146_僕とライアさんとトレバト対戦
僕の名前は広瀬優斗18歳、男、彼女なし。アルバイトは雑誌モデル。高校3年生
11月26日――
放課後、クラス担任の横溝先生に呼ばれる。
「夏休み明けからのテストの点数が悪いぞ?何かあったのか?」
AO入試で大学に合格しても学校のテストはいつも通りの点数を取らないと合格破棄の可能性があるからテストは怠るなと先生に言われていた。
「何もありませんけど…大学の合格…取り消しになるんでしょうか?」
「いや、まだならないけど…このままだと成績表をつけた時の内申点が下がるんだよ。そのことで大学から何か連絡が入るかもしれない…広瀬はテレビや雑誌の仕事をしているから、たまに早退したり授業を欠席したりするだろう…?素行に問題あり…と判断される可能性もある、という話しだ」
(大学か…せっかく合格したのに……僕は本当に大学に行く必要があるのかな…?)
父さんのことを考えると先が見えない。どうしたらいいのか分からない。
「忙しい中で小論文対策や面接練習を頑張っていた広瀬を見ていたから…余計に俺はもったいないと思うんだよ」
「はい…」
「悩みがあるなら相談できる人に言いなさい。佐藤のきな粉モチと仲良かっただろう?アイツ、今は受験勉強を必死にやってるぞ。気分転換になるかもしれないし、今度話してみるのはどうだ?」
「分かりました…色々とお気遣いありがとうございます、失礼します…」
一礼して職員室から出る。
相談できる人…小林さんに相談するのは…嫌かな…。父さんのことを話して感情が抑えられなくなったら困る。プンスカしちゃうかもしれないし…それに…小林さんは優しいからもっと甘えてしまうかもしれない。これ以上は迷惑かけたくない。
やっぱり紗希さんかな。
――私は優斗さんの力になりたいんです…何もできないと思いますけど…だけど…何か私にできることがあれば…言って下さい
紗希さんの前だと頑張れる気がする。「父さんのお見舞いに行くので付き合ってほしい」と紗希さんにメールして僕はバイトに向かう。
バイトは順調だった。いつも通りだと感じる。ライアさんとの撮影だけは気持ちを引き締めた。
撮影が終わって椅子に座ったら動けなくなった。
(さすがに疲れたな…家に帰ったら掃除と洗濯、学校の宿題して…ご飯作って…あれ…今月分の支払いってしたっけ?確か毎月25日までに振り込むようにって消費者金融の人に言われてたような…?今日は26日…だったよね…振込がないと向こうから電話がくるかな…?)
考え事をしていたらカツカツとイラだった音が響く。この足音はライアさんか、と思って振り返ったら、僕の座っている椅子を蹴り飛ばす。
バコッ!!
「おい…さっきの撮影は何だよ?」
「…何のことですか?」
「全部だよ…無難にまとめやがって…いい加減、優等生キャラを卒業しろよッ!」
ライアさんは青筋を立てて怒っている。
「お前は何のためにモデルをしてるんだよ?モデルの仕事に誇りはないのか?」
僕は蹴り飛ばされた椅子を直しながら思う。
(ライアさんみたいにモデルの仕事だけ考えて生活している人に僕の気持ちは分からない。だいたいバイト代を全額自分のために使えるなんて…そんな生活送ってるのに不満ばかり言ってて世の中は不公平だと思う…)
「…僕は父親の借金のために働いてます。モデルとしての誇りなんて初めから持ってません」
「お前の苦労話なんて聞いてない…あぁ…そういうことか?同情を誘っているんだろう…?」
「同情してほしくて言ったわけじゃありません…もういいですか?帰ります」
(ライアさんと分かりあえる日なんて来ない。相手にするだけ時間と体力の無駄…)
「…おい、待てよ」
無視する。
「俺とトレジャーバトルで勝負しろ…!!」
(ライアさんと勝負…?トレバトで…?)
僕は振り返る。
「…いいですよ」
(ライアさんが僕に勝負を挑んでくるなんて…こんなに面白いことってあるのかな…?)
