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頑張ってね、小林君!  作者: もう無理だよ
140/211

140_私とヒロ君と小鳥階級コミュニティ


私の名前は花崎詩織。23歳、女、独身、彼氏なし。




10月11日――


心地よい秋風が吹き抜ける午後、私は初めて「眠れる森の小鳥」の交流会に参加する。リーダーの市川さんに自己紹介をお願いされメンバーの前で意欲的に声を上げた。


「トラのマーチに所属していました、花崎詩織です。今日から眠れる森の小鳥の一員になれて嬉しく思います」


私の挨拶に反応はないが、市川さんが「はい、拍手」と言ったら、やる気のない拍手がパラパラ返ってきた。


市川さんは気を取り直して、話しを続ける。


「花崎さんは『ひよこ』に所属しますが、特例として雑用などは一切しません。回覧板に書いてあるので読んで下さい。また、星羅はマネージャーとして復帰します。以前と同じようにメンバー管理とメンタルケアを行うので何かあったら星羅に報告して下さい。以上です。何か質問はありますか?」


お世話係の芽衣ちゃんから聞いていた通り、この女子チームに入った時は必ず最下級の「ひよこ」に属する。

雑用係でもあり、上の階級の人には逆らえない、とのこと。


階級は下から、「ひよこ」→「飛鳥」→「朱雀」→「ウグイス」らしい。


また、回覧板とは、チームのホームページから閲覧できるページだと教えてもらった。


「菜月、個人戦はいつやるの?」


ミーシャさんの質問に市川さんが、うーん、と少し考える。


「来月の交流会でいいかな…?その順位を元に12月のトレバト本選の出場を決めることにします。花崎さん、分からないことがあったら芽衣に聞いてね」


私は頷く。


「それじゃミーティングは終わりにします。各自、時間まで楽しんで下さい」



メンバーがバラけるので、私はなんとなく芽衣ちゃんがいる方へ歩く。


「…交流会って、どんなことするの?」


「対戦がメインですけど…情報交換したり、友達を作ったり…他のチームと同じ内容だと思います」


「そっか…あと…個人戦ってなに?」


「個人戦は階級ごとに総当たり戦をします。上位2名が上の階級に進みます。逆に下位2名は、下の階級に落ちます…たとえば『ひよこ』に属している花崎さんが総当たり戦で1位か2位だったら、その上の階級『飛鳥』に進みます。『ウグイス』の階級はまた別です。『ウグイス』に上がる時に説明しますね」


「…えっ?じゃあ…12月の大会って私が出場することはできないの?」


眠れる森の小鳥は、12月のトレバト大会本選に進んでいるから大会に参加できるものと思っていた。


「基本的に大会に参加できるメンバーは『ウグイス』から…という決まりがあります…」


「そっか…参加できると思ってた…。チームに入ってすぐに大会に出場するなんて…そんな簡単にはいかないよね?」


大会には『ウグイス』に属しているメンバーのみで構成されると回覧板にも書いてあった。ショックで肩を落とすと、後ろからポンッと両肩に手が乗る。


「…そんな浮かない顔して…どうしたの?」


(この声…市川さんだよね?)


明らかに声の質が違う気がしたが市川さんだった。


「芽衣…花崎さんが困ってたらすぐに私に報告してって…言ったよね?」


「あっ!はい…すみません…あの…実は…」


芽衣ちゃんがしどろもどろで市川さんに説明している。


「なぁ~んだ、そんなこと…?大会に出場したいなら私に言ってくれれば良かったのに~。メンバーに告知しておくね」


(芽衣ちゃんに話す時と私に話す時で声の高さが違うような…?)


