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<ハノキア踏査編> 93.作戦

93.作戦


 “動きあり。L-α K”


 雪斗(スノウ)のスマホに瀬良呉人からメッセージが入った。


 (Kは呉人のKか。L-αって何だ?Lは‥‥ラボか。αとは?‥‥まさかアルファテスト?!)


 「早すぎるだろ!」


 雪斗(スノウ)は部屋のボードにある時間軸のチャートを見た。


 「約8年後におれはネツァクからこの世界( マルクト)にやって来る。その時が丁度アルファテストが始まった頃だ。今アルファテストをやるとなると8年早まっている事になる。これはおかしい‥‥まさか何かが原因で歴史が変わってしまったのか?」


 雪斗(スノウ)は時間軸チャートをじっと見つめている。


 「仮に歴史が変わってしまったとしても予定調和の収束ポイントに至るまでには辻褄合わせが行われるはずだが、8年ものギャップを埋められるものなのか?」


 雪斗(スノウ)は顎に手を当てながら思考を巡らせた。


 (焦るな‥‥きちんと整理しよう。おれがネツァクからマルクトへ来た際のアルファテストはネツァクへ行くものだった。ネイツァーク・ファンタジオン・プロトのアルファテストだ。だが今はまだネツァクにも繋がっていないはずだし、前作のネイツァーク・ウォリアーズも今現在では存在しない。ということはアルファテストとと言ってももっと前のものって事になる。つまりこれから8年かけてネイツァーク・ファンタジオンのアルファテストに行き着くという流れには大きな影響はないのかもしれない)


 雪斗(スノウ)は年表に自分の記憶を頼りにこれから起こるはずの事象をポストイットに書いて貼り始めた。


 「L -αの意味がラボでアルファテストが計画されているという意味ならおれはこの年表が正しいものかを確認しなければならない。明日呉人に会う時に聞いてみる‥‥だな」


・・・・・


ーー翌日ーー


 雪斗(スノウ)は出社し自席についた。


 「おやおや一睡も出来なかったようですねぇ。顔がムンクの叫びのように真っ青で悲痛なものになっていますよ。凛々しいお顔が台無しだ。まぁ凛々しかろうが、悲痛な顔であろうが貴方の絶望的な人生に影響はないのでご安心下さい。それより最近頭応留美と仲が良いようですが、勘違いすると痛い目を見ますよ?何せ貴方のような "おっさん" にあのような若く美しい才女が振り向くはずもありませんからね。きっと利用されて捨てられるだけです。三神さんにはそれがお似合いかもしれませんがね」


 相変わらず出社と共に桑田向の執拗な心を抉る囁きが続く。

 再び慣れてきたこともあり雪斗(スノウ)は完全に無視していた。

 呉人に会うのはおそらく22時以降と思われた。

 時間の指定はないが、日中に会うと変に勘繰られるリスクが生まれる。


 (何らかの連絡が入るはずだ。呉人のことだから抜かりないと思うが‥‥一旦通常業務に励むか)


 桑田向の心抉りトークを軽快に無視しつつ雪斗(スノウ)は業務を続けた。

 夕方、スマホを見るとメッセージ入っていた。

 

 (また暗号かよ)


 23時にとあるホテルの一室に集まることになった。

 用意周到な呉人は自身と頭応留美、雪斗(スノウ)3人それぞれ別のホテルを実名で予約し、チェックインしたらそのまま指定のホテルへ来てもらい足がつきにくくする段取りをとっていた。


 「また面倒なことしてくれたな」

 「いつどんな手段でダンが見るか分からないからね」

 「それにしてもホテル離れすぎてるだろ。こんな時間になってるじゃないか」

 「まぁいいじゃない三神くん。私は三神くんと一緒にいられるのは楽しいわよ」

 「う‥」

 「おやおや頭応さん、君も遂に女性になったんだねぇ」


 カーッ


 頭応留美の顔が急激に赤くなった。

 それを見て雪斗(スノウ)も顔を赤らめた。


 「まぁ分かるよ。3Gさんてさ、なんか凄みがあるんだよね。見た目歳より若く見えるし、そこそこイケメンだってのもあるけど、そういうのと次元の違う肝座りしてるよね。そういう頼り甲斐あるところに頭応さんみたいな女性は惹かれるんだね。もうセックスはしたの?」

