147_俺と優斗とライア君との勝負
俺の名前は小林匡宏。27歳、男、独身、彼女なし。
11月24日――
山梨のホテルに泊まっていた早朝、春樹さんに叩き起こされる。
「…もう朝ですか?」
「顔洗って着替えておいで…ユウ君は起こさず、毛布に包んで車に運ぼうか…?」
優斗はぐっすり寝ている。
「そうですね…すぐに支度します…」
太陽が昇るのを3人で見る。朝焼けって人を起こす力があるよな…あくびが止まらないまま俺は持って来たカメラを用意する。
「優斗、写真を撮りたいんだけど…いいかな?」
「いいですけど…僕、浴衣ですよ?」
「浴衣もおつだよ、シャレてるというか…無造作ヘアーとマッチしてて…」
「…それって褒めてないですよね?」
髪の毛や浴衣を整えながら、どうぞ、と言われシャッターを押した。
「うん、撮れ高バッチリ…被写体がいいからカメラテクは必要ないな。普通にシャッターボタン押せばいい写真が撮れるよ」
「…見たいです」
「ユウ君、その格好だと風邪ひいちゃうよ?車の中においで~」
「はーい」
俺も運転席に移動する。帰る途中、優斗が俺と春樹さんに缶コーヒーをおごってくれた。
数日経って、俺は春樹さんに電話する。
「山梨で撮った写真、画像を送りましたけど印刷もしたので郵便で送っていいですか?」
「う~ん…それじゃあさ、6日にドッグタグの交流会があるから来ない?」
「交流会…ですか?」
「そう、仲野でね。来たくなければ来なくてもいいけど…今のドッグタグは落ち着いたよ。匡宏にちょっかいを出してた子にもちゃんと言っておくから。それに僕の近くにいれば何も問題ないだろう?」
「そう…ですね…それじゃ…少しだけ…参加させて下さい」
「うん、皆も喜ぶよ…不破君もね…。写真楽しみにしてる」
ドッグタグの交流会には何度も一人で行っているから今はそんなに怖くない。それに助けてくれる人の方が多くなった。
(交流会は6日の土曜日か…)
ドッグタグの交流会に優斗を誘うか考えて、やめた。確かバイトだと聞いている。
(学校とバイトが忙しいのに、俺が気軽に遊びに誘ったら負担になるよな…?)
12月号のノンノン雑誌をペラペラめくる。優斗が出てくるページが増えたと思う。その中で懸賞ページが目に入った。
「こ、これは…」
優斗とライア君が可愛いイラストになったキーホルダーが当たると書かれている。
「抽選で100名様限定…?どうして買えるようにしないんだ…二人のグッズ展開なら買う人も多いだろうに…!」
(なんとしても欲しいじゃないか…!!!)
文句を言っても仕方ない、明日ははがきを大量に購入すると携帯に登録する、アラーム付きだ。
12月6日――
ドッグタグの交流会…以前のような酒を飲んで騒いで…という雰囲気はない。ただただ、トレバトしたり会話したり…トラのマーチに近い雰囲気だ。
ゲームセンターに入ると、すぐに田中さんが声をかけてくれる。
「よっす、ヒロ!久しぶり~」
田中さんと話していると、吉川さん、ライア君も出迎えてくれた。
「今日のライア君とユウ君の対戦ば見に来たと?」
「えっ…優斗とライア君が対戦…するんですか?今日…?」
初耳だった。
「…広瀬君に聞いてないんですか?」
ライア君にも意外そうな顔をされた。
「あぁ…聞いてない…」
「そうなんですね…広瀬君とは…」
11月末に対戦の約束をしたとライア君が教えてくれる。
「じゅ、11月末に…?」
(そんな話し聞いてない…もしかして俺に知られたくなかったんじゃないか?でも、一体どうして…?)