「市川さん…本当にいいの?」


「大丈夫、大丈夫!私はリーダーなんだから…そうだ、メンバーになったからリストバンド渡しておくね」


黄色のゴムのリストバンドを受け取る。レースの羽が付いていた。交流会に参加する時は必ずリストバンドの着用が義務らしい。


手首にリストバンドをはめながら、芽衣ちゃんのリストバンドを見る。青色だった。階級によって色が違うのかもしれない。


「花崎さんは特例として本選大会のメンバーに登録しておくね!また何かあったら言ってね」


「はい…ありがとうございます」


「メンバーとして大会に出場してくれるなんて心強いし、嬉しいな。星羅に話しておくね」


手を振る仕草からリストバンドが見えた。黄緑色だった。




「市川さんって、おっとりしている人かと思ったけど…そうでもないんだね…?」


私の発言に芽衣ちゃんは目を丸くする。


「おっとり…?ですか…?花崎さんには特別な感じで接していると思います。私達には厳しい人ですよ。特に仲が悪いのは美紀さんで…あぁ、ちょうど話すようなので…少しだけ会話を聞きに行きませんか?菜月さんの素が出ますから」


(市川さんの素が出る…?というか、一番仲が悪いのが杉本美紀さん…?チームの№1と№2が…?)


色々な情報が入ってきてそろそろキャパオーバーになりそう、と思いながら芽衣ちゃんに連れられて、市川さんと杉本さんの会話が聞こえる範囲に移動する。


「美紀いたんだ?存在感なくて分からなかった」


「そんな大きい目で分からないって…眼科に行ってきた方がいいんじゃない?」


可愛くおしゃべりしている雰囲気なのに、毒舌の応酬が続く。


「美紀は小さい目でよく私が見えるわね…あらっ?その目って…開いてるのよね?」


「私の目は小さいんじゃなくて、細長いのよ…」


「目も小さくて胸も小さいなんて同情しちゃう~」


「菜月みたいに何もかもデカくないの…ちょうどいいサイズなのよ、分かる?ってか、見える?」


「まぁまぁ二人ともその辺で…」


高橋星羅さんが二人の間に入って場を収めている。




私たちはそっと移動する。


「市川さんの素が見れるって意味が分かった気がする」


芽衣ちゃんが苦笑いを浮かべると、その後ろから小柄なショートカット女子がやってきた。


「ちょっと芽衣…花崎さんに『ひよこ』の雑用を教えないわけ?」


「花梨…?でも…花崎さんは雑用しないって言われてるよ。回覧板にも書いてあったし菜月さんからも強く言われて…」


「芽衣って何も分かってないよね…菜月さんが言うことを言葉通りに受けてるだけじゃダメなんだよ。雑用しないって言われてても花崎さんに説明してあげないと…」


「でも…」


「あの…花崎さん、初めまして、私は最上花梨と申します。朱雀に所属しています」


芽衣ちゃんを押しのけて最上さんは私の前で自己紹介を始める。リストバンドは赤色だった。


「差し出がましいようで恐縮ですが…菜月さんが花崎さんのことを特別扱いしているのはメンバー、重々承知なのですよ。ですが…だからと言って本当に何もしないのは、いかがなものでしょうか?」


「はぁ…」


「世間一般の常識として…チームに入った新人なのですから、花崎さんからメンバー全員に挨拶するのが基本なのではないでしょうか?」


「確かに…」


「そうでしょう?雑用は免除でも挨拶もないなんて…花崎さんって自分の立場が分かってないのね?なんて、謂れのない理屈や言いがかりを付けるんですよ…ここはそういう場所です」


「なるほど…それは…大変ですね…」


「そうでしょう?ひとまず、花崎さんがメンバー全員に挨拶した方が得策かと思われます」


芽衣ちゃんが最上さんの洋服をちょこっと掴む。


「花梨…でも…菜月さんに言われたんだよ…勝手なことはするなって…花崎さんだって入ったばかりで全員に挨拶なんて…大変だよ…」


「大変なのは分かっているのよ、だから私たちでサポートすればいいじゃない?挨拶だって階級順からしなきゃいけないでしょ?花崎さんはまだ分からないんだから…私…花崎さんにはこのチームにずっといてほしいのよ。あの、花崎さん…」


最上さんは私に向き直る。


「私は…花崎さんがウチのチームに入ってくれて嬉しいんです。本当は私も花崎さんのお世話係に立候補したかった…だけど…上が怖くて立候補できませんでした…さっきの拍手も本当は力一杯したかったけど…やっぱり上が怖くてできませんでした…」


「花梨…」


「正直、今でも上が怖いんですけど…でも…陰ながらサポートさせて下さい」


「うん、ありがとう…なんだかすごく嬉しい気持ちになったよ」


私は芽衣ちゃんと最上さんに頷く。


「今からでも遅くないよ、全員に挨拶しよう。挨拶する順番だけ…こっそり教えてくれる?」


私はウグイス嬢から順に挨拶を始める。

交流会の時間内にギリギリ終えることができたけど、冷やかな目を向けられることも少なくなかった。


(ニコニコと穏やかに会話しているのに…どうして冷たい目線だと感じるのかな…?)



