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頑張ってね、小林君!  作者: もう無理だよ
143/211

143_僕と文化祭と二人の兄さん


僕の名前は広瀬優斗18歳、男、彼女なし。アルバイトは雑誌モデル。高校3年生




11月20日――


僕と紗希さんは父さんの病室で話し合っていた。


「父さんは昔から仕事が大事で…そのせいで母さんは出て行ったし…借金だって作って…バチが当たったのかもしれません…」


「…えっ?」


「あっ、すみません…紗希さんには関係ない話でしたね…」


「か、関係なくありません!あの…今日ってまだ時間ありますか?私の話を聞いて下さい!!」


ガラガラガラッ…!


勢いよくドアが開けられた。


「あなたたち、痴話ゲンカなら外でやりなさいっ!」


看護師さんに怒られて、僕たちはカフェに移動する。


「す、すみません…私の声が大きいから怒られちゃって…」


身を縮めて反省している紗希さんに大丈夫です、と繰り返す。


「実はもう病室に居たくなくて…外に出られて安心してるんです。喉も渇いたので、カフェに来られて良かったと思います」


僕はコーヒーを飲む。


(ホッとするな…さっきまでモヤモヤしてたから、紗希さんと過ごせて良かった…)


気持ちが落ち着いたところで、紗希さんに切り出す。


「それで…さっき僕に言いかけてたよね…?」


「はい…あの…長くなっちゃうかもしれないんですけど…」


オレンジジュースを横に置いて紗希さんはゆっくり口を開く。


「優斗さんのお母さんが出て行った…ということは…優斗さんはお父さんと二人暮らしですよね…?」


あいまいに頷く。


「あの…私には仲の良い友達が二人いて…」


「沖林奈々さんと越尾大輔君だよね…?同じ学校だし、何度か会ったことがあります」


「はい、そうです。昔からずっと三人で遊んでて…何でも話せる親友なんですけど…ある時、奈々の両親が離婚して…お父さんとお兄ちゃんと別々に暮らすことになったんです…。本当はすごく落ち込んでいるのに奈々は私に明るく接してて相談とかもなくて…でも一人でいるとき、声を抑えて泣いていたんです…。あの時は何も力になれなくて…私の家族は平和で仲良しで…私にはお兄ちゃんもいて…だから奈々は私に相談もしないし…私も奈々に大丈夫?なんて気軽に聞けないし…だけど私は…奈々の力になりたかった…何もできないけど…それでも何かしてあげたかった…」


僕はハンカチを差し出す。


「優斗さん、すみません…お気遣いは嬉しいですが…使えません…」


テーブルの紙ナプキンを何枚か取って目元を拭いている。


「奈々は…私じゃなくて大輔にずっと相談してたんです…。大輔の家もお母さんが単身赴任でお父さんしかいなくて…奈々は大輔のお父さんに自分のお父さんを重ねてて…だから奈々が立ち直れたのは越尾家の頑張りで…私は何もできなかった…親友が苦しんでいるのに…何もできなかった自分が本当に悔しかったんです…」


「うん…」


「だから…余計なお世話だと思いますけど、後悔したくないので言わせて下さい。私は優斗さんの力になりたいんです…何もできないと思いますけど…だけど…何か私にできることがあれば…言って下さい」


