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黒薔薇の牙 ―忠義を纏うメイド―  作者: 櫻木サヱ
霧に潜む影

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19/46

揺れる午後、微かな影

陽光は柔らかく、庭園の薔薇を黄金色に染めていた。

リリアーナは室内で刺繍をし、レアはその横で紅茶を注ぐ。

銀のポットから立ち上る湯気が、午後の光に溶けてゆく。


「レア、この薔薇……昨日より少し咲き方が変わったかしら?」

リリアーナは指先で花びらをそっと触れる。

「おそらく、微風のせいでございます。

 花も生きておりますゆえ、変化は自然なものです」

犬面メイドの声は穏やかだが、耳が微かに動いた。

外の庭から、昨日にはなかった気配が漂う。


数分後、館内の廊下で、わずかな物音。

使用人たちは誰も気づかない。

だが、レアは音の主を嗅ぎ分けた。

──冷たい革手袋、金属の軽い擦れる音。


「……ノア」

心の中でつぶやく。

ただ、声は出さない。

彼の影はまだ直接的な危険ではない。

ただ、存在をちらつかせるだけの、静かな侵入者。


リリアーナが笑って声をかける。

「レア、どうしたの? そんなにじっと見て」

「……なんでもありません、お嬢様」

日常を壊さぬよう、レアは微笑を保つ。


午後のティータイムは穏やかに続く。

だが、ティーカップの縁に微かに残る黒い煤。

朝の散歩でも見かけた微細な痕跡が、またひとつ。

レアは気づいている。

だが、令嬢には知らせない。

彼女の使命は、すべてを未然に防ぐこと──守ること。



夕暮れ前、リリアーナが窓辺に立ち、庭園を見下ろす。

「レア、なんだか最近、少し空気が変わった気がするの」

「……気のせいでございます、お嬢様」

だがレアの耳が再びぴくりと動く。

影は見えない。

しかし、感じる。

館のどこかに、黒い手袋の存在──微かな波紋が広がっていることを。


午後の光はゆっくりと消え、館に夜の影が落ち始める。

レアは窓辺でそっと誓う。

──主の微笑みを、絶対に守ると。


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