帰り道…あまりにも疲れたので、ヒロ君に電話をすることにした。


『花崎…どうした?』


ヒロ君は小声だった。


「あれ…いま大丈夫?」


『うん、大丈夫だけど…近くで優斗が寝ているから…小声で話すよ』


(優斗君がヒロ君の家のソファで寝ているらしい…どういう状況なんだろう…?)


『それが…今日マーチ会だったんだけど…問題が起こって混乱した優斗が交流会を飛び出したんだ…そのことで優斗と話し合おうと思ってウチに来てもらったんだけど…疲れが溜まっていたようで寝ちゃって…起こすのも可哀想だし…今日はこのまま泊めようと思うんだ』


「問題…?マーチ会も大変なんだね…」


『花崎は…?今日は小鳥の交流会だったんだろう…?初日はどうでしたか?』


「それが…ちょっと長くなるけど聞いてくれる?すごく大変だったんだよ」


『そっか、お疲れ様。長くなってもいいよ、俺、聞いてるから…だけどコーヒーの準備をしようかな?』


「私も…自販機でコーヒー買って来るから、5分後にかけ直すね」


コーヒーの準備をして、ヒロ君に今日の出来事を全て話した。ヒロ君が話しを聞いてくれるだけで今日の疲れが飛ぶような気がした。




11月16日――


今日は小鳥の交流会…参加時間より早く集合場所に到着した。なぜなら、『ひよこ』としての雑用があるからだ。


最上さんからメールが来た。


「『ひよこ』の雑用を教えますね。花崎さんは雑用免除と聞いていますが、だからと言って知らないというのも変な話しなので…」


ひよこに属しているメンバーは7人だった。リストバンドが全員、黄色だから分かりやすい。


「あのぉー花崎さんは雑用しないって菜月さんから聞いてますけどぉ…?」


ひよこの一人から声がかかる。


「はい、雑用はしなくていいって言われてますけど…チームの一員になったし、私も皆さんと同じようにやります。だから色々と教えてもらえると助かります」


「そうですか…それじゃ、こっちで一緒にやりませんか?」


「はい…お願いします」


なんとなく空気に溶け込めたような気がする。




交流会が始まって、いよいよ個人戦――


少し緊張したけど、『ひよこ』の階級の人と総当たり戦をした。時間がかかったけど、全員に勝つことができた。


「花崎さん…もう『飛鳥』ですか?」


芽衣ちゃんは驚いているけど、私はすぐに『ウグイス』に上がりたいと思っている。


「さっき高橋さんにリストバンドもらったけど、『飛鳥』は青色なんだね…芽衣ちゃんと同じ階級ってことかな…?」


「そうです…!私は『飛鳥』に所属しています。飛鳥の雑用も色々とあるので教えますけど…花崎さんならすぐに『朱雀』に上がりそうなので、教えても覚える必要はないですね。しかも雑用は免除って菜月さんから言われているし…」


「雑用のことなんだけど…私、雑用は苦じゃないから、できれば教えてほしいな…今日ね、『ひよこ』の皆さんと雑用を一緒にして、少しだけメンバーに溶け込めたかなって思えたんだ…だから…『飛鳥』に階級が上がっても同じように雑用したいって思うの…」


「そうでしたか…!分かりました。何でも聞いて下さい」


「ありがとう、よろしくね」


チームに入ったからにはチームのやり方に従う方が懸命だよね。




2008年11月16日、郷に入れば郷に従え、鳥かごに入れば小鳥に従えってことだね、私は小鳥の仮面をかぶったトラだけど…ガオー!




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