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頑張ってね、小林君!  作者: もう無理だよ
142/211

142_僕と握手会と過労の父


僕の名前は広瀬優斗18歳、男、彼女なし。アルバイトは雑誌モデル。高校3年生




11月9日――


小林さんの家に泊まった後、テスト勉強を教えると言われ僕の家に移動した。


「あの…小林さんに見せたいものがあって…」


家に着いてから大学の合格通知表を見せる。


「大学に受かったんです!」


「へっ…?大学に受かったのか…?そうか…本当に良かった…おめでとう」


眉間のシワを深くして合格通知表を見ている。


「へへっ…ありがとうございます…」


通知表から目を離さない小林さんに(何か考え事をしているのかもしれないけど…)僕はトラのマーチ交流会の活動内容について、ゆっくりと説明した。





父さんが意識不明で入院していると自覚したのは小林さんが帰って家のお風呂に入っている時だった。


(そうだ…父さんが大変な時なのに…今からでも病院に行こう…)


浴槽から出ようとして、休日は面会時間が18時までだと気づいた。


(明日から学校のテストなのに全くやる気が起こらないな…)


AO入試で合格しても学校のテストはいつも通りの点数を取らないと合格破棄の可能性があるからテストは怠るなと担任の先生に言われていた。


(だけど…父さんに反抗できなくなるなら…大学に行く必要なんてないよね…)


ブクブクブクと浴槽に顔をうずめる。



それから数日、父さんが入院している病院に足を向けるが、一人で入る勇気が持てず、正面玄関をウロウロして帰る…という日々を送っていた。



週末は遠藤さんに頼まれていたメンズノンノンの握手会。メンバーは潤君とライアさんと僕だ。潤君がいてくれて良かった。ライアさんと二人きりなんて耐えられない。


「立ち位置は、左から阿倍君、広瀬君、鈴木君の順番です~。そろそろ始まりますので~~」


スタッフさんの指示に落ち込む。ライアさんの隣なんて足を踏まれるに決まっているのだ。携帯電話に付いているストラップのカエルを触る。最近、気分が悪いと感じたら触る癖がついてしまった。


握手会も後半戦、気合いを入れようとしたら無表情の男性が立っている。


「優斗、落ち着いたらレンラ…」


小林さんだった。こんなサプライズで登場するなんて夢にも思わなかった…と思ったら、紗希さんも会場に来ていた。


「ゆ、ゆゆゆゆゆゆ」


ゆを連呼して流れて行った。


(二人で握手会の列に並んでいたのかな…?何時間も…?)


ポカーン、としてたらライアさんに足を踏まれて意識が戻った。


(広瀬、その顔はなんだよ?)


ライアさんの無言の笑顔が視界に入る。


(足が痛いんですけど…?)


僕も無言の笑顔でライアさんと対峙する。





握手会が終わって小林さんに電話する。


「握手会に来るって、どうして教えてくれなかったんですか…?」


『お疲れ様、握手会に参加できるか分からなかったし、優斗も忙しそうで、俺から色々と言うのは優斗の負担になるんじゃないかと思って…』


「負担になんてなりません…来るなら来るって…言ってほしかったです…!」


『そうか…悪いことしたな…。実は他にもユウ君に秘密にしてたことがあって…内緒にしようって言われてたけど…言うことにする…』


「なんですか…?」


『23日、学校の文化祭だろう…?遊びに行ってもいい…?』


返事に困ってしまった。

本当は来てほしいけど小林さんが来ると甘えてしまいそうな気がして気持ちが揺れる。


『…もしかして来てほしくなかった?』


(そんなことない…来てほしい…)


『…返事は?』


「…はい」


『行っていいのか、ダメなのか分からんが…優斗が嫌でも俺は行くからな…というか…春樹さんが行きたいって言ってて…本当は内緒にして驚かせよう…って計画だったけど伝えておきます』


「ハル兄が来るんですか…?文化祭に…?」


『そうだよ。一週間の夏休みがあって東京に来るんだって…時間があるから遊びに行きたいって…ユウ君に会いたいって言われた…。いいよな、優斗は春樹さんに好かれてて…俺なんて一度も言われたことないぞ…そもそも俺が会いたいって言っても駄目とか忙しいとか会いたくないとか…』


兄さんのハル兄大好き話しが続く…長いので口を挟む。


「分かりました、文化祭は僕が案内します」


『…春樹さんが来るから急にやる気スイッチが入ったんだろう?俺が行くのは嫌そうにしてたのに…』


「そんなこと…ないですけど…」


『じゃあ…嬉しいってことで…話しを続けるけど…文化祭が終わった次の日ってバイト入ってないだろう?』


「はい…」


兄さんの話を聞く。






11月20日――


学校が終わって仲野の病院に行く。今日こそ院内に入りたい。


(大丈夫…頑張れ…まずは一歩…)


携帯のストラップを触りながら呼吸を整える。行くぞ…と思ったら後ろから声がかかる。


「あの…優斗さんっ!こ、こんにちは…」


元気いっぱいの声…宮永紗希さんだった。


「優斗さんのお父さんが入院しているって聞いて…心配で来たんです…。優斗さんに会いたいと思って来たわけじゃありません…。いえ…本当は会いたかったんですけど…でも…どんな顔で会えばいいのか分からなくて…まさか今日会えると思ってなくて…声かけちゃいました…あっ、握手会は…小林さんに誘われて…優斗さんと握手できると思ってなくて…その…」


