24.未来のために
まさか、こんな所にいるとは。
元魔王(私)や元勇者が転生しているのだ。ならば、聖女も同じように転生していてもおかしくはない。
そう、おかしくはないのだ。
だが、まさか魔物に転生しているとは。
それも、人型ではなく獣の姿、しかも草食動物の獣。明らかに下位の魔物だ。
こういう魔物は戦闘に不向きだから一番先に狙われる。
彼女が奴隷商にいるのもそのせいだろう。
記憶があるかどうかはあ分からないが、神も自分と酷な運命を与えたものだ。
「さて、どうしたものか」
「殺しますか?」
「・・・・・・」
ソカル、めちゃくちゃ良い笑顔で何を言っている。
彼女は確かに敵だった。でも、今は守るべき同胞だ。
彼女に聖女としての記憶があり、元聖女として私を殺しに動くならばともかく、そうでないのなら同胞として保護しなくてはいけない。
聖女には確かに言いたいことは山のようにある。
実際、聞いてもみたいものだ。
自分たちが”悪”だと勝手に決めつけて、無抵抗の魔物を殺しまくった上で厚顔無恥にも”正義”を語った聖女が自分と同じ価値観を持った人間に魔物として狩られるのはどんな気分だったのかと。
今、どう思っているのかと。
ここに聖女はいない。目の前にいるのは聖女の魂を持ったただの同胞だ。故に、何もできはしない。そもそも、復讐はしないと決めた。
魔物たちの未来のために。憎しみの連鎖は完全に断ち切るつもりだ。
その私が、聖女の魂を持っているだけの哀れな同胞を手にかけるわけにはいかない。
「馬鹿言っていないで、助けるぞ」
「・・・・はい」
実に不満そうだ。
「エルディルに預けよう」
彼も一眼でこの女が元聖女だと分かるだろう。ならば、無碍にはすまい。彼が魔物に対してどのような感情を持っているかは分からないけど。だからこそ、ここには連れて来れなかった。
「ソカル、勘違いをするな。恨んでいないわけではない。何も思わないわけでもない。でも、前世の憎しみを今世に持ち込むつもりはないんだ。もちろん、今を生きる魔物たちの人間に対する憎悪を忘れているわけではないよ。それでも私は人間に弓を弾く真似はしない。それが、魔物の未来を作ると信じている」
ソカルは拳を握り締め、口を真一文字に結んでから一度目を閉じた。そして、とても、それはとても苦々しく「分かりました。あなたがそう仰るなら私に否はございません」なんて言うものだから笑ってしまった。
「では、行こうか。彼らを陽の光の下へ導かなければ」
「はい」
そう、憎しみに未来はない。
それは前世で嫌というほど経験した。だから、決めたのだ。
恨んでいないわけではない。
思わないわけではない。
聖女よ、なぜ守らなければならない同胞に転生したのか、と。
聖女も勇者も、人間も殺してしまいたい。
でも、それではダメなのだ。それでは魔物は生き残れない。
私は魔王だ。
今は違っても、それでも魔王なのだ。だから私は選ぶ。
己の憎しみよりも、同胞の未来を。
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