「そのかわり僕が勝ったらウチのマネージャーに会うのはやめてください」
「な、なんだ、その態度は…!それがお前の本性か…?」
僕の知らないところで小林さんとライアさんが会っていることにずっと不満を感じていた。
「小林さんに言いつけるぞ?」
「どうぞご自由に…小林さんはライアさんより僕の話しを信じてくれますから…」
(それだけは自信がある…兄さんは僕に夢中だし…)
「トレバトの勝負…楽しみですね?いつにしましょうか…?」
ライアさんと話していてテンションが上がったのは初めてのことだった。
12月6日、ドッグタグの交流会があるのでその日に勝負だと言われた。
僕は小林さんに報告するか迷ってやめた。対決することになった経緯や僕が勝った時の取り決めなど話す必要はない…と思う…というか、どう話せばいいのか分からない。
12月6日――
バイトが終わった帰り仲野のゲームセンターに到着する。一人でドッグタグの交流会に参加するのは初めてだった。
誰か知っている人を探そうと思ってゲームセンター内を見渡すと、金髪センター分けの人がスマイル浮かべて無表情の人と楽しそうに話している。
(うそでしょ…嫌な予感…)
一度、目を閉じて心を落ち着かせる。深呼吸を繰り返して目を開くと無表情の男性が僕の前に立っていた。
「優斗…お疲れ様…」
「……小林さん?」
「……?そうだよ…あのさ…ライア君から今日の対決について聞いたんだ。どうして教えてくれなかったの…?」
どうしてって聞かれても困る。できればライアさんとの対決は小林さんに見られたくなかった。
「…もしかして…俺は来ない方が良かった?」
「それは…その……」
小林さんは腕組みして僕の答えを待っている。
「匡宏…どうしたの?」
小林さんの肩にポンッと手が乗る。芹沢さんだ。
「やぁ、ユウ君…待ってたよ…ふふふ…」
「ハル兄…」
僕はこの状況をどうにかしてほしいと目で訴える。
「…匡宏、ここで待ってて…。ユウ君はこっちにおいで」
察してくれたのかもしれない。手招きされるのでハル兄の元に行く。
「ライアに聞いたんだけど…条件付きでトレバトの対戦をするんだろう?」
「はい…僕が勝った時の条件って知ってます?」
「ライアから聞いたよ。僕は聞いたけど、匡宏には教えちゃダメだよってライアに言ってあるから心配しないで…」
「ハル兄…」
「僕のこと、もっと好きになっただろう?」
笑って頷く。
「ふふ、それじゃあ思う存分戦っておいで…ちなみに今日ここに匡宏を呼んだのは僕だけどね…」
「ハル兄…」
芹沢さんとの話しが終わって、小林さんの元に戻る。
「優斗…もし対戦を見られるのが嫌なら俺は帰るけど…」
僕は首を振る。
「小林さん、いつも通り後ろから見ててもらえますか?」
「それは、いいけど…」
「対戦が終わったら夜ごはん一緒に食べたいです。バイト終わりで来たので腹減りです…小林さんが作った卵の雑炊また食べたいです」
「それは構わないけど…」
小林さんの表情は硬い。眉間にシワは寄ってないけど、へんてこりんな顔だった。
この状況にどうしたものかと思っているとライアさんがやってきた。
「…そろそろ対戦しようか?」
「そうですね…どうぞ、お手柔らかにお願いします」
ライアさんが嫌いだと言う優等生キャラを僕は演じる。
「…チッ」
もう勝負は始まっている、心理戦で楽ができるなら対戦前に仕掛けたい。ライアさんの後ろにいる不破さんと増田さんにも声をかける。挨拶は大切だ、そのまま優等生キャラを続ける。
トレジャーバトルの台に座る。
「優斗、コートを預かるよ」
お礼を言って、小林さんに渡す。
「応援、お願いします」
「…そうだな…頑張れよ、優斗!」
「はい」
小林さんの拳に拳をぶつける。
対戦が始まる。
緊張や焦りはない。それより、僕は腹減りで早く兄さんの家でゆっくり夜ごはんを食べたいと考えている。
2008年12月6日、対戦が始まって、速攻で終わらせようと思ったのに、なかなか攻撃が当たらなかった。僕の方が段々イライラしてきた…




