137_僕とプースカ好きの兄さんと仕事好きの父さん
僕の名前は広瀬優斗18歳、男、彼女なし。アルバイトは雑誌モデル。高校3年生
10月11日――
21時過ぎ、プースカのパジャマを着て小林さんの話を聞く。
「優斗がお父さんのことで悩んでるのは気づいてた。だから大学受験のことを広瀬さんに話してしまって…本当に悪かったと思ってる。広瀬さんに話したらチームを抜けるって優斗と約束してたのに…俺はチームを抜けないでくれってお前に頼んで…自分勝手なことをしたと反省してる」
「反省なんて必要ありません…僕こそ…自分勝手な真似をして…大会に出られなくなるなんて…」
ずっと悩んでいた…大会に出場できなくなることを…。
「大会で優勝するのが小林さんの夢だって言ってたのに…僕が小林さんの夢を叶えるんだってあの時、誓ったのに…その僕が小林さんの夢を壊す結果になるなんて…」
小林さんはティッシュケースを持って来る。
「優斗…今から気味の悪いことを言うけど…聞いてくれ」
僕はティッシュで涙を拭いながら思う。
(気味の悪いこと…?小林さんがそのセリフを言うときって僕の褒め言葉が始まる時だよね…?)
「今日初めてGUNを見た時…優斗と初めて対戦した日を思い出した。優斗の圧倒的な強さに魅了されて、ワクワクして、ドキドキして、胸の奥が締めつけられた…俺はお前に…夢中になったんだよ…」
「僕に夢中…?」
「そうだよ…名前も知らない高校生に夢中になって…熱は冷めなくて…どんどん夢が膨らんで…毎日すごく楽しくて…夢が持てるのも優斗がいるからで…」
「僕がいるから…夢を描ける…?」
「そうだよ…俺の夢はお前と大会で優勝することだって…ことだよ…言ってて恥ずかしい…アイスを食べよう」
小林さんはキッチンへ逃げつつ僕の心配をしてくれる。
「…目を冷やした方がいいよな…?保冷剤も用意するから待ってて」
はい、と頷きココアを飲んだ。
寝る時間になると小林さんは一緒にベッドで寝ようと言う。
「俺…そんなに寝相悪くないし、イビキもかかないと思う」
断わったら小林さんは一人でベッドに入る。
「優斗が…チームを抜けないでくれて…ひとまず嬉しい…」
「…はい…」
「…今回の交流会の活動変更…広瀬さんが関係してるのかなと思ったけど…俺は…活動内容を変更…してもいいし……大会に出られなくても…いいんだ……優斗が…俺のチームに…いてくれることが……俺にとったら…一番のベストだ…から…」
「…はい」
「だ…けど……俺の夢のことで…お前を…悩ませて……いるとは……わる…かった……な…ゆ…う…」
小林さんはそのまま眠ってしまった。
「悪くないです…」
メガネをそっと外してサイドテーブルに置く。
「僕は…小林さんの夢の話しが聞けて良かったです…」
部屋の明かりを消してドアをしめた。
ソファに横になる。今日は長い一日だった…紗希さんのことを考えると重苦しいけど、小林さんが近くにいると考えるだけで少しだけ気持ちが和らぐ。
(それに…「僕に夢中」ってワードは…グッとテンションをあげてくれた…)
兄さんって本当に最高だな、目をつぶりながら思う。
10月15日――
バイトの休憩中、ハル兄から電話がかかってくる。
『もしもし~ユウ君?今日はライアと撮影でしょ?大丈夫?』
「はい、大丈夫です。ハル兄がライアさんに言ってくれたんですね?効果バツグンです」
『そっか~良かった…と言いたいところだけど…一応ユウ君に知らせておこうかと思って電話したんだ…ライアのことで…』
嫌な予感がして返事ができなかった。
『…聞きたくなさそうだね~。それじゃあ…匡宏に言おうか~?』
「やめて下さい、言わないでください、僕に言って下さい」
(ライアさんのことを小林さんに言うなんてノー絶対にノー。阻止、絶対に阻止)
フフッ、楽しそうにハル兄が笑う。
『ライアに言ったんだよ…僕の大好きなユウ君をイジメちゃダメだよって…そしたら交換条件を出されて…』
「それは…どんな条件ですか…?」
『トレジャーバトルを教えてほしいって言われた』
(教えてほしい…?ライアさんが…?)
『適当に相手しようと思ってたけど…筋が良くて教えてて楽しいんだよね…だから本気で教えてあげようかなって思ってるところ~』
「そう…ですか…」
「伸びしろあるし…ゆくゆくはユウ君のライバルになるかもよ…?」
「…分かりました」
近い未来を想像するとテンションが下がる。ライアさんとライバルになる可能性があるなんて…。僕がモデル活動を終えても縁が切れないのは残念だ。
『そうそう~ユウ君に良いこと教えてあげるよ~。誕生日プレゼントだと思って受け取って~』
「…なんでしょうか?」
『これ聞いたらユウ君はもっと僕のこと好きになると思うな~』
「なんでしょうか?」
『匡宏ってプースカが好きでしょ?』
「プースカ…?はい…かなり…」
『どうしてプースカが好きだと思う?』
「…分かりません」
『それはねぇ~プースカがユウ君に似てるから好きなんだよ』
「…はっ?」
『プースカが羽をパタパタさせて怒ってる姿、たまに見せる笑顔、ボッーとしている姿とかね、全部がユウ君と重なって見えるんだって。見てて和む、癒される、可愛い、可愛いって無表情で言うんだよ~。この間なんてね~』
ハル兄の話を聞く。信じられなかった。小林さんはプースカのことを単なるキャラクターとして好きだと思っていた。
「僕、ハル兄のことがもっと好きになりました」
『でしょ~フフフッ。じゃ、近いうちに泊まりに来てね~』
「はい…」
電話を切る。
(プースカが好きな理由って…僕に関係してたんだ…)
色々と思い出してみる。プースカについて小林さんがなんて言っていたか。
バイトの休憩時間ということを忘れて没頭していたら、遠藤さんが姿を現す。
「お~い、そろそろ撮影再開するぞ…って、どうした?…なぜ泣いている?」
「あれ…?ホントだ…涙が出てる…?」
(プースカのことを思い出してたら、笑えて涙が出てきたのかな…?)
