表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒薔薇の牙 ―忠義を纏うメイド―  作者: 櫻木サヱ
霧に潜む影

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/45

晩餐の灯、影の微笑

館内に夜の静寂が降りると、暖炉の火とシャンデリアの柔らかな灯りが、広間の壁を金色に染めた。

テーブルの上には銀の燭台が並び、火の光が揺れるたびに、皿やカトラリーがきらきらと輝く。温かい湯気と料理の香りが漂い、日中の光景とは異なる、落ち着いた優雅さが広がっていた。


リリアーナは椅子に腰を下ろし、ドレスの裾を整える。髪にはさりげなく夜の香水が漂い、燭光に照らされて淡い金色の光を帯びる。

「今日は皆で一緒に食事ね。楽しみだわ。」

そう言って微笑む彼女の横顔は、柔らかくもどこか凛としていた。


アルフォンスはテーブルの脇に立ち、静かに食器を整える。皿の配置、ナイフとフォークの角度、すべてに完璧な均衡が保たれる。

「お嬢様、火の加減も完璧です。どうぞお楽しみください。」

リリアーナは軽く頷き、穏やかな夕食の始まりを告げた。


ヘンリーとイザベラ夫人も席につく。父の鋭い瞳は、家族の一挙一動を穏やかに見守る。母の柔らかい笑みが、食卓に温かさと品格を添える。


「リリアーナ、今日は学校の話を聞かせてくれませんか?」

「はい、お母様。今日は図書室で古文書の整理をして、そのあと庭園の花々を観察しました。」

「ふふ、相変わらず知的好奇心が旺盛ね。」

「そういうところは私に似たのかしら、父上?」

「いや、母上に似た部分も多いでしょうな。」

家族の会話は、静かでありながら温かく、笑い声が広間に柔らかく響く。


ルイーザがさりげなく摘んだ小さな花をテーブルの中央に置く。

「この花、灯の下で見るとさらに美しく見えますね。」

「本当だわ、ルイーザ。」

花の香りと燭光の温もりが、食卓に静かな彩りを添える。


その傍ら、エリスは紅茶を注ぎ、カトリーヌは皿の位置を微調整する。

レアはリリアーナの隣に立ち、微かな背後の気配や廊下の音を警戒しながらも、今日の穏やかな夜に心を和ませている。犬面の表情は変わらぬままだが、静かに守る役目を果たしていた。


窓の外、庭園の影が長く伸び、微かな風がカーテンを揺らす。

その陰に、黒い影――ノアの存在がちらりと覗く。しかし、まだ手は出さず、ただ微笑むだけの距離感。


食卓の会話が和やかに続く中、リリアーナはふとレアを見上げる。

「ねえ、レア。あなたも一緒に座ってもいいのよ。」

レアの瞳が少しだけ光を帯びる。犬の顔は変わらぬまま、しかしその気配は確かに温かさを帯びていた。

「光栄でございます。では、少しだけ……。」


灯の揺れる広間、家族とメイド、執事、そして犬面の守護者――すべてがひとつの優雅な調べを奏でていた。

しかし微かに、廊下の端や窓の外の影が揺れる。ノアの微笑は、日常の裏側に潜む静かな不穏を、ほんのりと匂わせていた。


夜が深まるにつれ、館内はさらなる静寂と優雅さに包まれ、家族と使用人たちの存在が、その温もりを優美に形作っていた。

今宵の晩餐は、ただの食事ではない。家族、守護者、そして微かに影を感じる存在――すべてが交わる、静かで滑らかなゴシックな調べのひとときだったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