141_ゴリラ所属とドッグタグとリーダー交代
俺の名前は不破虎牙。29歳、男、独身、彼女なし。
トレバト夏季大会で優勝したら、芹沢さんに会いに行くと決めていた。
新宿のゲームセンターの正面に立ち4階を見据える。今日は芹沢さんがライアにトレバトを教えていると聞いていた。
エレベーターを使って4階に上がるとパッと視界に入る人物、芹沢さんの存在は華やかだ。オーラがあると言ってもいい。
芹沢さんはライアにトレバトを教えていたが、構わず俺は声をかける。
「…お久しぶりです…」
「…不破君?」
芹沢さんはサングラスを外して俺を見る。
「あの…話したいことがあって…来ました…」
「うん…」
俺の前に立つ芹沢さんは何も変わらない…あの時のまま…いつも俺の目標だった。
「芹沢さん…俺は……許されないことをしました」
「待って…その続きはここじゃないところで聞きたい。ライア、悪いけど…少し待ってて…」
「俺は構いません」
ゲームを中断したライアは俺たちを見上げている。
「不破君…屋上に行こうか?静かなところで話したいんだ…」
頷いて芹沢さんの後に続く。
ゲームセンターの屋上は誰もいなかった。殺風景だが、話すには静かで最適かもしれない。
「さすがに風が冷たいね~こっちの壁際で話そうか」
俺は全く寒くない…むしろ暑いくらいだったから、風よけになる位置を探して立つ。
「芹沢さん…おれ…カッとなると周りが見えなくなるんです」
「それは昔の話だろう?今は違う…増田君から聞いてるよ。チームが一つになって来たって…匡宏も不破君は変わったって…ドッグタグのリーダーとして信頼できるって言ってたよ」
「…俺は増田さんやヒロの評価じゃなくて芹沢さんからの評価が欲しいんです。芹沢さんに言われた…新しいドッグタグのリーダー像を…俺は築けているでしょうか?」
「不破君は頑張っていると思う…メンバーとコミュニケショーンを取るようになったってイザヨイ君から聞いてるし…若い子が増えたって…ライアから聞いてる…」
(頑張っている…か…)
芹沢さんの話しを聞いて俺は確信する。
「俺…思うんですけど…やっぱりドッグタグは芹沢さんのチームです」
「僕のチーム?」
「はい…俺なりのリーダー像を探してみましたけど、俺がやってることって芹沢さんがいなくなった穴を埋めているだけっていうか…結局は芹沢さんに意見が集まってて…話しの中心は芹沢さんで…このチームのリーダーは…ドッグタグは最初から芹沢さんのチームなんです」
「不破君…」
「ずっと言いたかったんです……チームに…戻ってきてほしいって…それに、俺は自分が一番になりたいんじゃない、芹沢さんの下にいたいんだって気づいたんです…!お願いします!」
「不破君…顔をあげて…」
自分の気持ちを整えて顔を上げる。芹沢さんは、ごめんね、と首を傾ける。
「僕はトレバトを卒業した…もう戻るつもりはない…」
「……ッ」
俺が口を開く前にパシッと腕を掴まれた。
「今日はありがとう、話せて良かった」
ポンポンと肩を叩かれて芹沢さんは俺の横を歩いて行った。
俺はその日の夜、増田さんの家に来ていた。そこから元マネージャーだった戸矢崎に電話をする。
『…もしもし?』
気が進まないけど出てやったわよ、という態度の戸矢崎が目に浮かぶ。
「相談に乗ってほしいことがあって…電話した…」
俺は今日の出来事を伝える。
「戸矢崎の言うとおり芹沢さんに自分の気持ちを伝えたが拒否された」
今年の始めに戸矢崎に言われた。
――芹沢君は不破君に甘いのよ、激甘よ。だから言いたいことがあるなら大声出して本音をさらせばいいじゃない!!