「…ありがとう…」


紗希さんは何もできないって言うけど…励まそうとしてくれる気持ちが…今の僕の助けになっている。


「父さんのこと…何かあれば相談します」


父さんの話をできる人が遠藤さんと小林さん以外にできるなんて思わなかった。


「よ、良かった…!私、優斗さんに嫌われてると思ってました…。あ、あの、長い話を最後まで聞いてくれて…ありがとうございました」


「僕も…紗希さんに嫌われてなくて良かったです…大切なお友達の話を聞かせてくれて…ありがとうございました…」


お互い気持が落ち着くまでゆっくり話をして、一緒に帰ることにした。





11月23日――


今日は高校の文化祭だ。待ち合わせ場所で待っていると二人の兄さんが手を振ってくれる。


「ユウ君、制服だ~可愛い~」


ハル兄から挨拶代わりのハグをされる。


「…制服なんていつも見てるじゃないですか?」


「いつ見ても可愛いんだよ~ねぇ、匡宏?」


「そうですね…でも最近は背も伸びて…大人っぽくなってきたと思います」


二人の兄さんが僕のことを話しているのが…なんだかくすぐったい。


「あの…受付を済ませて中に入りましょう…案内します…」





「僕の時代と全然違うよ~今どきの文化祭って感じする」


「ですよね…模擬店も新しいっていうか…俺の時代にはないものばかりで…」


兄さん達は学園祭のパンフレットを眺めている。


「ところでユウ君のクラスは何をしてるの?」


「えっと…僕のクラスは人生ゲームです」


『人生ゲーム?』


息ぴったりの返事が帰って来た。



クラスに案内すると佐藤のきな粉モチ君が受付の当番だった。


「広瀬~お前の兄ちゃん達?あんまり似てないな…。メガネの人は去年も来てましたよね?俺、覚えてます…無表情で広瀬にTシャツを着せるから…少し怖かったです…」


「…俺、こういう顔なんだ…佐藤のきな粉モチ君は去年の劇で剣餅警部役だったよね…?演技上手かったよ」


「ホントですか?実は裏話があって…脚本担当の因幡が俺のセリフ多めにして広瀬のセリフ少なくしたんですよ…広瀬はお礼にお餅の土産を渡すし…稲葉じゃなくて俺にくれって話しですよ…」


「さ、佐藤のきな粉モチ君…僕たち三人で人生ゲームをやるから…ルールの説明をお願いします」


「あぁ…分かったよ。広瀬のお兄さん達…サイコロを振って出た数のマスを進んで下さい。マスにはお題が書いてあるので、それに従って下さい…。たとえば1回休み…とか、好きな人の名前を大声で叫ぶ…とか書いてあります。それで、ゴールに一番乗りした人が勝ちです」


兄さん達は目を丸くしている。


「あの…学生の企画なので…変なお題も多いんです…やっぱりやめましょうか?」


僕の提案に二人は首を振る。


「これこそ文化祭の醍醐味でしょ~」


「そうですね…面白いと思います」


人生ゲームをスタートさせ、色々なお題に答えていく。


小林さんのリードで迎えた最終局面、3以上が出れば小林さんのゴール…というところでサイコロを振って出た「2」は「スタートに戻る」というお題で小林さんは足元から崩れ落ちていた。ハル兄は爆笑してたけど…。


結局、ハル兄が1番、僕が2番、小林さんが3番だった。


「ビリになったので何かおごります…休憩がてら喫茶店に入りませんか?」


「そうだね~笑ったし、喉が渇いたな…」


「広瀬のお兄さん達~喫茶店ならオススメがあります。もっちもちカフェという模擬店でお餅をメインに出している喫茶店なんです。俺、3回は食べに行きましたよ。モチモチのワッフルとかドーナツとかあるんですよ」


「美味しそうだね…情報ありがとう…さっそく行ってみるよ」


小林さんが食いついている。


「匡宏がおごってくれるって言うし…そこでお茶しようか?」


「…はい」


僕も喉が渇いたし小腹がすいた。




もっちもちカフェでお茶を飲んでドーナツとワッフルを食べた。


「俺、佐藤のきな粉モチ君にお土産を買いたいんだけど…」


小林さんはきな粉のおはぎを買っていた。


「僕も…ドーナツを買って渡そうかな…?」


兄さん達はそれぞれ佐藤のきな粉モチ君にお土産を買っている。どうしてだろう、と疑問に思いながらクラスに戻る。佐藤のきな粉モチ君はまだ受付をしていた。


「あっ、広瀬のお兄さん達~カフェはどうでした?美味しかったですか?」


「すごく美味しかったよ。それでね、佐藤のきな粉モチ君にお土産を買って来たんだ」


「僕はドーナツを買って来たよ~」


「えっ…?俺がもらっていいんすか?こんなにたくさん…ありがとうございます」


「いつもユウ君がお世話になっているから…そのお礼にね…」


「そうですね…優斗のこと…これからもよろしくね」


「わわっ…俺の方こそ…お世話になってます…。広瀬のお兄さん達っていい人だな…広瀬…最高じゃん」


「うん…まぁ…」


僕はごにょごにょ答える。




文化祭が終わって僕は裏門に向かう。待ち合わせ場所に着くとハル兄の車が見えた。


(懐かしい…一年前と同じ景色…)


