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頑張ってね、小林君!  作者: もう無理だよ
138/211

138_僕と兄さんと本能の僕


僕の名前は広瀬優斗18歳、男、彼女なし。アルバイトは雑誌モデル。高校3年生




11月8日――


モデル撮影の休憩中、父さんと電話で話したら、むなしい気持ちになった。


(僕は何のために生きてるんだろう…?)


遠藤さんがやってきて口をパクパクさせている。何を言っているのか聞こえなかったけど、どうやら休憩時間は終わりだ、と呼びに来てくれたようだ。動作で通じた。


「…ありがとうございます」


お礼を言って動こうとしたけど、どこに行けばいいのか分からない。


(僕は何のために働いているんだろう…?)


ボッーとする。体が動かない。ただ遠藤さんが口をパクパクしているのを見てるだけ。


「…小林君のせいだろう?」


小林さんの名前に反応して耳が聞こえるようになった。同時に体も動かせるようになった。


「これで拭きなさい」


遠藤さんからポケットティッシュを受け取る。気づかなかったが、涙が出ていた。


「原因は小林君なんだろう?」


「いえ…小林さんのせいじゃありません」


体が動く。意思とは関係なく呼吸も…。どこに向かえばいいかも体が分かっている。


「ティッシュありがとうございます、僕、戻りますね」


「優斗…」


遠藤さんが何か言ってたから振り返って会釈し、休憩室を後にする。足が自然に動くままにスタジオに入ると、準備万全という雰囲気だった。


「広瀬君、次は椅子に座って撮影よ」


スタッフの指示に頭は反応しなかったが、体はちゃんと動いて椅子に座る。フラッシュを浴びてシャッターを押されると体が勝手に反応して表情を作る。動きを作る。僕は人形になったみたいだ。


そのまま本能に任せて僕は意識を手放した。




「…広瀬…さっきのは何だよ?」


目の前に青筋を立てたライアさんが立っていた。僕は撮影を終えて着替えのため更衣室の椅子に座っていたようだ。


「…………」


「なにボッーとしてんだよ?」


反応できない。ライアさんが口を動かしてるけど、何を言っているのか分からない、聞こえない。


ライアさんがイライラしながら動作するから携帯の着信が鳴っていることに気がついた。スミマセン、と頭を下げて電話に出ると相手は小林さんだった。


『…優斗?』


「…ッ………ッぅ…」


言葉にならなかった。


『ど、どうした…?具合悪い…?遠藤さんから連絡があって…』


そこで聞こえなくなった。ライアさんが僕の携帯電話を横取りしたからだ、と気づいた時はライアさんが小林さんと話していた。


「もしもし…小林さん?鈴木ライアです…そんなに心配しなくても広瀬君は大丈夫ですよ。さっきの撮影も一発OKもらって今は更衣室で着替えてるんです…えぇ…はい…はは…俺も広瀬君が心配なので様子を見ているところです…俺がついてますから…いえ…はい…」


ホラッ、と携帯を投げられた。


「小林さんが迎えに来るって言ってたけど、代わりに断わっておいた」


ライアさんの声がハッキリ聞こえる。本能が僕を乗っ取ったみたいだ。体が勝手に動くから本能に任せる。


本能が小林さんに電話をかけ直す。


「もしもし…さっきはお電話ありがとうございました」


『優斗…?大丈夫なのか…?』


「えぇ…ご心配おかけしました。ライアさんも横にいますし…」


本能がチラッとライアさんを見る。また電話を取られたら面倒だ。


「あの…小林さん…今日も泊まりに行っていいですか?」


『…へっ?俺はいいけど…夕飯は食べる?作っておく?』


「大丈夫です、甘いもの…何か買って行きますね!それじゃ、また後で…失礼します」


電話を切ってライアさんを見据える。来るなら来い…僕は何も怖くない。


「フンッ、いつもそうだよな…甘ったるい声出して恥ずかしくないのかよ?」


「いいえ、全く…。芹沢さんの真似してるライアさんの方が見てて恥ずかしいです」


「真似じゃねーよ、尊敬してんだよ…広瀬に言われる筋合いねぇーから」


にらみ合いが続くと、スタッフさんが呼びに来た。


「広瀬君、さっきの撮影全部撮り直しになったって聞いてる?」


「…聞いてません。どうしてですか…?」


「うーん、なんかね、データが紛失したらしいよ。カメラマンさんとアシスタントさんが必死に探しているけど、見つからないみたい。誰かがデータを削除した可能性もあるとかで…」


僕はライアさんを見る。フンッ、と笑ってどこかへ行ってしまった。


(犯人は絶対にライアさんだよ…)


僕はスタッフさんの説明を受けて撮影を開始する。本能に任せた自分はイキイキしていると思う。遠慮がなくなった…というか…人目が気にならない…というか…。



途中、小林さんに電話して遅くなることを伝える。


『俺は大丈夫だよ、甘いもの…期待してます』


冗談っぽく言われた。任せて下さい、と言って電話を切る。


撮影は順調に進み18時過ぎに終わった。


(本能に任せるって良いかもしれない…)


辛いことがあっても何も考えずに体を動かすことができる。仕事ができなくなったら困るし、何かあったらこの方法で乗り切ろう、と考えてふと疑問が頭をよぎる。


(あれ…?どうして僕は働いているんだろう…?何のために生きてるんだろう…?)



