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頑張ってね、小林君!  作者: もう無理だよ
145/211

145_俺と生意気な後輩とトレジャーバトル


俺の名前は鈴木來亜。20歳、男、独身、好きな女性…ファンの子みんなに決まっているだろう



俺はメンズノンノンの専属モデルをしている。トップになるためにストイックに仕事に打ち込んできた。


やっと第一線で走れるようになったのに、最近、障害物が俺の邪魔をする。その名は広瀬優斗だ。広瀬が俺と張り合っている。俺と肩を並べている。この現状に納得できない。



そんなある日、遠藤さんに話しがあるから編集部に来てほしいと言われた。約束の時間より早く着いた俺は先月号の雑誌でも読んでいるかとテーブル席に腰を落ち着ける。


しばらくすると俺に近づく人物の気配を感じて視線を上げると広瀬がゆっくりやってきた。


「…何の用だよ?」


「遠藤さんに呼ばれたんです」


俺は雑誌に視線を戻す。そのページは広瀬の特集ページだった。


「なぁ…お前はトップモデルとしての自覚があんの?」


「…モデルにトップもビリも関係ないですよね?」


「自覚の問題なんだよ…意識が低すぎる…」


「全員が全員、ライアさんみたいに意識が高いと思わないでください」


雑誌から目を離して、広瀬を睨みつける。


(本当に生意気な障害物だ)


俺に口答えする後輩なんて初めてだし、コイツは俺のことを先輩だと思っていない。


ピリピリとした空気の中、遠藤さんが現れる。


「待たせたな…なんだ?なにツノ付き合わせているんだ、こっちに来い」


遠藤さんが俺達の手綱を引く。




初めて広瀬に会った時、俺は何も感じなかった。むしろ、いつ入ったのかも覚えていない。そんな俺がハッキリと意識したのは芹沢さんの言葉だった。


「あの子…広瀬…優斗…君?へぇー面白くなってきたね…」


無関心の芹沢さんが興味を示している…しかも新人に…という驚きとショックが広瀬を強く意識したきっかけだった。


(俺なんて名前を覚えてもらうのに相当の時間がかかったのに…何でアイツが?)


ダークホースだった広瀬が一気に俺の障害物になって、飛び超えても、押しのけても、壊しても、いつも俺の邪魔をする存在となる。


芹沢さんだけじゃない、遠藤さんも広瀬を気にかけている。


「優斗…撮影で着た服の中で、印象に残っている物はあるか?」


遠藤さんの案内で会議室に通された。中には数人の編集者がいて、俺と広瀬の話しを聞いている。


「そうですね…ホワイトデー特集で着た白いロングコートかな…?知り合いが似合うって褒めてくれて…馬に乗ってたら王子様みたいだって言ってくれて…」


(何を言いだすかと思ったら王子様って…自分で言うか?)


「フンッ、白タイツでも履いてたのかよ?」


「…履いてません…ライアさんこそ先週のスポーツ特集で白いタイツを履いてましたよね?それで兄さんが…」


広瀬は思い出しながらムッとしている。


「…なんだよ?俺の方が本物の王子様だって言われたか?」


「いいえ…僕の方が似合いそうだから買ってくるって言われただけです」


優等生顔で言われた。コイツのこの顔が好きじゃない。


「その知り合いって小林君だろう?」


遠藤さんの切り込みに広瀬は「まぁ…」とかゴニョゴニョ言って肯定する。


「それで…小林君が白タイツを買ってきたら優斗は履くの…?」


「そうですね…僕の方が似合うと思いますし…証明するためにも履こうかな…?」


意外な答えだった。広瀬はモデルという仕事の意識が低すぎて、服が似合うとか似合わないとか関係ない、カメラマンの腕次第で写真が決まるという意識だった。


(しかも自分の方が似合うとか盾つくし…)


広瀬の返答に驚いているのは遠藤さんも一緒だと感じる。


「優斗は本当に小林君に懐いてるんだな。この前…撮影が終わったら小林君が迎えに行くって言ってたけど実際は会えたのか…?」


「はい、会えました。寒かったんですけど、タクシーで迎えに来てくれたので…風邪をひくこともなく、その後は勉強も教えてくれて…小林さんには感謝してます」


俺はつくづく思う。


(遠藤さんも芹沢さんも小林さんも…みんな広瀬のことを甘やかして、ひいきする…)


遠藤さんは広瀬の話をうんうん、聞きながら、それで、と話を続ける。


「今日の議題だか、優斗が12月末でモデルを卒業するから雑誌内で卒業イベントを企画したい」


「イベントだなんて…学校もありますし…これ以上忙しくなるのは困ります」


俺も広瀬の意見に賛成だった。


「広瀬もこう言ってるし、別にそんな企画なくてもいいんじゃないですか?それに俺は協力したくありません」


「おい…ライア…!」


「失礼します」


遠藤さんに何か言われたがこれ以上は無理だ、イライラしたので席を立つ。


(何であんな奴のために俺が協力しなくちゃいけないんだ…!)





数日後――


雑誌の撮影中、広瀬のやる気が感じられず、俺は休憩室で椅子に座ってぼんやりしている広瀬の椅子を思いっきり蹴り飛ばす。


バコッ!!