それから一切話していない。戸矢崎は山梨に引っ越してしまったから偶然再会することもない。
『はぁ?拒否されたって…まだ1回でしょ?1回ぐらい拒否されたからって何よ?』
戸矢崎が怒りを爆発させる。頭からツノが出てる光景が目に浮かぶ。
『私なんて何回も拒否されたわよ。それでも諦めずに立ち向かったわ……。ねぇ、今、私のこと目障りな女だなってドン引きしてるでしょ?』
「…思ってねぇよ…」
(実際は思ったけどな…ってか、電話越しで何でバレんだよ…相変わらず怖ぇ女…)
『はぁ?いや、思ってるよね…?バレバレなのよ、ウソつくのが下手過ぎ!』
俺と戸矢崎は本当に相性が悪い。だがここで電話を切るわけにはいかない。
「…悪かったよ…俺は…戸矢崎みたいにガッツが足りなくて…我慢強くもないし…」
『本当そう!言葉じゃなくて暴力で人を動かそうとするし、人の話しは聞かないし、いつも偉そうな態度で威張るわ、怒鳴るわ、動物かって話しよ、分かる?』
耳が痛ぇな…色々な意味で…。
「…反省してる…過去の俺は…人を傷つけてばかりだった…思いやりに欠けていた…どんなに謝っても過去の過ちは消すことがない…」
『フンっ、なによ…大人しくなったものね…それとも猫を被ってるだけ…?まぁいいわ、どっちでも…』
戸矢崎からツノが消えた、と想像する。
『芹沢君は…ドッグタグに戻りたいと…思っているわね…』
「ほ、本当か…?」
『はぁ?ウソついても仕方ないでしょ?バカなの?ゴリラなの?ゴリラ所属なの?』
もう何も言うまい。
『フンっ、それで………ちょっとぉ…何を言うか忘れちゃったじゃない…バカのせいで私の時間がどんどん減っていくわ!』
俺は返事をしない。じっと待つだけにした。
『あぁ…それで…不破君がドッグタグのプレートを芹沢君に渡したでしょ?あれをたまに眺めてる…それに小林君からも聞いたことがある…芹沢君がトレバトを再開するときはドッグタグに戻るそうですって言われたわね…』
(マジかよ…?)
俺は興奮してきた。
『ねぇ、ちょっと…ちゃんと聞いてるわけ…?まさか寝てないわよね?』
「寝てません…」
『はぁ?何で急に敬語なのよ?意味分かんないし…。あーあ、時間の無駄だわ…本当に…だけど…芹沢君のために私も協力する…探りを入れてみるから…何かあったら連絡する』
「…よろしくお願いします」
『…こちらこそ、よろしくお願いします』
電話を切る。
「愛ちゃん元気そうだな…?」
増田さんが煙草を吸いながら笑っている。
「戸矢崎…声量が半端ないです…」
「そうだな…音漏れで愛ちゃんの会話が聞こえたし…それで…キングは戻って来れそう?」
「絶対にチームに戻って来てもらいますよ…」
「おぉ…その意気、その意気…」
俺はそのままヒロに電話する。このままの勢いで芹沢さんの情報を集めたい。
『不破さん…?お久しぶりです…』
戸矢崎に聞いた情報を確かめる。
『あぁ…はい…確かに言われました。チームに戻ることがあれば…それはドッグタグに戻ると…』
「それはメンバーとして戻りたいって言われたのか…?それともリーダーとして…?」
『…どっちだと思いますか?』
何でヒロにまでこんな言い方をされるんだ…。ちょっとイライラしてきた。
(イライラしてきたらどうすればいいのか…そうだ、前にプリンセスメロンに言われたな…イライラしてきたらバナナを食べたらどうですか…と…実行しよう…)
「俺が…芹沢さんに聞いてみる…」
電話を切ろうとしたら、増田さんが俺の電話をつかみ取る。
「もしもし~ヒロ~?元気にしてる…?またトラのマーチに遊びに行かせてよ~。えっ…いつでもいいの?楽しみにしてる…それでさ、さっきの…」
増田さんはやけに楽しそうだ…。俺はキッチンに向かう…バナナを食べて落ち着こう。
「はい、電話返すね…。キングのこと聞けたよ」
「なんですか…?どんな情報ですか…?」
