570:優雅な雰囲気は変えずに
「沙良、やりすぎやろ。美桜が息切れしてるやんけ。どんだけ振り回してん」
「ちょっといつもより大きく動いたかも……」
「ちょっとどころじゃないよ……思いっきり引っ張られるから、息も詰まったしさ。蕩けさせ選手権は翔稀の圧勝だよ」
息を切らしながらそう言うと、場内からは翔稀に向かって冷やかしの声を飛ばす。ここでちょっと無茶を振ってやろうか。沙良への仕返しとして。
「今日の沙良が試した顔を見たいよって人は、チェキ会のときにさらにおねだりして見てください。まぁ、翔稀は……いわれなくてもいつもしてるか」
「誰が毎回してんねん!せぇへんわ!……そんな目で見ても今日はせぇへんで!」
翔稀は本気だ。とはいえ、いつも女子ファンの顔を蕩けさせているから、こんなことを言ってるけど、たぶん、やる。そんな気がしている。
とはいえ、来れ以上、被害は大きくしたくないのも事実。私から広げたんだけど……。
あとは、とりあえず、事態を収束させて、終わりに向けて行こうかな。
曲目も気づけばあと少しだ。そんなことを思いつつ、ちょっとだけ話を少し離れているところに見ている由佳に振って、次の曲に行こうかな。
「由佳もためにやってくれるもんね。男性振り付けのときの顔」
「ちょっ、美桜おねえちゃん!?由佳、そんなことやったことないし!」
「コラボのとき、男子陣のふりつけをしてるのに?」
「そんな顔したことないわ!正直、由佳がやったところで、お相手さんがときめくはずがないやろ?むしろ、背伸びして可愛いって言われて終わるわ!」
「ってことは、やったことあるんだ」
「……っ!……茶々パレードのコズエさんに。終演後に、『背伸びしてかいらしいなぁ』ってからかわれてからはやってへん」
そう言った由佳の顔は少し紅くなっていた。おそらく恥ずかしいんだろうな。とは思うけど、まぁ、私が冷やかすと、完全にショートするだろうから、これ以上はやめておこうか。
そんなことしていると、さすがに時間もあったから、息切れも回復している。
とりあえず、収拾がつかなくなる前に次の曲に行こうか。そんなを思いながら、次の曲振りに移る。
「はいはい。次の曲に行くよ。次の曲もね、優雅に可憐に魅せますから。〈ダンスショー〉」
スパイスという意味合いでは変わるだろう。
さっきの〈仮面舞踏会〉に比べたら、少し動きが激し目だけど、そのほうがいいとダンサーは言った。私としては、逆なんじゃないかなって思ったけど、まぁこのあとに続く曲のことを考えたら、これはこれでいいかなって思ったりね。
基本的には、この曲は由佳が主に前に出てくるように仕向けられている。そのほうが、周りにお世話されているように見えるって、翔稀が言ったから。
とは言いつつも、由佳自身は、「そっちのほうが恥ずかしい!」と少し騒いだものの、全員年上のメンバーにまるめくるめられ、結局、お世話されるようなシーンが出来上がったのも事実。
振りビデオの間も、撮っている間に少し面白くなって、撮影中に何度か吹き出してしまったこともある。
さすがに、今日は吹きだすことは……ないと思う。
そんなことを思いながら、ダンスショーが進んでいく。
小道具がないと、ちょっとリアリティーに欠けてしまうところが少し残念に感じてしまうところだったりするけど、まぁ、由佳の演技力次第なところはある。
あとは、私たちがどれだけ執事みたいな動きができるかってところ。
ワンマンツアーのときみたいに大きな会場でできるんだかったら、いろいろと考えたいと思ってしまうよね。
そんなことを思いながら、由佳をメインにした〈ダンスショー〉のパフォーマンスが続く。
夜の9時ちょうどにあなたの家までお迎えに上がります
ダメならこの招待状を破いて破棄してください
この招待状はダンスショーのパスになりますので
私が迎えに上がるまで大事に持っててください
少し陽気な由佳の振り付け。その振り付けを肯定するかのような男子陣ボーカル。
陽気な由佳は、いつも以上に楽しそう。それは全然いい。むしろ、もっと楽しんで踊ってくれ。と思っているくらい。
そのほうがこの曲の魅力が増す。というのもあるし、いろいろやりやすい。というのもある。詳しくは言えないけど、おもに、この後の落とし方にね。
そんなことを思いつつ、2番の歌詞も進めて行く。
時間はまだ7時半。この〈ダンスショー〉の2サビにもある『夜の9時ちょうどになって』からはかけ離れているけど、それはもう、セットリスト上を組んだ以上、それは仕方ない。ちょっと魅力は消えるけどね。
それでも、ダンサー陣が振り付けを大きくして魅せるし、問題はないと思う。
その分、ボーカル陣も頑張るけどね。
曲はあっという間に2サビに。
ウキウキ気分の由佳が困惑に陥れられるシーンになるけど、なんだかんだ由佳も演技は少しうまくなった。
振り付けで喜怒哀楽を表現することが多かったのにもかかわらず、ここ最近は、その表現が顔にも出てきた。
この曲をパフォーマンスするのにもかなり余裕が出てきた。そんな認識でいいんだろうな。なんて思いつつ、由佳の表現を楽しみながら曲が進んでいく。
お嬢様少し勘違いされているようですね
ダンスショーは鑑賞ではなく実際に踊られるのですよ?
ジャックの言葉に少し言葉を失う
理解するまで時間がかかってる
もしかして私が躍るの?
ここまで来たら、あとはもう由佳次第。とはいえ、ミュージックビデオの撮影で、何度かやり直したから、その時の記憶もあって、無事に行かないんじゃないかなって思ってしまっているところがある。
なんなら、ここ最近で一番大きい出来事の一つにもなった、由佳の歌唱パートの拡大。
もともとは私がこのCメロ後半の部分を担当していたんだけど、ミュージカルに出たあとかな。由佳も挑戦してみたい。と言って時々変わっていたものが、ここ最近では、ずっと由佳に譲って、私はダンスパフォーマンスに専念している。
それが意外といい効果を生み出しチエルみたいで、もともと、由佳が主役みたいなものはあったんだけど、由佳本人が歌わないせいで、少し魅力がなかったところがあるのも事実。それが、由佳もボーカルに絡むようになってから、その魅力が少しどころではなく、爆発的にアップしたような気もして、ライブのセトリで組む舞踏会パートのでも、ほかのパートでも堂々と使えるようになった。
元とも使いにくかったってわけじゃないんだけどね。
でも、こうして引き出しが増えると楽しくなってくるのも、楽しくさせるのも事実。
今日はどんなセトリだろうか、どんな曲を披露してくれるだろうか。そんなことを考えている人だって少なからずいる。
ミアシスの曲が増えるたびにそれは感じるだろう。
なんて思いながら、Cメロを超えていく。そこからも由佳のボーカルは止まらない。