ルルルルー

電話だ。小林さんだと思った。


『いつもお世話になっております。広瀬優斗さんの番号でお間違いないでしょうか?』


「はい…」


『私、広瀬さんのお父様の元で働いている香坂と申します。本日の17時過ぎにお父様が会議中に倒れて病院に運ばれました』


「…父が…倒れた?」


香坂さんが何を言っているのか理解できない。


『はい。本社近くの病院に運ばれましたが、いまだに意識不明です』


「意識…不明?」


『病院の住所と部屋番号をメールで添付します』


香坂さんの声が聞こえなくなった。


『…広瀬優斗君?』


もう何も聞こえなくて、携帯電話を耳から離した。


(意識…不明…父さんが?)


『優斗君、聞こえる?』


(さっき父さんと電話したよね…?あの時僕は…なんて言った…?)


急に寒気がしてブルブルと震えた。

鳥肌が立って気持ち悪い…力が入らなくなって、僕はその場にへたり込む。



それからは何も覚えてない。

寒いな、と感じて意識が戻った時、僕は薄暗い建物の前にいた。


(ここは…どこ…?)


辺りを見渡すと病院だと分かった。手には携帯電話が握られている。どうやら僕は一人でここに来てずっとここに立っていたようだ。寒さで意識が戻ったんだろう、と推測する。


今は何時だろう、携帯を開くと着信の知らせが表示されていた。全部、小林さんだった。すぐにかけ直す。


『ゆ、優斗ッ…?いまどこ?大丈夫か…?』


「……ッ…」


寒くて口がガチガチするし、上手くしゃべれない。こういう時は…本能に任せればいいんだ、と思って僕は意識を手放した。




それからは何も覚えてない。急に体がジンジンして震えた。鳥肌も立って、意識が戻った時、目の前に兄さんがいた…裸で…。


「ここは…どこ…?」


「へっ…?大丈夫…?」


あったかい…と思ったら僕は湯船に浸かっていた。


「あれ…?どうして僕はお風呂に…?それも小林さんと一緒に…?」


「…ははは、やっと正常に戻ったか?さっきまで壊れたロボットみたいで怖かった」


「どういう…ことでしょうか…?」


小林さんの話を聞く。


「つまり…僕が小林さんと一緒にお風呂に入りたいと…何度もリクエストしたと…?」


「そうだよ…俺は入った、って言ってるのに、何度も入ろう、入ろう、って言うから、入るしかないな、と…ははは…」


僕は必死に謝る。本能に任せちゃダメかもしれない。


「いいよ、別に…楽しかったから…俺、先に出るけど…何か食べる?」


ボッーと考えたらグーッとお腹が鳴った。


「腹減りか…?何か消化にいいもの作っておくな」


はい、と返事して首をすぼめる。ため息が出るけど、暖かくて気持ちいい。体が冷え切ってたんだと思う。


ボッーとしていたらお腹が鳴る…グーグー鳴る…。


(何か食べたい…今すぐ食べたい…)


食欲がわくのは久しぶりで…すぐにお風呂から出てプースカのパジャマに着替える。


美味しそうな匂いがしてキッチンに向かう。


「…小林さん…お腹すきました…」


「おっ、出たのかな…?うん…?髪がまだ濡れてる…。ドライヤーで乾かしてきたら?それまでに用意しておくから…」


「いいです…僕…お腹すきました…」


「…そう?じゃ、座って待ってて…」


はい、と返事していつもの席に座る。



「はい、おまたせ…」


雑炊を作ってくれた。


「ありがとうございます…いただきます…」


スプーンですくってフーフーして食べる。温かくて玉子がフワフワで美味しい。


「…出汁が絶妙です。塩加減も…とっても美味しいです…」


「そう…?良かった…」


小林さんはドライヤーを持って来て僕の髪の毛を乾かす。


「…ちょっと気になって…食べてるのに悪いな…あと少しだけ…」


優斗の髪は柔らかいなと言って乾かしてる。キョトン…としたけど、お腹がすいていてスプーンが止まらなかった。


食べ終わったら眠くなって…僕はその場で寝てしまった。



2008年11月09日、目が覚めたら小林さんのベッドを占領していた…




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