考えていると、田中さんが「来たよ」と言って入口に視線を投げる。ダッフルコートを着た高校生が目をつぶって深呼吸していた。
俺は何も考えずに足早に優斗の目の前に立つ。
「こ、小林さん…?どうしてここに…?」
大きい目をさらに大きくしている。
「優斗…ライア君と対戦するって聞いたんだけど…本当?」
「そう…ですけど…」
「どうして教えてくれなかったの…?」
優斗から返事はない…ヘコむけど、今さらか。
「…もしかして…俺に来てほしくなかった?」
優斗は下を向いてしまう。そこに春樹さんがいつもの調子でやってきて、優斗を連れていく。
(…今日の対決は俺に知られたくない何かがあったのかもしれない…)
春樹さんと話しが終わった優斗はイキイキしている。
「対戦が終わったら夜ごはん一緒に食べたいです。バイト終わりで腹減りなんです」
俺が作った雑炊が食べたい、と言う。
「それは構わないけど…」
「良かった…応援、お願いしますね!」
そのまま対戦が始まる。
優斗はシャーク、ライア君はチャーリー、バトルフィールドは工場跡地(鉄パイプフィールド)だ。
序盤から優斗は仕掛けに行くが、攻撃がなかなか当たらない。弾数だけが減っていく。
(ライア君ってこんなに上手いんだな…知らなかった…)
もしかしたら吉川さんより上手いレベルかもしれない。ライア君と初めてトレバトしたことが遠い昔のようだ。すっかり上級者になっていた。
優斗とライア君の対戦はワクワクする…見ていて面白いと思うが優斗はイライラしているかもしれない。いつもより雑なプレーだと感じる。
勝負は優斗の勝ちだった。だけど、ライア君は健闘していたと思う。
優斗は勝ったらすぐに後ろを振り返って俺にハイタッチしてくれるのに、今は座ったまま正面を見据えている。
「…優斗、お疲れ様」
俺の声に反応して、渋々振り返る表情は穏やかじゃない。
(いつもなら満面の笑みを浮かべているのにな…)
優斗は俺に何か言おうとして口を開きかけた。だが、ライア君が俺達の間に立つ。
「広瀬君…すごいプレイヤーだと思っていたけど…今日は調子が悪かったのかな…?」
「…ライアさん…」
優斗はフゥー、と息を整えて、優等生キャラで対応している。
「…あんまり早く決着をつけたら面白くないですよね…?ドッグタグの皆さんも見てますし、ライアさんの面子もあるでしょう?少し遊んじゃいました」
「それはそれは有難いことで…広瀬君は遊んでたって言うけど俺の攻撃が当たりそうで…もしかしたらこのまま勝てるんじゃないかって思ったよ」
「…面白いジョークですね、笑えます」
「そうだろう?俺って面白い男なんだよ、知らなかった?」
「えぇ、初めて知りました」
「それじゃあ、もう一つ。今回の対戦で色々と勉強になったけど…広瀬君の実力が分かったというか…手を伸ばせば届く距離にいることを実感したよ」
「はは、本当に面白いジョークですね、笑えます」
優斗とライア君は笑顔で会話を繰り広げている。やっぱり仲が良いんだ。
ライア君との会話が終わって優斗は席を立つ。
「ハル兄、今日のところは帰ります」
「うん、また連絡するね」
俺もお辞儀をして、優斗と一緒にゲームセンターを出る。
「夕飯どうする?スーパーに寄って帰るか?」
「あっ…すみません…やっぱり今日は帰ります…このまま駅に向かいますね」
優斗がポツリとこぼす。表情が硬い。
「いいけど…大丈夫?」
「はい…家に着いたら連絡します」
優斗が駅の方へ歩くので腕を掴む。
「…ちょっと待って…さっき腹減りって言ってただろう?美味しいたい焼きが売ってるお店が近くにあるんだ。おごるからさ…行ってみない?」
「…たい焼きですか?」
「そうそう、タコ焼きも売ってるんだけど…あぁ、ここだよ」
お店の前に立つだけでいい匂いがする。
「何か買うから…夕飯に食べたら…?」
「そうですね…それじゃ…お言葉に甘えて…」
クリーム入りのたい焼きが食べたい、と言うから買って渡す。
「ありがとうございます…ホカホカですね…美味しそう」
少しだけ肩の力が抜けたように感じる。
「また連絡します…ごちそう様でした」
駅の改札に入って歩いて行く華奢な姿を見ながら思う。
(…たい焼きなんて買って渡したけど…そもそもたい焼きを食べれるのかな…?優斗は雑炊が食べたいと言ってたのに…)
2008年12月6日、優斗を心配しなくちゃいけない立場なのに、反対に気を遣ってもらったんじゃないか…と帰り道、あんこ入りのたい焼きを食べながら思う