 『はぁ?!そんなわけ‥‥』


 雪斗(スノウ)と頭応留美は同時に困惑顔でハモりながら言った。


 「あはは!いい大人を揶揄うのは面白いよ」

 「お前なぁ!」

 「もう!いいから早く本題に入りなさいよ!」

 「はいはい、分かったよ」


 呉人は椅子に座って足を組んだ。


 「送ったメッセージの通りだよ。近々ラボでアルファテストが行われるらしい」

 「それは本当なの?私が知らないのにどうして呉人くんがそんな情報を入手出来るの?」

 「僕はプログラマーだからね。しかもとびきり優秀な。間も無くネイツァーブラストっていうVRMMORPGがユーザーテストに入るんだけど、それにミネルデバイスが導入されるらしいんだよね。その情報は会社の秘匿フォルダの中にあってさ。おそらくダンも知らないレベルだよ」

 「だが、キーはミネルデバイスだろ?彼女やダンの研究が最も重要なはずだが、ふたりが知らないっていうのはおかしい。(ジャバ)だってそこは分かってるはずだ」

 「三神くんの言う通りよ。そして正確に言うならまだアルファテスト出来る状態にはないわ。一体何をもってテストが出来ると思っているのかしら」

 「その通りだよ。技術的にはあと一歩の状態だけど、その一歩の差がでかい。とてもじゃないけどアルファテスターに名乗り出る人は死刑囚くらいなものだね。だが上層部はそう考えていない。IITT社を買収しいち早く収益化したいんだろう。今の経営陣も長く居座っている老害ばかりだからね。株主に何か進展を示したいんだろうね」

 「くだらない奴らだな!人の命に関わるかもしれないっていうのに!」


 雪斗(スノウ)は拳を強く握った。

 

 (結局頭応留美やダン、ジャバがネツァク侵略の首謀者だと思っていたが、それだけじゃねぇな。老害ども‥‥どの世界も一緒か‥‥)


 ス‥


 「三神くん‥」


 頭応留美は優しく雪斗(スノウ)の手を握った。


 「ああ、すまない‥」


 頭応留美は前回同様雪斗(スノウ)が拳を強く握りすぎて出血するのではと心配したのだが、それを知った雪斗(スノウ)は頭応留美に優しく微笑んだ。


 「それでさ。どうする?止める?それとも静観する?」

 「静観と言っても私はダンと共に納期のプレッシャーを受けるだろうから静観なんてしてられないほど慌ただしくなるし、死人が出る可能性もあるから、思い切り当事者になるわね」

 「デバイスが完成しないことを主張してアルファテストを阻止するってのはどうだ?」

 「無理だろうね。どの会社も上層部は自分でやる難しさを忘れて思いつきの理想論言ってればいいってなるから言うことを聞くことはないよ。寧ろデバイス開発をダンや頭応さんから取り上げるかもしれないね」

 「どの会社も、いやどの組織も無能な老害は必ずいるもんだな」

 「それでどうするの?研究者の立場から止めることは難しいとなれば、何か別の方法が必要だわ」

 「僕にいい考えがあるよ」


 呉人は作戦を説明し始めた。


・・・・・


 数日後、頭応留美は本部長の(ジャバ)に呼び出された。


 「頭応君、これは極秘事項なんだがね。実はあなたたちの研究するデバイスを使ったVRMMORPGをいよいよ上市する段階に移行することが決定したんだよ。それでデバイスを使ったアルファテストを行うことも決まったんだ」

