21.身の程知らず
side.ライナー
「最近のオークションは凄いな」
「ああ。どこの誰が今までこんなに隠し持っていたんだってぐらい年代物ばかり出てくる」
「中には価値が下がっている物もあるが、それでもコレクター連中がこぞって買っているからかなりの額になっているだろう」
「ああ。見るだけでも楽しいが、あそこまで賑わっているとつい手が伸びるよな」
「やめておけよ。俺たちみたいなのが手を出すとすぐに破産するぞ」
「全くだな。金持ち連中が羨ましいぜ」
「くそっ」
最近、社交界を賑わせているのはオークションで小出しにされている年代物の代物だ。
我が侯爵家でもそういった物を父上がよく購入していた。
侯爵家としての格付けにもなるし、話題にもなるからだ。だが、今はそんな余裕すらない。
それもこれも全て、あの業突く張りな伯爵家のせいだ。
我が侯爵家と縁を結べただけでも光栄に思うべきなのに、身の程知らずゆえに婚約破棄をされるのも当然のことなのに、慰謝料を請求してくるなど。
それに問題はオルテンシアだけではない。
あれ以来、王女殿下と会えていないし、王家からも正式に抗議が来たそうだ。
『このバカ息子がっ!』
オルテンシアと婚約破棄をし、王女殿下にプロポーズ。
相思相愛の俺たちはきっと幸せな家庭を築けるし、侯爵家は王家と縁繋ぎになる。
幸せな未来が待っているはずだったのに、あの言うことを聞くことしかできない無能な女が変わった。
おかげで大失敗
邸に帰ってすぐ父上に頬を殴られた。
『よくも泥を塗ってくれたな。おまけに、王女殿下まで巻き込みおってからに』
侯爵家には俺しかいないので廃嫡は免れたが、今までのように王女殿下に贈り物をすることが難しくなった。
それに殿下も会ってくださらない。
「おい、あれ」
「ああ、アノン侯爵令息だな。あの夜会は見ものだったな」
当たり前だ。
王女殿下にプロポーズするために何ヶ月も前から計画していたんだからな。
「そういやぁ、聞いたか。アノン侯爵の話」
父上の?
「ああ、かなりの物をオークションに出しているそうだな。伯爵家から請求された慰謝料を払うために金策に励んでいるとか」
「でも、時期が悪かったな。侯爵家の物だからかなり値ははるが、最近年代物が多く出品しているせいで客がそっちに流れているからな」
「アノン侯爵が出している物は、良い物ではあるから普段だったら買うけど、出品者不明の年代物は今を逃したら二度と手に入らない一点ものばかりだからな」
伯爵家など格下、侯爵家に慰謝料を請求する立場にない。父上も無視をすればいいのに。
そもそも、こちらが貴重な時間を伯爵家如きに費やしてやったのだから俺たちの方が請求してもいいだろう。それを慈悲の心で我慢してやっているというのに厚顔無恥にも程がある。
それを父上に言ったら再び殴られた。おかげで俺の顔に青あざができ、いつも俺を見るときゃあきゃあ言って寄ってきた令嬢から逃げられる始末。
何もかもオルテンシアのせいだ。
「さっさとレイアード伯爵家に行って、オルテンシアに馬鹿な真似はするなと説教してやらないとな」
そのために謹慎中の中抜け出しているのだ。
なのに・・・・・。
「申し訳ありません、約束のないものをお通しすることはできません」
と、使用人風情が俺の行手を阻む。しかも、伯爵家の使用人如きが。
「俺はオルテンシアの婚約者だ」
「ああ、あなたが身の程知らずにもお嬢様をフッた」
何やらブツブツ言った後、使用人は満面の笑みを浮かべた。実に友好的な笑みなのに、なぜか俺は心の底から震え上がるほどの恐怖を感じた。
「お嬢様の婚約者は現在、エルディル・オーウェン公爵です・・・・・実に不愉快ですが。ええ、とてもとても不愉快ですが。それでもあなたのような虫ケラよりはパン一粒ほどはマシでしょう」
「婚約者?俺と婚約破棄をして間も無く?まさか、浮気をして、ひっ」
さっきの比じゃないほどの恐怖が俺を襲った。
俺は今さっき首を斬られたのではないかという錯覚するほどの殺気を奴から感じたのだ。
「おい、ソカルさんよう、朝っぱらから景気の良い殺気を出さんでくれんか?肌がピリピリして仕方がねぇ」
また新たな男が出てきた。
若いな。使用人か?まさか、こいつもオルテンシアの恋人とか言わないよな。
なんて、ふしだらな女だ。
「申し訳ありません、ルーファス様」
「”様”はやめてくれ。むず痒くなる」
「そういうわけにはいきません。お嬢様の兄君ですから」
「あんたと同じ、ただの使用人だよ。で?俺は俺の仕事をしたら良いのか?」
「ええ、よろしくお願いします」
「りょーかい」
「・・・・・・えっ」
猫でも捕まえるように首根っこを掴まれたと思ったら、門の前に放り出されていた。
しかも、侯爵家に抗議が入ったそうで戻るなり再び父上に殴られた。
おかげで両頬がパンパンに晴れがっているし、目の上に青あざができた。
部屋の中と外、窓の外に使用人を置かれて完全に抜け出せなくなってしまった。
くそっ。
全てオルテンシアのせいだ。主人が主人なら、使用人も使用人だな。
侯爵家に抗議をするなど、身の程知らずにも程がある。
「覚えてろよ、オルテンシア」
この時の俺は邸の外から俺を見る不穏な目があったことに全く気付かなかった。
それが悪夢の始まりだということにも。