携帯電話をポケットにしまう。
「キング…ドッグタグにはリーダーとして戻りたいって~イエーイ!」
「マ、マジッすか?よっしゃ!!」
「キングがいつでも戻って来れるようにチーム体制を考えないか?マネージャーの三波ちゃんもそろそろ辞めるって言うしさ…」
バナナを食べながら増田さんの話を聞いた。
俺はそれから毎日毎日、芹沢さんに電話をする。
「ドッグタグのリーダーに戻って来て下さい!お願いします…!!」
『分かったよ…愛ちゃんにも言われたし…』
「戸矢崎に…ですか?」
『うん…ドッグタグのリーダーに戻らないと離婚するわよってね…ふふふ…』
(さすが戸矢崎…相変わらず、ブッ飛んでんな…だけど…)
「戸矢崎にお礼を…」
(いや…俺の口から戸矢崎に伝えるべきか…)
「俺…今度…山梨のホテルに遊びに行ってもいいですか?戸矢崎と話すことがあるんです…」
『良いに決まってるだろう…いつでも待ってる…』
11月19日――
今日はドッグタグの交流会に芹沢さんがやってきた。
「不破君…リーダーは本当に僕でいいの…?」
「ドッグタグのリーダーは芹沢さんです!」
「…どうしてそう思うんだい?」
「それは…その答えは…メンバーを見ていて下さい」
戸惑い顔の芹沢さんをチームの先頭に連れていく。すでにマネージャーがメンバーを一か所に集めていた。
俺はシーンと静まり返ったメンバーの前に立つ。
「今日は皆さんにお知らせがあります。俺は芹沢さんからドッグタグのリーダーを引き継いでここまできました。リーダーとしてチームの先頭に立ちましたが…ずっと違和感がありました。ですが最近…その違和感の正体が分かったんです」
俺は隣に立っている芹沢さんを見る。
「それは…ドッグタグのリーダーは芹沢さんだ、ということです。ドッグタグは芹沢さんのチームだと気づいたんです。それから俺は芹沢さんに頼みこんで…ようやくドッグタグのチームリーダーに戻ってもらえることになりました」
俺の言葉にメンバーは目つきが変わる。
「今日からドッグタグのリーダーは芹沢さんです」
俺は自分のドッグタグを外して芹沢さんの首にかける。1年前に芹沢さんが俺の首にかけてくれた時と同じように…。
パチパチパチ…自然と拍手が起こって俺はメンバーに頭を下げる。
「不甲斐ない俺に今までついて来てくれて…ありがとうございました。芹沢さんは俺の100倍は頼りになる男なのでドンドン頼って下さい…任せましたよ、リーダー?」
俺は芹沢さんの肩に手を乗せる。こうやってバトンタッチしたはずだ。
そんなことを考えていたら芹沢さんからハグされた。
「不破君…色々とありがとう…責任重大だね…でも任せて…今度はちゃんと…やり切ってみせる。だから隣で…見ててほしい…」
「はい…NO.2として…隣にいさせて下さい!」
2008年11月19日、ドッグタグのリーダーが芹沢さんに戻って一番喜んでいるのは俺だと思う
愛ちゃんと芹沢君の会話――
「増田君に聞いたよ…不破君にゴリラって言ったの?」
「言ったわ…ゴリラって呼ばれることが嫌いなのも知ってて…言った…」
「愛ちゃん…」
「昔みたいにキレると思ったのよ」
「不破君はキレなかっただろう…?」
「えぇ…ただ…沈黙が返って来ただけ…」
「それで……少しはスッキリしたの…?」
「いいえ……」
「…そろそろ不破君を許せそう…?」
「まだ時間がかかりそうだけど…許す努力を…していくわ…だって不破君は春樹の大切な友達ですもの…」
「…そうだね」
「そうよ…だから…その友達がチームに戻って来てほしいって毎日毎日頼んでるんだから戻ってあげればいいじゃない」
「でも…仕事が…」
「仕事とプライベートを両立させて楽しんでいる春樹が好きだったのよ…今はダメ!仕事ばっかりで魅力を感じないわ…」
「愛ちゃん…」
「だから…私のためにもチームに戻って…ねっ?」
「…うん」




