574:ラストの曲は男子陣に任せる
打ち上げ花火
空に舞い咲いてはすぐに散りゆく
太陽の消えた空に向いていた
向日葵も花火の大車輪を見てる
一回りも大きな花に惚れ惚れ
している
ここはバックボーカルで、少し高い声を入れる。
さすがに2人の低音ボイスだけじゃ、サビが重くなりすぎる。これがサディスティックで男子が支配する曲なら、私は参加しないだろうけど、この曲はそういう曲じゃないそれをわかっているからこそ、自分の役割をしっかりとこなす。
そして、サビが抜けると、一瞬落ち着いた間があったのち、また翔稀が歌いだす。
正直、普段は完全ダンサーの翔稀がメインボーカルになるだけで、とんでもない女子の悲鳴に包まれる。
それほど虜にするんだろう。でも、それがミアシスの新たな一歩でもあり、さまざまなファン層をカット苦に動けるというのも大きな点だと思う。
これで、あとは由佳がいつメインボーカルに回るか。それ次第でとんでもないことになるんだろうな。なんて心のどこかで思いつつ、曲を進める。
メロディーとサビでは、歌う声の強さが全く違うところが、この曲の良さを引き出しているところでもあると思う。
感覚的には、メゾピアノでメロディーライン・ラップパートを歌い、サビではダンスも要れたフォルテで歌う。そんな感じ。
そのメリハリが心臓をどくんと跳ねさせるのかもしれない。
最初にレコーディング終わって、きれいに編集されたものを聞いた瞬間、私の心臓がどくんと跳ね飛んだしね。
ただ、それだけじゃない。クールに決まりすぎて、キュン死するかと思ったくらい。
たぶん、ミアシスのことを知っていて、これを聞いた女子は一度、キュン死していると思う。それくらいの威力があった。
正直、亜稀鑼も成長したしね。ミアシスの中でも女の子任期は増えたほうだと思う。
とは言いつつも、まだやっぱり、由佳と翔稀の人気はすごいけどね。
誰もが夏の夜空に驚く
黄色い火の粉が夜空に舞い散る姿を眺めた
これこそまさにナイアガラの滝
街は一瞬にして大洪水
ここからも、曲は強いまま進み、打ち上げ花火の盛り上がりを見せる。それに合わせて、後ろで踊る私たちダンサーも動きを大きくしたまま、乱れ打たれる打ち上げ花火を表現。
少し難しかったのは、乱れ打たれる花火を表現するために、わざとほんのわずかだけタイミングをずらした振り付けになっているということ。
これだけが正直、私の中でいろいろと狂わせたよね。
普段は一糸乱れぬパフォーマンスをしているのに、今日のこのときだだけ、まったく逆のことをしているんだから。
でも、それさえ乗り越えたら、何とかなるって話なんだけど、こういう時に限って、沙良由佳がアドリブの振り付けをそれぞれで入れてきたりする。それがなおさら私を困らせたりする。
確かに、私も、アドリブの振り付けを入れるって言うのはサンシャインのときにはあった。ただ、それをパフォーマンス中いきなりってことはしなかった。
それを沙良由佳はさらっとやってくるんだから、私の中の振り付けが崩壊しそうになる。
どうにかならないものか。そんなことを思いながら、Cメロを超えて、ラストサビに入って行く。
フィナーレが近づいている。そう実感させるには十分な声で入ってきた男子2人。
私の頭の中での情景は、もう、大量の華火が次々に打ち上げられている。そんな感じ。
たぶん、観客席もそう思っているんだと思う。というか、そう思ってくれていると思っている。
そのまま、曲は強い声のまま進み、最後に一瞬だけ『終わりだよ』とささやくように消えて、そのままアウトロに入る。
アウトロも花火の余韻を残すように魅せて、徐々にゆったりとした振り付けに変わり、しぼむように終わる。
しぼむのは一瞬で、それは儚く散る花火のように。
しばらくしぼんだままの状態でフィニッシュポーズを取っていたけど、終わったことに気づいたファンの誰かが大きく拍手を始めると、みんな一斉に夢から覚める。
これも本当にマジックの一つのように感じる。
普段は〈ドリダン〉が終わると同時に証明が消え、私たちがいなくなってから夢から覚めるけど、これはこれで面白いと思った。
「どうやらみなさん、夢から覚めた様子ですね。みなさん、本日もミアシスのマジックライブをお楽しみいただけましたでしょうか?」
ゆっくりと立ち上がって、ラストの挨拶をするかのように語りかける。
場内からは、「楽しかったよ~!」という声がいろんなところから飛んでくる。
本当にありがたい限りで、いつもとは違ったミアシスを見せることができたんじゃないかなって思う。
「みなさんがお楽しみいただけたのであれば、私たちも幸いです。この思い出が、次のワンマン鑼リブを行う時まで色濃く残ってくれたら、私は嬉しいかなって思います。みんなはどう思う?」
「せやな。新しい色を魅せることができたかもしれんし、衝撃のでかいライブやったんちゃうかなって個人的には思ってます。俺らダンサーだけやなく、ボーカルにも、新しい色が生まれた。そんな気がします。またね、いろんな形でいろんなパフォーマンスをしていこうと思ってますし、俺らダンサー陣もできることを増やして、皆さんを飽きさせないようにしますんで、どうぞまた、お気軽に遊びに来てくれたら嬉しいです」
なんていうか、翔稀ってこんなこと言うことなかったから、少しびっくりしているところがある。
「翔稀、控え室でなんか悪いもん食った?今日、ずっとおかしいで、あんた」
「食うてへんわ!ってか、おい、沙良!最後の最後でそんなこと言うなよ!せっかくええ雰囲気やったのに」
たしかにそれはそう。だけど、翔稀が少し空気をおかしくしたのも事実。
とりあえず、ステージは終わらせて、特典会・物販の準備をしますか。それだけ思い、無理やり締めることにする。
「翔稀がおかしなこと言うからじゃん。キャラに合わないようなさ。まっ、このあともね、私たちは特典会で皆さんをお待ちしています。このあと、マネージャーから、特典会の話があると思うので、よく聞いて、ルールを守って、皆さんで楽しんでいただけたらと思います。それじゃあ、いったん終わろうか。以上!」
『We are MiASYS!』
「Thank you for coming our one man live!」
最後は畳みかけるようになってしまったかもしれないけど、DJブースにいる田村さんから「巻いて」とジェスチャーがあった。それに気づいたのはたぶん、私だけ。
少し申し訳ないことをしたな。と思いながらも、最後の挨拶を終わらせ、一度ステージから降り、控え室に入る。