車にノックして入る。


「ユウ君、お疲れ様~それじゃ行きますか!」


「…はいっ」


文化祭が終わったら、そのままハル兄の運転で山梨のホテルに一泊しようと小林さんに言われていた。



ホテルに到着すると手荷物を田辺さんが持ってくれた。そのまま部屋に案内してくれる。


「広瀬さん、小林さん、明日は私の車で東京に送ります」


「…いいんですか?」


「えぇ…環お嬢様に会う予定もありますし、東京で仕事もあるんです…また明日、お声掛け致しますね」


田辺さんにお礼を言って部屋で軽く休憩を取ったあと、お風呂に入る。


「もう最高…ビールが飲みたい…すぐに飲みたい…」


小林さんは上機嫌だ。今日は一日機嫌がいいと思う…当たり前か…ハル兄とずっと一緒に過ごしてるんだから…。


夕食は今年のGWと同様VIPルームで食べる。豪華な少量の食事と大量のアルコールが用意されているのも変わらない。


大人組は早々に部屋にあるバーカウンターに移動して酒盛りが始まる。


小林さんと愛さんが言い合って、芹沢さんが笑って聞いている…懐かしの光景…一番好きな絵かもしれない…3人の空気感が絶妙で…おしゃべりも傑作で聞いていて面白い。


「…バーテンダーさんはまだモグモグタイム中?」


「あっ、もうお腹は満たされました。カクテル作りましょうか?」


愛さんから声をかけられて、僕はバーカウンターの中に移動する。


「えぇお願い…今回は何をリクエストしようかしら…?」


「思い切ってノンアルコールなんてどうですか?体に優しいと思いますけど…?」


「小林君より若いから体を労わるのはまだまだ早いわ…そうねぇ…決めたわ、小林君にはレッドアイをお願い…もちろん、ビール抜きで作ってね!」


愛さんからウィンク付きで注文が入る。


「レッドアイのビール抜き…?それってただのトマトジュースですよね…?ユウ君、愛さんのカクテルはギムレットにしてくれ、ただし、ジン抜きで…」


「ちょっと…ギムレットからジンを抜いたらただのライムジュースじゃない」


「二人とも最高…じゃ、僕はオレンジジュースにしようかな…」


「ちょっと芹沢君…本気?私はお酒が飲みたいわ…」


「俺もです」


「まぁまぁ二人とも落ち着いて…ここはバーテンダーに任せよう…ねぇ、ユウ君?」


ハル兄の無茶ぶりにプンスカする。


「酔っ払いの相手は大変ですっ!!」


「やだぁ~ユウ君のプンスカ久しぶりに見るんだけど~可愛い~」




2008年11月23日、僕のプンスカが酒の肴になるなんて思ってもみなかったです…







翌日――


小林さんの運転で日の出を見に行く。


(日の出って本当にキレイだ…僕のモヤモヤした気持ちも全部洗い流してくれるというか、心が浄化されるというか…)


僕は日の出の美しさに感動してウルウルしていたけど、兄さん達はあくびでウルウルしていた。


(この光景…デジャブ感が強いな…)


そう思いながら僕は兄さんたちに感謝の言葉を投げかける。


「今年も日の出を見ることができて…僕は幸せです…。最近いろいろあって挫けそうになることもたくさんありました…だけど…そんな時はいつも誰かが助けてくれて…僕は一人じゃないって思います…今も…僕の隣には二人の兄さんがいて…すごく幸せです…」





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