 「でもまだデバイスの実用化には至っておりません。時期尚早です」

 「俺は反対したんだよ?でもなぁ、上に奴らがなぁ。何とかしないと、ね!留美ちゃん」


 (ジャバ)は頭応留美の肩に手を回し抱き寄せようとした。


 「仲本部長。それ以上は私も社内に報告しなければならなくなります」

 「ちっ!まぁいい、しっかりと頼んだよ」

 「‥‥‥‥」

 「何してんの早く出て行きなさいよ。あなたにはデバイスの早期実用化っていう大きなタスクがあんだから!トロトロしてんなって」

 「失礼しました」


 どこまでも毅然とした態度の頭応留美に仲鬼使密は機嫌を損ねたのか、頭応留美を追い出して執務室の扉を閉めた。


 (気持ち悪い人ね本当に。三神くんに執拗なパワハラを繰り返している時点で人として認めることは出来ないのだけど、このセクハラも容認出来ないわ。然るべき報いを受けさせなければならないわね)


 仲鬼使密の執務室の扉を睨むようにして腕を組みながら想像の中で仲鬼使密を社内のコンプラ会議にかけ、糾弾している様子を想像していた。

 するとそこへとある女子社員が怯えながら仲鬼使密の執務室の扉の前にやって来た。


 (あの子確か新入社員の‥‥)


 コン‥‥コン‥‥


 「何だまだ何か用があるのか?あなたはさっさと‥‥おお、君か!ささっ入りたまえよ。名前は確か明里ちゃんだったね、ぐへへ」


 スー‥‥


 仲鬼使密はイライラした口調で扉を開けたがそこに新人の女子社員が立っているの気づくと気持ち悪いいやらしい表情で新人を中に引き入れて扉を閉めた。


 (完全にアウトね。本来なら訴えるのだけど、ごめんなさい、ここで事を荒立てると今後の動きに支障が出てしまうから‥‥)


 頭応留美は険しい表情でそのままその場から立ち去った。

 1ヶ月後仲鬼使密の執務室に呼ばれて入って行った新人女子社員は退職した。


・・・・・


 さらに1ヶ月後、アルファテストの実施が決まった。

 頭応留美は世紀の大発明にして歴史が大きく変わる瞬間として、上層部に状況を報告した。

 そしてアルファテスターを選定しなければならない旨も説明したのだが、アルファテスターになることにより、ネイツァーブラストが発売された際にほぼチート状態でスタート出来るメリットも説明に加えていた。

 本来社外には漏らしてはならない話なのだが、役員など上層部は自分たちの子や孫をアルファテスターにするようにと権力を翳して押し付けて来た。


 (さすが呉人くんね。彼の筋書き通りに進んでいるわ)


 頭応留美は2ヶ月前、3人で立てた作戦を思い返していた。


・・・・・

 

 「ネイツァーブラストが世界に電脳世界というもう一つの世界を示し、歴史を覆すほどのテクノロジーで、その世界でいきなり超優位に立てる存在になれるなんていう餌を撒いたらバカな老害たちは自分の子供や孫をアルファテスターにしたがるじゃない」

 「確かにな」

 「でもまだそのテクノロジーは人の体から脳を取り出さないと10時間で死ぬよっていうものだけど、2-3時間で死ぬとか言えばさ、老害どもは中止ってなるでしょ?」

 「でもそれじゃぁ解決にならないんじゃないか?」

 「いえ、いい案だわ三神くん」

 「何故だ?」

 「この技術を問題なく使える状態にするには人の実験体が必要なのよ。それを老害たちに突きつければいいのよ。実装に向けた研究のためには人から脳を取り出して色々と試し分析し改良する必要があるって主張するわけ」