身を縮めて説明している。


「こんにちは…握手会に来てくれて、ありがとうございました…。僕も…紗希さんに会えて良かったです…。ここだと寒いですよね…病院の中に入りましょうか?」


「はい…」


紗希さんが後ろからついてくる。こんな形で病院に入ると思わなかった。


「優斗さん…私、トレジャーバトル4の新作発表会で優斗さんのお父さんに会ったんです。それで…トラのマーチのこと…話したんです」


「…父から電話があって…紗希さんのことは聞いてます」


「そう…だったんですか?」


「はい、その時に…僕は父に酷いことを言ってしまって…その数時間後に会社の人から電話があって…父が倒れて救急車で運ばれたから病院を教えるって…」


あの時の恐怖がよみがえってきて、体が震えそうになった。


「何度か一人で来たんだけど…病室に…入れなくて…また酷いことを言ってしまうんじゃないかって……」


「優斗さん…大丈夫です!優斗さんが暴走しそうになったら私が責任を持って止めますから!」


動けない僕を置いて一人で歩き出してしまった。


「早く行かないと面会時間が過ぎちゃいますよ~」


元気な声に背中を押されるような不思議な気持ちになった。


(年下の女の子にカッコ悪いところは見せられないし…)


足に力を入れて一歩踏み出す。ゆっくり、ゆっくり、一歩、一歩、時間をかけて父さんの病室に到着した。


病室は個室だった…ドア一枚を開けるのに力が入らなくて扉がビクリともしない。


「……優斗さん、私が開けます…いいですか?」


情けないと思うけど手に力が入らないので仕方なくお願いした。病室に入ると父さんは寝ていて、知らない男性が椅子に座っていた。


「君は…もしかして優斗君?」


若い男性が立ち上がって僕と紗希さんの前に立つ。


「この前電話した香坂です、初めまして…。君のお父さんには大変お世話になっています」


「初めまして、息子の優斗です。先日はありがとうございました」


形式的な挨拶をして父さんを見る。父さんは静かに寝ていた。


(すごく…痩せたんじゃないかな…?)


骨が浮いている手首に紙テープが巻いてある。その手を握ってみた。


(…温かい…良かった…)


ホッとして父の容態を香坂さんに質問する。


「過労だよ。それで血液検査をしたら問題もあってしばらく入院だって…。命に別条はない、休息が必要だってお医者様から聞いたよ」


「過労…?それじゃ…死ぬってことは…ないんですね…?」


「うん、最近はトレジャーバトル4の新作にも取りかかっていたしね…業務が増えて大変だったと思う」


「そう…ですか…」


(仕事大好き人間が仕事のし過ぎで倒れるって…本望なんじゃないの…?)


「僕はそろそろ仕事に戻るね…何かあったら連絡して下さい」


香坂さんはカバンを持って部屋から出て行った。


「紗希さん…僕たちも帰ろうか?」


モヤモヤしてくる。気分が悪い。


「待ってください、優斗さんがトレジャーバトルを嫌いな理由は、お父さんに関係してますよね?」


どう答えたらいいのか分からない。


「理由を知りたくて優斗さんのお父さんと話した時に色々と聞けて…優斗さんのことを大事に考えているんだな、って感じました。だから…私、思うんですけど…優斗さんが何か誤解しているんじゃないって…」


「誤解ですか…?」


僕は考える。


「…いえ、誤解はないと思います。父さんは昔から仕事が大事で…そのせいで母さんは出て行ったし…借金だって作って…バチが当たったのかもしれません…」


「…えっ?」


「あっ、すみません…紗希さんには関係ない話でしたね…」


「か、関係なくありません!あの…今日ってまだ時間ありますか?私の話を聞いて下さい!!」




2008年11月20日、紗希さんの声量に驚いた看護師さんが「静かにして下さい、ここは病院ですよ、こんなところで痴話ゲンカなんてどうなってるの?最近の若い子は…」看護師さんの声量の方が大きいと思うけど、紗希さんと一緒にペコペコ謝った…









病室からカフェに移動する時の優斗君と紗希ちゃんの会話――


「結局、握手会は何時間待ってたんですか?」


「えっと…2時間ぐらいですね…」


「…小林さんと2人で待ってたんですか?」


「はい…初めは気まずかったりもしましたが…途中で小林さんがケーキを買って来てくれて…私に気を遣ってくれたんだと思いますけど、一緒に召し上がってくれて…私に合わせて無理して食べていたんじゃないかと心配になりました…あまりにも無表情で食べるので…」


(兄さんは絶対に自分がケーキを食べたかったんだと思う…)


「それで…ケーキを食べながら色々とお話しして下さって…」


「ど、どんな話し…?」


「えっと…トラのマーチ発足の話とか…メンバーの昔話とか…でも優斗さんの話しが一番多かったかな…?社会人1年目で優斗さんに会って…優斗さんを探し回ったって…大変だったけど楽しかったって笑っていたような…?」


「そうですか…」


(兄さんは僕に夢中だから…僕の話しばっかりしちゃんだな…)


「優斗さん…すごくいい笑顔ですね…」


「…そうかな?そうでもないよ」





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