたいと思う。


「ソカル様っ!ソカル様はこんな人間の女に絆されたんですか?」


先ほどの皮切りに魔物たちが騒ぎ始めた。収拾がつかなくなる前に止めなくてはと思った時、どす黒く、鋭い殺気が真横から放たれた。それを瞬時に悟った魔物たちは一瞬で悟る。懐かしいな、この雰囲気。

ソカルが本気でキレると魔王である私でも手に負えない時があったと脳天気に思ってしまったのは決して現実逃避などではない。


「私は魔王陛下以外に仕えることはない。今回は許してやる。だが、二度はない」

「・・・・・・っ、だ、だったら、その女は」


このソカルを前に尚も噛み付けるなんてすごいな。それだけ、目の前の私(人間)が気に入らないのだろう。


「私は確かに人間だ。だが、その魂は違う」


これは言おうか、どうしようか迷った。信じられない話しだし、混乱を招くだけかもしれない。でも、人間に恨みを持っている同胞に何も言わず、黙って従えというのは無理があるし暴動が起きかねない。

それだけの体力と気力があるかは分からないけど。


それに魔王だと信じもらえたとしても、今は人間だ。それをどう受け入れてくれるかは分からない。

最悪、安寧の地だけ作って、表立って関わることはしない方がいいかもしれない。幸い、こちらにはソカルがいる。

ソカルには申し訳ないけど、矢面に立ってもらおう。まぁ、最終手段だ。


「私は魔王だった。死んで、人間に生まれ変わった」

「・・・・・ふ、ふざけるなっ!俺たちの魔王様を愚弄するな」

「そうよっ!そんな話し、信じられないわっ!」

「きっと、私たちを何かに使うつもりよっ!人間なんて、私たちのことをただの道具や素材としか見てないもの」


「黙れっ!」


頼ってばかりで申し訳ないけど、ソカルの一喝で静かになった。有難い。


「信じられないのは仕方がない。今すぐ信じてくれと言うつもりはない。ただ、最後にこれだけは言わせてくれ。すまなかった」


私が頭を下げるとさっきとは違う動揺やざわめきが聞こえた。人間が魔物に頭を下げるなんて今までなかったからな。


「魔王(私)が不甲斐ないばかりに皆に迷惑をかけた。今、同胞である君たちが理不尽を強要されているのは全て魔王(私)のせいだ。恨みに思うのは当然。恨んでくれていい。ただ、皆が安心して暮らせる場所だけは作らせてくれ。必ず、お前たち同胞が心安らかに暮らせる場所を作ることを約束する」


誰も何も言わなかった。


今日は色々あって疲れているだろうから私もソカルを連れて帰ることにした。その方がゆっくりと休めるはずだ。

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