椅子が回転しながら転がる。広瀬は立ちあがって息を飲んでいた。


「…さっきの撮影は何だよ?」


「何のことですか…?」


「全部だよ…無難にまとめやがって…いい加減、優等生キャラを卒業しろよッ!」


俺が後輩に怒りをぶつけることはない。だが、広瀬を見ているとイライラするのだ。どうしてもっと本気を出さないのか、出し惜しみしているのか、理解できない。


「…何を怒っているのか分かりませんが世間が求めているキャラですよね…?僕に一番似合うのは優等生キャラです…」


「俺はそうは思わない…!この前…リンゴを手に持って笑うお前の写真を見た…笑ってるのに怒ってて…いい写真だと思った」


「笑ってるのに怒ってる…?その顔ならライアさんの方が得意ですよね…?よく笑っているのに血管立てて怒っています…いつか血管切れますよ?」


「…何でお前に心配されなきゃいけねぇーんだよ!」


「心配はしてません」


「何でだよ、俺は先輩だぞ?少しは心配しろよ」


「先輩…?先輩だと思ったことはありません…」


(コイツは…どうしてこうも俺に口答えを続けるんだ…?)


「思ったことがなくてもお前は後輩なんだよ…」


「…そうですか。だから何ですか?」


広瀬の耳に念仏…俺の有難い忠告を無視しやがって…。


「お前は何のためにモデルをしてるんだ?モデルの仕事に誇りはないのか?」


「ありません…僕はお金のために仕事をしています。父親が借金作って…それでお金が必要なんです…」


倒れた椅子を元の位置に戻しながら平然と座り直す。


「借金…?何で俺にそんなこと話すんだよ?遠藤さんは知っているのか?」


「いいえ、話してません…小林さんや芹沢さんにも…誰にも言ってないです」


「そんな誰にも言ってない話しを…なんで俺に言うんだよ?」


「分かりません…でも…もうすぐ借金が完済するんです…だけど…来年から奨学金を借りて大学生になるので…やっぱり将来もお金に困っていると思います…」


自嘲気味に広瀬は笑う。


「ッ、やめろよ…!お前の苦労話なんて聞きたくない…!あぁ…そういうことか?同情を誘ってるんだろう…俺は同情なんてしない…遠藤さん達とは違うんだよ!!」


「別に同情してほしくて言ったわけじゃありません…もういいですか?僕は帰ります」


俺の横を通り抜けようとする。


「…おい、待てよ」


無視して歩いて行く姿に神経を逆なでされる。


「広瀬…!今度俺とトレジャーバトルで勝負しろ…!!俺が勝ったらメンズノンノンを卒業しないと言え…そして俺に口答えするな…!先輩として敬え…」


広瀬が立ち止まる。


「はは…いいですよ…そのかわり………」


振り返った広瀬の顔が…リンゴを持って笑う写真と重なって…俺は広瀬が何を言っているのか理解するのに少し遅れた。


「僕が勝ったらウチのマネージャーと会うのはやめてもらえませんか?」


笑っているのに笑っていない顔…独特の悪い顔…。


「…マネージャー?」


「はい…小林さんはウチのチームのマネージャーです。ドッグタグのトップでもないただのメンバーが気安く会ったり話したりしているのが納得できないので…だって僕はトラのマーチのリーダー…ですからね…?」


「なんだ、その態度は…!それがお前の本性か…?小林さんに言いつけるぞ?」


「どうぞご自由に…小林さんはライアさんより僕の話しを信じてくれますから…」


(なんでそんなに自信たっぷりなんだよ)


「トレバトの勝負…楽しみですね?いつにしましょうか…?」


コイツの…広瀬の深い闇に触れた気がした。




その日の夜、俺は芹沢さんに電話する。


『ライア?どうしたの?』


「お忙しいところすみません…実は今日…」


広瀬とトレバトで勝負することになったと伝える。


『それで…ユウ君が勝ったら…?』


「広瀬君が勝ったら小林さんと会うなって言われました…その…小林さんは僕のチームのマネージャーだから気安く話しかけるな…というような話で…?」


『それは…それは…』


俺は耳を疑う。電話の向こうで芹沢さんが爆笑しているからだ。


『それで…特訓に付き合ってほしいってことかな…?』


「…はい…俺が勝てないのは分かり切ってることですけど…もしかしたら何かが起こるかもしれませんし…俺…あいつと勝負したいんです!」


『そうだね…ユウ君をアッと言わせればいいよ…』


「よろしくお願いします!」




2008年11月26日、障害物がドンドンドンドン成長して…気づいた時は俺の隣を走る暴れ馬になっていた






メンズノンノンの雑誌を読んでいる小林君と優斗君の会話――


「なぁ…白いタイツが似合う男ってそうそういないよな…?」


「…いないと思いますけど…何でですか?」


「これ見てよ、すごく似合ってると思わない…?ライア君って何でも似合うよな、美脚だし、足は長いし…」


「…そうですか?このコーディネートがあまり…そもそもライアさんって白が似合わないと思います」


「そうだな…白だったら優斗の方が似合うかな…?」


「まぁ…ライアさんよりは似合うと思いますけど…」


「俺…白いタイツ買って来るから履いてみる?」


「嫌ですよ、絶っ対に履きませんからね」


「…えっ?フリ?」


「フリじゃありません、フッてません、僕は履きません!」




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