20.過去の遺産
「お帰り、ソカル」
「・・・・・」
「どうかした?」
「いえ、ただ、あなたが戻って来たのだという実感が急に湧いてきて」
「ふふふふ、今更?」
「ええ、そうですね」
再開してから離れたのは初めてだからかしらね。私も、彼が戻って来てどこかホッとしている自分がいるもの。
ああ、今度はちゃんと私の元に戻って来てくれたと。
変ね。置いて逝ってしまったのは私なのに。
「それで、どうでした?」
「人間に知られている拠点はすべて荒らされていたので何も残されてはいませんでした。隠し部屋も墓地に至っては掘り返してまで根こそぎ奪われていました」
「悪で名を馳せた盗賊でもそこまではしない」とソカルは悪態をついていた。
そうね。
意外に思う人も多いかもしれないけど、悪事をする人間というのは信心深い者が多いのだ。
数多の恨みを買っている自覚があるからだろう。
だからこそ、墓荒らしなどを好んでする盗賊はいない。
でも、それは対象が人間の場合のみ。
魔物はその対象には入らない。
尊厳など皆無、何をしても許される存在。
暴力を振るおうとも、殺そうとも罪に問われることなどないのだ。
墓荒らしなど問題にすらならないだろう。
魔物はその者に纏わる物を一緒に埋葬する習慣がある。
魔物の墓荒らしはさぞ、金になったでしょうね。
「しかし、隠れ家の多くは見つかっていなかったようです。当時と現在では価値が変わっているでしょうからどれほどになるかはまだ分かりませんが、それでもかなりの額になると思います」
年代物として価値が上がる物もあれば、下がる物もあるだろう。
「・・・・・随分と色褪せているわね」
状態が良い物もあれば当然悪い物もある。長年、誰の手にも触れられずにいたのだから仕方がない。
埃もだいぶ被っている。
どんなに栄華を誇ろうともいつかは衰退するもの。そうと分かっていても虚しくなる。
中には思い出深い物も多くある。
「幾つか、残しておきますか?」
相変わらず、ソカルは私の心情の機微に敏感だな。
未練がないわけじゃない。それでも・・・・・。
「いや、全て売ってしまおう」
過ぎ去った日々に想いを馳せる暇などない。
「ならば、それは俺が引き受けよう。信頼できる鑑定士と商人を知っている。口も堅い。物の出所も分からないように細工をしておこう」
「人間の貴族とは違って刻印があるわけでも魔物特有の物というわけでもないのに?」
私にもソカルにもその手の伝手がない。ガルンシアの伝手は悪人ばかりで信用できないから使えない。だからエルディルの申し出は有難いが、少し慎重すぎやしないか?
まぁ、慎重過ぎるに越したことはないだろうが、細工をしてバレた方が面倒だと思うけど。
「大金が手に入った時、面倒ごとは増える。前の婚約者が再度、縁を結ぼうと考える可能性だってある」
「?」
オルテンシアは伯爵令嬢、社交界での地位は高くはない。伯爵以上の者が横槍を入れる可能性はある。権力に物を言わせてこちらに不利な契約を結ばされる可能性だってある。
それは、分からなくもない。でも、なぜそこで元婚約者が出てくる?
正直、魔族のことばかりで元婚約者のことなどすっかり忘れていた。
というか、既に終わった話だろう。
「知らなかったのか?お前の父親が婚約破棄の慰謝料、かなり吹っかけたそうだ。しかも、悪徳な手段を用いて侯爵家を追い込んでいる。まだ、廃嫡はされていないがそう遠くない未来そうなるだろう。それに、たとえそうなったとしても侯爵家の困窮は免れないだろうな」
ガルンシアは子供がどうなろうと興味を持たない。それこそ、死んだとしてもそこらのゴミと一緒に捨てさせるだろう。だが、自身に恥をかかせた者、家に泥を塗った者を絶対に許さない。それ故の報復だろう。
「大金目当てに振った女に求婚すると?厚顔無恥にも程があると思いますが?」
先にソカルに言われてしまった。
「俺に殺気を飛ばすな。俺が振ったわけではない」
「害虫であることに変わりはない」
「・・・・・」
「・・・・・」
「この狭い部屋で殺気を飛ばし合うな」
全く。仲良くしろとは言わないが、いつ殺し合うか分からない、気の抜けない状況にだけは持ち込まないで欲しい。
以前と違って、手を組んだのだから。
「売却はエルディルに任せる。私とソカルは同胞の解放を急ごう」
「畏まりました」
「任せろ」