部屋に置いてあるティッシュを掴み、お化粧のセットが崩れないように拭う。
「優斗……誰かに何かを言われたか…?もしかして…小林君か…?小林君の仕業なんだな…?」
「そんな、違います…。ただ目にゴミが入っただけで…もう大丈夫ですから…」
遠藤さんの誤解です、と説明してスタジオに戻る。
ドッドッドッドッドッドッド…。
(心拍数が異常だ。深呼吸して落ち着こう)
近くにライアさんがいるから気を張らないと…と思うけど、すぐに頬が緩んでしまう。
「広瀬君、いい笑顔だね~いいよ~自然な微笑だね~」
カメラマンさんにいいよ、って言ってもらえて良かった。
10月17日――
今日はバイト帰りに、小林さんとお寿司を食べる約束をしていた。
小林さんは撮影スタジオの喫茶スペースで待っている、と言うので仕事が終わったら急いで支度する。
なぜ急ぐ必要があるのかと言われたら、ライアさんが小林さんを見つけて2人で話していたら嫌だなと思ったからだ。
素早く着替え、喫茶スペースに向かうと、小林さんはライアさんと話していた。しかもライアさんは、ライアスマイルを浮かべながら小林さんに何か渡している。
(また小道具使って小林さんをノックアウトしてのかな…?)
呆れ顔を作るとライアさんが僕の方にやってくる。優等生顔に切り替えて、お疲れ様でした、と告げる。
「…なんだよ、何か言いたそうだな」
「いいえ、いつも同じ(小道具使って相手を落とす)パターンだなと思っただけで」
「フンッ、次は違うパターンを見せてやろうか?」
「いいえ、結構です。失礼します」
ライアさんとの会話なんて不毛なだけだ、僕は小林さんに駆け寄る。
「小林さん、このDVDは…?」
「あぁ、これ…これは…トレバト夏季大会のだよ」
小林さんは素早くDVDを鞄に入れて出口へと僕を促す。
「さぁ、寿司を食べに行こう。俺、楽しみにしてたんだよ」
「はい…」
お寿司を食べ終わった後、小林さんの家にお邪魔する。
ライアさんが撮影したトレバト夏季大会が気になっていて、さっそくDVDを観ようと提案する。
「三脚使って撮影したって話しだから、手ブレがなくて見やすいな」
小林さんが言うように見やすくて編集もしてあった。
(ライアさんって動画の撮影にも詳しいんだ…もしかしたら兄さんとカメラトークもできるんじゃ…?)
試合に集中できなくなりそうだったけど、「ドッグタグ」対「青い淡水魚」の試合が白熱し過ぎてて引きこまれた。
「すごいな…不破さんも…平田さんも…」
ソファ席から身を乗り出して画面を観ている小林さんをチラッとみる。やっぱり大会で優勝したいという小林さんの夢は僕が叶えたい。そのために交流会の活動内容の変更はやめようとハッキリ思えた。
父さんに反抗するのが目的なら大学進学だけでもいいんじゃないかな、と思うのだ。
「あぁ…不破さん負けちゃったな…だけど楽しかった…」
「はい…やっぱりトレバトは対戦が面白いですね…」
「だよな…」
今度、タイミングが良い時に話そう。テレビ画面に釘付けになっている小林さんを見ながら思う。
それからバイトが忙しくなり、小林さんに交流会の活動内容の変更はしない、と伝えられないまま11月に入った。
そんなある日、バイトの撮影の休憩中、知らない番号から電話がかかって来た。どうしようかな…と迷ったけど、出ることにした。
『優斗か、僕だよ』
「…父さん?」
父さんとはずっと口を聞いてなかった。こうやって話すのはいつ振りだろうと考える。
『ずっと連絡しなくてごめん』
「別に…」
『今日な、トレジャーバトル4の制作発表会に宮永紗希さんが来たよ』
「…宮永さんが?」
『あぁ、それで、お前のことを聞かれたんだ。トラのマーチのことも…。それで優斗が何か誤解して…』
僕の話しかと思ったらトレバトの話だった。父さんはいつもそうだ…生活費の話か仕事の話か、ただそれだけ…。
少しだけ期待してた。
僕のことを心配して電話してくれたのかなって…雑誌を見たよ、とか…ドラマを見たよ、とか…友達ができたのか、とか…。
父さんが僕に興味を示すことなんて…僕を心配することなんて今まで一度もなかったのに…また期待するなんて僕はなんて間抜けな生き物なんだろう。
「…いまさら電話なんて、どういうつもり?」
電話を持つ手が震える。
「僕が今までどれだけ我慢してきたか分かってる…?」
(分からないよね、この人は一生分からない…僕の悲しみなんて…)
「…もう連絡しないで」
電話を切る。
2008年11月8日、僕は何のためにバイトしているんだろう…何のために生きているんだろう…