 「なるほど!そうなれば判断出来ない無能な老害たちは皆黙って研究を君やダンに押し付ける。そうなればアルファテストは君たちのペースで実施出来るようになるってわけか」

 「その通りだよ3Gさん。さすが飲み込み早いね」

 「いや、ふたりの頭脳の方が異常に回ってておれは色々と自信をなくすよ」

 「そんなことないわ三神くん。三神くんほど肝の座った人はいないし貴方がいてくれるから私たちは無茶が出来る。そんな存在なのよ三神くんはね」


・・・・・


 頭応留美はその時の雪斗(スノウ)の照れ臭そうな表情を思い出して少し幸せな気持ちになった。


 そしてアルファテスト当日。

 子や孫がいる役員は全員出席していた。

 中には役員自らアルファテスターになると言い出して参加する者までいた。

 十数個の豪勢なソファが並び、それぞれに大きく特殊なヘッドギアが置かれている。

 その上には大きなスクリーンが設置されていた。

 不破賀がマイクを持って話し始めた。


 「役員の皆様、そしてアルファテスターに選ばれた皆様、本日はご参集頂きありがとうございます。私はデバイス研究開発課課長であり開発の責任者でもある不破賀輝久と申します。今回のアルファテストは今後発売を予定しておりますネイツァーブラストというVRMMORPGの一部の世界へこのデバイス、名付けてミネルデバイスのプロトタイプを使用してダイブして頂きます。ダイブと言っても今までのようにゴーグルをつけて視界に映し出し、ヘッドフォンで音を届けると言った如何に没入を促すかという次元のものではありません。意識が完全に体から抜けて電脳世界のアバターに転送されます。その世界ではアバターを通してアバターの目で見てアバターの耳で音を聞きアバターの鼻で匂いを嗅ぎアバターの肌で風を感じる事が出来るのです。当然転べば痛みも感じます。ですが、現実世界ではあり得ない物理限界を超えることも可能となります」


 「例えばどんなことだ?」


 役員の孫と思しき10歳程度の少年が横柄な態度で質問して来た。

 不破賀は一瞬顔を顰めたが説明を続けた。


 「例えば空を飛んだり、電車を持ち上げたりと言ったことです」

 「目からビームとかだせねーのか?」

 「い、今のところはそのような機能は実装出来ておりませんがいずれ実装は出来るでしょう」

 「何だよ、チート機能もらえるっつーから楽しみにしてたのにつまんねーな!お前もしかしてそういう想像力ない無能な社員?クビにするぞ?」

 「次回までには反映しておきます‥‥」

 

 不破賀は顔を引き攣らせながら答えた。


 「それではこれからアルファテストを開始しますがその前に誓約書にサインして頂きます」


 不破賀の指示で部下たちが誓約書を配り始めた。

 未成年のテスターについては親族である役員がサインする形をとった。

 すると誓約書を読んだ者たちがどよめき始めた。


 「何だこれは?!」

 「こんなものにサインなど出来るか!」


 誓約書にはこう書かれていた。


 "ミネルデバイスを使いネイツァーブラストの電脳世界へとダイブするには精神体を肉体から分離し、電脳世界のアバターへと転送することになる。その際、現実世界に戻れなくなる可能性がある。そのため長時間絶対に使用しないこと。もし守れない場合は電脳世界から精神体が現実世界の肉体に戻れなくなり事実上死亡することになるがその責任の全てはご自身にある事を認め、他者にその責任は一切問わないことをここに誓約する"


 「こんなの詐欺だろ!」

 「ふざけんなよ!こんな技術で俺らをテストに使うんじゃねぇよ!」

 「そうだ!今すぐ改善をしなさい!」

 「電脳世界では生きられんだろ?だったらいいんじゃね?」


 不破賀が部下に指示してスクリーンに映像を映し出した。

 スクリーンには頭部をくり抜かれた猿が映っていた。

 その横には人工心肺装置と幾つものケーブルがが繋がれた脳がカプセルに入っていた。


 「現在肉体から脳を摘出し、精神体に肉体が死んだことを認識させれば電脳世界でも長時間、生き続ける事が出来ます」

 「おえぇぇ‥‥」


 グロテスクな映像によって方々で嗚咽が聞こえ始めた。


 「何で‥だよおぇぇ‥電脳世界では生きられんじゃないのかよ‥‥クソが!」

 「精神と肉体は深く繋がっています。精神体を体から分離させても完全に切ることは出来ないのです。いえ、切ることは出来ますが、切ったら肉体には戻れない。従って精神体に肉体が死んだと認識させる必要があるのです。よってこのように体から脳を摘出して電脳世界にダイブさせているわけです。お分かりいただけましたか?」

 「ちゅ、中止だ‥‥おえぇぇ」


 アルファテストは中止となった。

 


いつも読んで頂きありがとうございます。

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